
★要点
人口約4万人、面積の約8割が森林という岡山県真庭市が、生ごみ・し尿・浄化槽汚泥をメタン発酵させ、ガスと液体肥料に変える仕組みを実装した。2025年に稼働した「くらしの循環センター」が、その中核である。
出てきた消化液は100%農地に還元されている。しかも遠心分離、UF膜、電気透析という3つの工程で濃縮し、窒素濃度を約0.3%から約2.0%まで高めた。ドローンで散布できるところまで持ってきた。
分別は16種類。資源になるものはすべて無料。分ければ分けるほど家庭のごみ処理代が安くなり、行政のコストも下がる。市民が我慢しているのではなく、得をする設計になっている。
「処理から資源化へ」。真庭市が転換した理由は、環境意識よりもまず、お金と人口の現実だった。
★背景
自治体にとって、一般廃棄物の処理は法律上の義務である。市民が出すごみも、事業活動に伴わないごみも、市町村が処理しなければならない。そしてこれには多額の費用がかかる。
真庭市の場合、3つのごみ焼却施設とし尿処理施設で、年間約9億円。焼却で約7億円、し尿処理で約2億円。一方、ごみ袋の手数料収入は6,000万〜7,000万円程度で、負担の約1割にすぎなかった。残りは、見えないコストとして市民全体で割り勘されていた。
人口は減っているのに、ごみは減らない。過剰包装や世帯分離といった要因で、これは全国的な傾向でもある。人口が減れば税収も減る。何も生まないごみ処理を続けることは、持続可能ではない。
燃やすごみは、集めて、燃やして、灰を埋めて、その後も長く水を管理し続ける。すべての工程にコストがかかる。ならば、燃やす量そのものを減らす——それが出発点だった。
「一自治体の、すごくミクロな取り組みなので、少し頭を切り替えていただけたらと思います」
壇上に立った岡山県真庭市産業観光部 農業振興課長の藤田浩史氏は、そう前置きして笑った。直前の基調講演は、残された炭素から供給可能な素材量を逆算する、地球規模のマクロな話だったからだ。
だが、ミクロと言いながら、示された数字は具体的で、手ざわりがあった。
家庭系生ごみ、1日あたり約3.8トン。し尿・浄化槽汚泥、約86トン。メタン発酵槽の容量、約1,500立方メートル。発電、1日あたり約2,469キロワットアワー。濃縮バイオ液肥、約0.66トン。
そして、水稲の反当たり収量。バイオ液肥で585キログラム、慣行栽培で495キログラム。
数字は、循環が実際に回っていることを示していた。
燃えるごみの49%は、生ごみだった

真庭市は、岡山県の北部にある。鳥取県と接する中国山地の中の、典型的な中山間地域だ。2005年に9か町村が合併して誕生し、面積は約828平方キロメートル。東京23区の1.3倍にあたる。森林率は約8割で、木材産業が発展してきた。
人口は約4万人。2019年の45,349人が、2023年には42,102人まで減った。毎年700〜800人ずつ減り続けている。一方、ごみ処理量は13,666トンから12,734トンへ。減ってはいるが、人口の減り方に比べれば緩やかだ。
では、何から手をつけるか。
真庭市が着目したのは、量の多い「燃えるごみ」だった。1年間のごみの85%が燃えるごみ。その中身を重量ベースで見ると、生ごみが49%、リサイクル可能な紙が21%、プラスチックが14%を占めていた。焼却が本当に必要なものは、16%にすぎない。
つまり、生ごみと紙とプラスチックを燃やさなければ、焼却施設は一か所に集約できる。焼却灰も減り、最終処分場の負担も減る。
「集める、燃やす、埋める、そして管理する。燃やすごみ処理は、すごくお金がかかるんです」(藤田氏)
方針は「燃やす」から「減らす」「生かす」へ。有機性のものはメタン発酵させ、ガスと液体肥料に生まれ変わらせる。それが真庭市の選んだ道だった。


