
★要点
髙松グループの中核企業で、世界最古の企業としても知られる金剛組が、宮大工の伝統技術を応用し、小径木を束ねて大径木のような強度を持つ「束ね材」を開発し、特許を取得。釘や接着剤を使わず「契(ちぎり)」だけで木材を結束するこの技術は、分解・再利用も可能な循環型建材となる。
★背景
日本の人工林は伐採適期を迎えながらも、採算性の問題から放置され、森林の健全性が失われつつある。一方で、社寺建築の修繕に必要な大径木は枯渇し、調達が困難に。この「余っている小径木」と「足りない大径木」という林業と伝統建築が抱える二つの課題を、宮大工の知恵と技術で同時に解決する。
日本の森と、伝統建築の未来が、一本の「契(ちぎり)」で結ばれようとしている。世界最古の宮大工集団として知られる金剛組が、細い木を束ねて太い柱に再生する新技術「束ね材」を開発した。釘や接着剤に頼らず、木と木の組み合わせだけで強固な構造体を生み出す、古くて新しい知恵。それは、放置された人工林に新たな価値を与え、失われつつある伝統建築の技を、未来へと継承するための、静かなる発明だ。
余る「小径木」と、足りない「大径木」
日本の国土の約7割を占める森林。その4割は、人の手で植えられた人工林だ。しかし、林業の採算性の問題から、伐採すべき時期を迎えた多くの人工林が放置され、森は荒廃しつつある。その結果、市場には比較的安価な「小径木」が溢れる。 一方で、金剛組が手掛ける寺社仏閣の建立や修繕には、巨大な「大径木」が不可欠。だが、こうした木材は年々希少になり、価格は高騰、加工できる製材所も減っている。この、林業と伝統建築が抱える“需給のミスマッチ”という大きな課題に、宮大工の技術が光を当てた。
釘を使わず、「契」で束ねる——分解・再利用も可能な循環建材
金剛組が開発した「束ね材」は、複数の小径木を束ね、その結束に「契(ちぎり)」と呼ばれる小さな木片だけを用いる。釘やボルト、接着剤を一切使わないため、金属の錆による腐食の心配がなく、木材本来の耐久性を最大限に引き出す。 さらに、この工法は分解・再利用が容易であるという、現代的な価値も持つ。将来、建物を解体する際には、部材を傷つけることなく取り外し、別の場所で再利用できる。まさに、宮大工の伝統技術が、現代のサーキュラーエコノミーの思想と融合した瞬間だ。強度面でも、同じ断面積の無垢材を上回る性能を持つという。


宮大工の“手仕事”を守ることが、森のサイクルを守る
この技術は、単に建材を生み出すだけではない。宮大工という「手仕事」の価値を再認識させ、その安定的な雇用を守ることにも繋がる。職人が仕事を続けられる環境が、伝統技術の継承を可能にし、ひいては文化財の維持にも貢献する。 そして、小径木に新たな需要が生まれれば、放置された人工林の適切な伐採と植林が促され、森林の健全なサイクルが回復していく。宮大工の技が、森を育て、文化を守る。金剛組の挑戦は、脱炭素社会で再評価される木造建築の未来に、新たな可能性を示している。
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