
である「痛み」に関するデータを脳波から測定し、数値化および可視化することで、他人との共有を目指す
★要点
触覚・味覚・動作など“主観のデータ”を、ネットワーク越しに変換・共有するNTTドコモの人間拡張基盤「FEEL TECH」。6G時代の提供価値として、2020年代後半に限定サービス、2030年頃の本格展開を見据える。
★背景
高齢化・人手不足・遠隔化が進む社会で、経験や勘、痛みや心地よさのような主観を伝送できれば、教育・医療・エンタメ・ECは一段深いUXへ。通信は“情報”から“体験”の輸送へと役割を拡張する。
言葉と映像だけでは届かないものがある。NTTドコモは、人の感じ方に合わせて感覚や動作を変換・共有する「人間拡張基盤®」を公開した。触覚・味覚・動作をネットワークでやり取りし、他者の体験を自分の身体で追体験する。6Gの文脈で磨かれる“体験の通信”の原型だ。
触覚を“翻訳”して届ける——職人の手触りから映像の感情まで。
受け手の触覚の感度特性に合わせて刺激量を調整し、同じ「ザラつき」や「柔らかさ」を共有する。職人でしか判別できなかった微妙な違いを素人が理解し、昔の手触りを想起させ、ECで生地の手触りを“試着”する。映画のキャラクターが感じた痛みや温度も、触覚として添付する。感覚を均質化するのではない。各人の“感じ方”に合わせて変換し、意味を届ける設計だ。

味覚と動作も共有——“五感×身体”でコンテンツが拡張。
味覚は個人差が大きい。ドコモは受け手の味覚感度を踏まえた味の共有手法を示し、メタバース体験や映像作品に“作者が伝えたい味”を付与する構想を語る。動作共有では、人とロボットの体格差や骨格差を比較し、その差分を補正して自然な動きを再現。大きな動作から繊細な手技を再構成することで、教育・技能伝承・リハビリに効く。
6Gで“わかり合う”社会基盤へ——Wellbeingを掲げるロードマップ。
目指すのは、感動や記憶までを結ぶ新しいコミュニケーション文化。6Gの主要ユースケースとして、2020年代後半に限定サービスを開始し、2030年頃の本格展開へ。産学と連携し、福祉・教育・遠隔支援など社会課題の解決にも資する“人間拡張”の公共性を打ち出す。
産業インパクト——EC、エンタメ、医療・介護、観光。
ECは触覚が加われば“質感返品”が減る。映画やライブは五感演出で没入度を底上げ。医療・介護は、痛みや不快を定量・共有できれば適切なケアに近づく。観光は地域の味や体験を遠隔配信し、訪日動機を高める。ハードはセンサーとアクチュエータ、ソフトは個人差を埋める変換モデル。鍵はプライバシーと倫理だ。痛みの共有は悪用リスクと背中合わせ。本人同意・目的限定・強度上限など、通信品質と同じ粒度で“人権のガバナンス”が要る。
実装の条件——標準化・ID化・“体験の著作権”
普及には、感覚データの表現形式、個人感度プロファイルのID化、装置の相互運用、そして“体験の著作権”の整理が欠かせない。誰かの技能や味覚レシピを配信するなら、使用許諾・収益分配・改変範囲をどう定めるか。コンテンツ産業の知財設計がそのまま五感へ拡張される。
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“感じるデータ”を扱う都市OS——信頼と倫理を先に組み込む
◎感覚や体験をやり取りする通信では、スピードや安定性だけでなく「どう使われるか」を決める仕組みが欠かせない。
たとえば、どれだけ正確に感覚を再現できたか、個人の感じ方にどこまで合わせられたか、不快な刺激を防げたか、利用者の同意をどう記録・管理するか——。こうした要素を早い段階から共通の基準として整えることが、社会に安心して受け入れられる条件になる。
自治体・医療・教育などが参加する横断的な協議の場を設け、匿名化や目的ごとの利用ルールを先に決めておく。
6G時代の“感じる通信”は、技術だけでなく倫理と信頼を同時に設計することで初めて、本当の意味での社会基盤になっていく。
取材・撮影 柴野 聰
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