分けたほうが、得をする
市民の行動をどう変えるか。真庭市の答えは、精神論ではなく制度設計だった。
生ごみは、袋ではなく専用のプラスチック容器で出す。台所の三角コーナーの中身を、そのまま入れる感覚に近い。市内約1,500か所のごみステーションに容器が常設され、24時間365日いつでも出せる。回収は週2回、3トンの専用車6台が巡る。
一方、燃えるごみは有料だ。45リットルの袋が1枚66円。回収は週2回で、それ以外は家に置いておくしかない。
「生ごみを66円の袋に入れるか、タダでいつでも出せるステーションに持っていくか。分けるインセンティブが働きます」
分別は16種類。資源になるものはすべて無料である。プラスチック製容器包装も、透明な袋に入れて出せば0円。分ければ分けるほど、家庭のごみ処理代は下がる。同時に、行政のごみ処理コストも下がる。
「面倒くさいことを我慢してやっていると思われるかもしれませんが、私の周りの人は私と同じ感覚です。なんか、分けないと気持ち悪いんですね」
藤田氏は、出張でホテルに泊まると分別できないことにモヤモヤする、と苦笑した。習慣は、制度によってつくられる。


メタン発酵槽の中で起きていること
集められた生ごみは、し尿・浄化槽汚泥とともに「くらしの循環センター」へ運ばれる。2025年に稼働した施設だ。
受け入れ量は、家庭系生ごみが1日あたり約3.8トン、事業系生ごみが約1.0トン、し尿・浄化槽汚泥が約86トン。生ごみは破砕され、汚泥は夾雑物を除去したうえで、メタン発酵槽に入る。
発酵槽の容量は約1,500立方メートル。空気を嫌う嫌気性のメタン菌が、約30日かけて有機物を分解する。槽内は35℃程度の中温に保たれる。寒くなるとメタン菌の活動が鈍るため、発生したガスで発電し、その際に出るお湯で槽を加温する。温めればメタン菌が元気になり、ガスがまた出る。
発生したバイオガスは容量400立方メートルのガス貯留装置へ。25キロワットのガスエンジン6台が、1日あたり約2,469キロワットアワーを発電し、場内で使われる。
そして残るのが、メタン発酵消化液である。
多くの地域では、ここでつまずく。「発電したい」という相談で真庭市を訪れる自治体は多いが、そのほとんどが消化液の行き先に困っている。水処理して流す、あるいは撒ききれずに困る。畜産系のバイオガス施設でも、濃縮まで手をつけている例は少ない。理由は単純で、コストがかかるからだ。
真庭市は、そこを越えた。
0.3%を、2.0%にする
従来のバイオ液肥は、窒素濃度が約0.3%しかなかった。水稲の元肥に使うなら、10アールあたり約4トンを撒く必要がある。運搬も散布も、量が多ければそれだけ手間とコストがかかる。
真庭市は、遠心分離、UF膜、電気透析という3つの工程を組み合わせて濃縮した。凝集剤は使っていない。肥料として使うものだからだ。
まず遠心分離で固形分を分け、脱水汚泥を取り出す。残った液を UF膜に通して水分率を下げると、アンモニア態窒素濃度が約0.6%の「バイオ液肥」ができる。これは市内に置かれたバイオ液肥スタンドで無料配布されている。
さらに電気透析でアンモニア態窒素だけを狙い撃ちで濃縮したものが「濃縮バイオ液肥」。濃度は約2.0%。固形分がほとんどないため、散布機械のノズルが詰まりにくく、ドローンでも撒ける。
濃縮施設への流入量は1日あたり約22トン。そこから脱水汚泥が約2.9トン、バイオ液肥が約1.36トン、濃縮バイオ液肥が約0.66トン生まれる。2種類の液肥はいずれも肥料登録を済ませている。
技術は、市外の複数の企業との出会いから組み上がった。市内・県内といった行政区の縛りはない。
「たまたまのご縁です。いろいろな企業さんとの出会いがあって、その技術を組み合わせて、ハードを整えました」


