
★要点
2026年9月、建物やものづくりを長く続けるための発表が相次いだ。京都の八清は、昭和62年築のビルについて、検査済証の取得と構造補強、用途変更を伴う再生事例を発表。群馬県みなかみ町では、明治31年築の古民家を改修した「里山カメラ館」が9月12日に開館した。
大林組の研修施設「Port Plus」では、香りの空間デザインを担当した企業が、その内容を公表。漆に触れる催しや、残糸を活用するニット、余剰の果皮と規格外果実を使う食品も発表された。
共通するのは、既存の資源を生かしながら、使い方を更新しようとする姿勢だ。ただし、古い建物や設備を残せば自動的に循環が生まれるわけではない。何を継承し、何を直し、何を入れ替えるのか。その判断まで含めて、長く使うための設計になる。
★背景
検査済証を確認できない建物では、増改築や用途変更に向けた法適合状況の調査が課題になる。ただし、書類がないことだけで直ちに使用不能になるわけではなく、「書類の紛失」「交付を受けていないこと」「既存不適格」「違反」は区別する必要がある。
一方、建物の寿命は構造の耐久性だけで決まらない。新しい用途を受け入れられるか、使い続ける人や運営の仕組みがあるか。今回の事例は、その条件を考える材料になる。
1784年創業のJOHN SMEDLEYも、創業当時の機械をそのまま動かし続けてきたのではない。公式沿革には、工場の拡張や新しい機械への投資が記録されている。受け継ぐことと更新することは、対立しない。
検査済証を確認できない。
それは、建物の使い道を変えようとしたときに、手続きを難しくすることがある。
9月15日、京都の八清が発表した「中古ビル再生」第一弾は、そうした課題を抱えていた1987年築のビルを、構造補強や用途変更によって再生した事例だった。同社は、検査済証を取得したと説明している。
同じ月、群馬では築120年を超える古民家が、歴史的なカメラと写真に出会う場所になった。横浜の木造研修施設では、香りも含めた使い心地の工夫が紹介された。英国の老舗ニットブランドは、残糸などを活用した新しいコレクションの日本発売を10月2日に予定する。
建てることを、すべてやめる話ではない。
使い続けるために、どこを変えるのか。その設計の話である。
検査済証がない建物を、制度の側から見直す
検査済証は、建築基準法に基づく完了検査を経て交付される書類だ。建物の現況を把握するときの重要な記録だが、その有無だけで、現在の建物の適法性や安全性がすべて決まるわけではない。
国土交通省の「既存建築物の現況調査ガイドライン」は、まず検査済証の交付状況や工事着手時を調べ、現地調査を行う道筋を示している。紛失した場合にも、行政の台帳などから交付の事実を調べられることがある。
八清の発表によると、今回のビルは、検査済証が存在せず、耐震性にも課題があった。同社は、検査済証の取得、耐震改修促進法に準じた構造補強、飲食店・店舗・事務所などを想定した用途変更を実施したと説明している。再生工事は2026年7月に完成した。
ただし、公表資料には、検査済証の交付に至る詳しい手続きまでは記されていない。現地調査や図面復元だけで、どの建物でも新たに検査済証を取得できるという一般論にはできない。法適合状況をまとめた調査報告書も、検査済証そのものとは別の書類である。
また、既存不適格とは、建築後の法令改正などによって現在の規定に適合しなくなり、一定の規定の適用が除外されている状態をいう。検査済証がないことと同義ではない。
再生で手当てするのは、壁や床だけではない。建物の状態を調べ、その履歴を整理し、必要な改修や手続きを組み合わせる。使い続けるためには、書類と現物の両方を管理する必要がある。

出典:株式会社八清プレスリリース
用途を替えて、使い継ぐ
群馬県みなかみ町の「たくみの里」に、9月12日、「古民家ギャラリー 里山カメラ館」が開館した。明治31年、1898年に建てられた古民家を全面改修した施設だ。発表は9月17日。建築年から数えると、2026年でおよそ128年となる。
館内には日本カメラ博物館所蔵の歴史的なカメラが展示され、カメラ・オブスキュラや暗室を活用する体験も用意された。古民家の空間と、写真の歴史を伝える道具が、新しい文化拠点で出会う。
これは、既存の建物に異なる用途を与えて使い続ける、アダプティブ・リユースの事例として読める。ただし、保存と運営を、入場料収入だけで説明することはできない。この施設の入館料は無料だ。
また、たくみの里は、みなかみ町の発表によれば年間約50万人が訪れる地域である。この数字は新しいカメラ館の年間来館者数ではなく、地域全体の規模を示すものだ。今回の施設は、既存の観光や体験の集積に、写真文化への入り口を加える。
長く使う仕組みは、一つではない。入場料や賃料を得る施設もあれば、公的な支援や組織間の連携によって文化を伝える施設もある。大切なのは、建物を残した後に、誰が使い、誰が維持し、どう運営を続けるかを考えることである。

出典:群馬県みなかみ町プレスリリース
長く使いたくなる空間を考える
横浜市にある大林組の研修施設「Port Plus」は、高さ44m、地上11階建ての高層純木造耐火建築物だ。2022年に完成が発表された建物であり、2026年9月に新築されたわけではない。
今回のニュースは、プロモツールが9月25日に公表した、8階研修室の香り空間デザインである。植物や自然環境音を取り入れた空間に、オリジナルの香り「グリーンプランツ」を空調ダクトから届ける。木材から自然に立ち上る香りだけで構成した演出ではない。
木造建築を、炭素の数字だけでなく、利用する人の体験から捉える試みとして興味深い。ただし、この発表が、香りによって建物の寿命が延びたことまで実証したわけではない。使い心地と維持管理を結びつけるのは、今後の設計や運営で検討したい視点だ。
木造の高層化については、シェルターが2025年に公表した高さ110mのシミュレーションモデルもある。そこで示された18,600tという値は、木材中の炭素貯蔵量をCO2に換算した「18,600t-CO2」であり、炭素そのものの重量でも、完成済みの建物で測った実績でもない。
また、木造であるだけで、将来すべての部材を容易に再利用できると決まるわけではない。長く使い、必要な箇所を交換するための納まりや、解体後の扱いまで、個々の建物で検討したい。
新築と既存建物の活用は、単純な二者択一ではない。これから建てるものにも、使い続けるための選択肢をどれだけ残せるかが問われる。

出典:プロモツール株式会社プレスリリース(Port Plus/大林組)
塗り直しながら使う、という文化
建物から、身近な素材へ目を移す。
堤淺吉漆店が9月25日に発表したのは、「漆祭|URUSAI 2026」。11月1日から14日まで、漆に関わる催しをつなぐ14日間だ。
主催は漆祭実行委員会。京都の堤淺吉漆店とUnd.をメイン会場とし、京都市内の会場や各地の登録イベントを結ぶ。中心となる会場がなく、世界各地の催しだけで構成する形式ではない。
漆を使ったものは、状態や用途に応じて修繕しながら使い継ぐことを考えられる。祭りが用意するのも、完成品を買う機会だけでなく、素材やつくり手、使い方に触れる接点である。
ただし、漆製品ならすべて同じ条件で直せるわけでも、どの製品にも石油由来の材料が一切使われていないと断定できるわけでもない。素材の由来、製法、修繕方法を個別に知ることが大切だ。
修繕履歴を記録し、次の使い手へ渡す。これは、使い継ぐ文化をさらに支える方法として考えたい。今回の発表で、そうしたデジタル記録事業が実施されていると確認されたわけではない。
242年、同じ場所で変わり続ける
英国のJOHN SMEDLEYは、1784年創業。2026年で242年となる。
日本の輸入元、リーミルズ&カンパニーは9月24日、初のディフュージョンライン「JS×JOHN SMEDLEY」の日本発売を10月2日に開始すると発表した。工場で保管されていた残糸や在庫などを活用するコレクションだ。一部商品は11月発売予定で、全品が10月2日にそろうわけではない。
この発表だけから、「242年前の機械が残っているから、少量の糸を製品にできる」とは言えない。公式沿革には、19世紀の機械導入や工場拡張、その後の新技術への投資が記録されている。
続いてきたのは、機械の同一性ではなく、製造を担う場所と技術を受け継ぎながら、時代に合わせて事業を変える営みである。
残糸を利用する商品と、長く続く工場。この二つの事実は重要だ。ただし、古い設備や建物を保存したことが、今回のアップサイクルを直接可能にしたという因果関係は、公表資料からは確認できない。
むしろ、長く使うことを「更新しないこと」と同一視しないほうが、この会社の歴史に合っている。残すべきものを受け継ぐために、必要な部分を変える。新しいコレクションも、その延長として捉えたい。

出典:株式会社リーミルズ&カンパニー/JOHN SMEDLEY
余った皮と、規格外の実を組み合わせる
最後に、一瓶の食品へ。
コープこうべが9月24日に発表したのは、神崎郡神河町産のゆず皮の余剰品と、淡路島産の規格外レモンの果汁を使ったマーマレードだ。確認できるのは、使う果実が兵庫県産であること。砂糖などを含む全原材料が県産という発表ではない。
果汁を搾った後に余るゆず皮と、外観上の傷などによって規格外となったレモン。その二つを、県内の事業者と連携して商品にした。
容量140g、本体価格398円、果実含有率26%。発表では「2026年10月2回」の宅配カタログに掲載し、2027年2月頃から店舗でも扱う予定とされている。10月2日から店舗の棚に並ぶという意味ではない。
ここで見るべきは、原料を余さず使おうという意識だけではなく、製品にするための連携だ。生産者、加工する事業者、商品開発を担う生協、宅配という販売経路がつながる。
ただし、余剰原料を使ったことと、製造から流通まで含めて環境負荷がどれだけ減ったかは、別に評価すべき問いである。循環の工夫を伝えるときにも、確認された範囲を大切にしたい。
残すものと、更新するものを設計する
六つの話を並べると、スケールはビル一棟からマーマレード一瓶まで広がる。
既存の建物を調べ、必要な手続きを整える。古民家に新しい用途を与える。空間の使い心地を考える。修繕の文化に触れる機会をつくる。残糸や余剰原料を、製造と販売の仕組みに乗せる。
共通するのは、いまあるものを出発点に、次の使い方を考えていることだ。
ただし、いつも既存設備が先にあり、その後に循環のアイデアが生まれるとは限らない。新しい製品や循環の構想に合わせて、設備や仕組みを整える道もある。長寿命化が、どの条件でも最安になるわけでもない。
それでも、将来の選択肢を残すという問いは持てる。状態を調べるための記録があるか。直すべき箇所に手が届くか。用途や使い手が変わっても対応できるか。更新すべき設備まで、無理に古いままにしていないか。
長く使うとは、何も変えないことではない。