ドローンが撒き、米が実る
真庭市は田んぼが多い。濃縮バイオ液肥は、水稲の元肥として使われている。
散布は、代かき前にドローンで行う。積載量70キログラム、1回の飛行時間は約20分。タンクとポンプをセットで整備し、10アールあたり窒素8キログラムを標準施肥量として設定した。散布にかかる時間は10アールあたり約10分である。
2024年の実績は約3ヘクタール。2025年は約20ヘクタールに広がった。翌年はさらに増える見込みだという。
真庭農業普及指導センターの実証試験では、品種「きぬむすめ」で、バイオ液肥区の収量が10アールあたり585キログラム、慣行栽培区が495キログラムという結果が出た。ただし藤田氏は、液肥の成分にブレがあって施肥量が慣行より多くなったこと、高温で慣行肥料の溶出が早まり追肥の重要性が高い年だったことを、正直に注記した。単純な優劣ではなく、条件を含めて読むべきデータである。
コスト面の差は明快だ。濃縮バイオ液肥を元肥に使えば10アールあたり2,000円、追肥にバイオ液肥を使って500円。合わせて2,500円。これに対し、慣行の一発肥料は7,880円。
窒素分の多い液肥は、一度撒けばそのシーズンは追肥不要という「一発肥料」の代替になりうる。
用途は米だけではない。真庭市はお茶の産地でもある。茶は窒素を多く必要とする作物で、茶価が高い現在、コスト削減の効果は大きい。ほかにも酪農の牧草地、キャンプ場の野芝、市役所の庭木や芝生にも使われている。市役所裏の駐車場では、液肥を撒いた芝生ゾーンと撒いていないゾーンの緑の差が、写真ではっきりと見て取れた。
消化液は、100%農地に還元されている。脱水汚泥も珪藻土と混ぜて土壌改良材に使われているが、「もっといい方法がないか、まだ考えている途中」だという。



反対はあった。だが、無くなった
住民の合意は、どのように形づくられたのか。
シンポジウム終了後、本誌の取材に応じた藤田氏は、そのプロセスを率直に語った。
「最初は反対というか、抵抗の意見はありました」
転機になったのが、バイオ液肥スタンドである。液肥を無料で持ち帰れるタンクを市内の数か所に置いた。強制ではない。使いたい人が、使いたいだけ持っていく。徐々に使う人が増え、「別にいいじゃないか」という肯定の意見が増えていった。
「今は、反対派がいるという関係ではないです」
もう一つ、真庭市の特徴として藤田氏が挙げたのは、この取り組みが行政主導で始まったものではないという点だ。
木質バイオマス発電は、木材関連の事業者が自分たちの業界から出る副産物を何とかしようというところから始まり、行政と組んだ。生ごみのバイオマスも、市内の廃棄物事業者が「処理処分する時代から、生かす時代だろう」と考え、事例を踏まえて提案し、行政が乗った形である。
もっとも、総論賛成・各論反対は避けられなかった。施設をどこに建てるかという段階では、賛否の意見が出た。
また、真庭市は木質バイオマスと生ごみバイオマスという2つの柱を持つが、両者は政策として統合されているわけではない。木質は林業関係の部署が、生ごみは環境課(入口)と農業振興課(出口の肥料)が分担して担っている。「バイオマス産業都市」という大きな旗の下で、2つの施策が並走している格好だ。
きれいに統合された絵ではない。だが、回っている。
売られているものしか、選べない
真庭市の歩みは長い。
1992年、地元の若手経営者が集った「21世紀の真庭塾」が設立され、1997年に「2010年の真庭人の一日」を報告。豊かな森林資源を背景に「木を使いきるまち」を目指すことが盛り込まれた。2006年にバイオマスタウン構想に選定され、バイオマスツアーが始まる。2015年に真庭バイオマス発電所が稼働。2018年SDGs未来都市、2020年ゼロカーボンシティ宣言、2022年に第1回脱炭素先行地域に選定。そして2025年、くらしの循環センターが稼働した。
30年をかけて積み上げてきた循環である。
パネルディスカッションの最後、藤田氏が参加者に投げかけたのは、消費者としての限界についてだった。
「多くの人は、消費者の立場が大きいと思うんです。お店で売っているものしか買えない。それが過剰包装であろうが、無駄なものがあろうが、なかなか選べない」
だからこそ、企業に環境に優しいものやサービスを新しくつくってほしい、と藤田氏は言う。消費者がエシカルな選択をできるようになれば、ごみも減る。長く使えるものも増える。市町村のごみ行政は、出てきたものをどう処理するかという後手に回りがちだ。売られているものが変われば、世の中が変わる。
あわせて、循環でできたものが評価される仕組み、税制面での優遇があれば、地域内の循環はもっと加速するだろうとも述べた。
真庭市は、有料の「真庭SDGsバイオマスツアー」を運営している。物質だけでなく、経済も循環させたいという意図がある。
「ぜひ来て、泊まって、お金を落として、施設も見ていただけたら。私のミッションが達成できます」
会場が笑った。だがこれは、地域循環の本質を突いた冗談でもある。
FAQ
Q. メタン発酵とはどのような仕組みですか?
A. 酸素のない環境で、嫌気性のメタン菌が有機物を分解する反応である。真庭市では約35℃に保った発酵槽で約30日かけて分解し、メタンガスと消化液(液体肥料)を得ている。
Q. 消化液(バイオ液肥)とは何ですか?
A. メタン発酵の後に残る液体で、窒素・リン・カリウムなどの肥料成分を含む。真庭市ではこれを遠心分離・UF膜・電気透析で濃縮し、アンモニア態窒素濃度を約0.3%から約2.0%まで高めている。
Q. なぜ多くの地域で消化液が課題になるのですか?
A. 量が多く、そのままでは肥料成分が薄いため、運搬と散布に手間とコストがかかるからである。撒く農地が確保できず、水処理して排水する例も多いが、処理費用は高い。濃縮はコストがかかるため実施例が限られる。
Q. 真庭市の分別は市民の負担にならないのですか?
A. 分別すればするほど家庭のごみ処理代が下がる設計になっている。資源になるものは無料で、生ごみは24時間いつでも出せる。一方、燃えるごみは有料袋で週2回のみ。経済的なインセンティブが働く仕組みである。
Q. バイオ液肥で栽培した米の収量はどうでしたか?
A. 実証試験では10アールあたり585キログラムで、慣行栽培の495キログラムを上回った。ただし液肥の成分にブレがあり施肥量が慣行より多くなったこと、高温年で追肥の重要性が高かったことが影響しており、条件を踏まえて読む必要がある。
Q. ドローンでの散布はなぜ可能になったのですか?
A. 濃縮の過程で消化液中の固形分を取り除いたためである。固形分がなければ散布機械のノズルが詰まりにくく、ブームスプレイヤーなどの農業機械やドローンでの散布が可能になる。
Q. 住民の反対はなかったのですか?
A. 当初は抵抗の意見があった。市内数か所に無料の「バイオ液肥スタンド」を設置し、使いたい人が徐々に使う中で肯定的な意見が増えていったという。施設の立地をめぐっては賛否の議論もあった。
Q. 真庭市の取り組みは行政主導で始まったのですか?
A. 生ごみのバイオマスについては、市内の廃棄物関係の事業者が「処理処分する時代から生かす時代へ」と提案し、行政がそれに乗る形で進んだ。木質バイオマス発電も、木材関連事業者の発意が起点になっている。
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