残すものと、更新するものを見極める。その仕事まで含めて、「建て替えない」という設計を考えたい。
参考:
八清|検査済証取得・構造補強を伴う中古ビル再生第1弾(2026-09-15)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000040189.html
みなかみ町|古民家ギャラリー 里山カメラ館の開館(2026-09-17)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000042.000123774.html
プロモツール|Port Plusの香り空間デザイン(2026-09-25)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000303.000023783.html
リーミルズ&カンパニー|JS×JOHN SMEDLEYの日本発売(2026-09-24)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000039.000107930.html
堤淺吉漆店|漆祭 URUSAI 2026の開催発表(2026-09-25)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000135619.html
コープこうべ|ゆずレモンマーマレード(2026-09-24)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000036.000154476.html
国土交通省|既存建築物の現況調査ガイドライン 第5版(2026-09)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/002021290.pdf
JOHN SMEDLEY公式|Company History(工場・設備更新の沿革)
https://www.johnsmedley.com/en-jp/discover/
シェルター|高さ110m純木造超高層ビルのシミュレーション(2025-07-15)
https://shelter.inc/news/nf3vdfdz-hx3
国土交通省|検査済証のない建築物に係る法適合状況調査ガイドライン(2014-07。報告書と検査済証の区別を確認するために参照。現行の調査手順はC7)
https://www.mlit.go.jp/common/001046525.pdf
大林組|Port Plus完成発表(2022-05-20)
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220520_1.html
FAQ
Q. 検査済証とは何ですか?
A. 建築基準法に基づく完了検査を経て交付される書類。現況調査で重要な記録になるが、それだけで将来にわたる安全性や改変後の適法性を保証するものではない。
Q. 検査済証がない建物は、もう使えないのですか?
A. 書類の有無だけで一律に決まるわけではない。まず交付の有無や工事の時期、建物の現況を調べる。紛失と未交付を区別し、建築士や確認検査機関などと必要な調査・手続きを検討する。
Q. 調査をすれば検査済証を取得できますか?
A. 現況調査や法適合状況調査の報告書は、それ自体が検査済証になるものではない。八清は検査済証の取得を発表しているが、具体的な交付手続きは公表資料では分からないため、他の建物にも同じ道筋を適用できるとは断定できない。
Q. アダプティブ・リユースとは何ですか?
A. 既存の建物に異なる用途を与えて活用すること。必ず入場料や家賃で修繕費を賄う方式だけを指すわけではない。里山カメラ館は入館無料である。
Q. 「Port Plus」は2026年にできた建物ですか?
A. 違う。大林組は2022年に完成を発表している。2026年9月の発表は、プロモツールによる香り空間デザインの紹介だ。
Q. 高さ110mの木造モデルの「18,600t」とは何ですか?
A. シェルターが2025年に発表したシミュレーションモデルで、炭素貯蔵量をCO2に換算した18,600t-CO2を指す。炭素そのものの重量でも、完成済み建物の実測値でもない。
Q. 漆なら、どんな製品も同じように修繕できますか?
A. 製品の素地や塗装、損傷状態などで対応は異なる。素材や製法を知り、つくり手や修繕の専門家に確かめながら、使い継ぐ方法を考えたい。
Q. 「漆祭|URUSAI 2026」はいつ、どこで行われますか?
A. 11月1日から14日まで。京都の堤淺吉漆店とUnd.をメイン会場に、各地の会場や登録イベントをつなぐ。主催は漆祭実行委員会である。
Q. JOHN SMEDLEYは創業時の機械を使い続けているのですか?
A. 少なくとも、「242年間同じ機械を使ってきた」とは言えない。公式沿革には新しい機械や技術への投資が記されている。長く続く工場と、設備を更新しないことは別の話だ。
Q. 今回のマーマレードは、全原材料が兵庫県産ですか?
A. 発表で確認できるのは、果実に兵庫県産のゆず皮とレモン果汁を使うことだ。全原材料が県産とは記されていない。取り扱いは2026年10月の宅配カタログから予定されている。
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