NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が推進するグリーンイノベーション基金事業の一環として、日本郵船とIHI原動機が開発したアンモニア燃料タグボート「魁(さきがけ)」が、東京湾での実運航による3カ月間の実証航海を完了した。そして曳船業務を行いながらの今回の航行で、最大約95%の温室効果ガス(GHG)削減を記録。海運業界のカーボンニュートラル実現に向け、技術革新の大きな転換点を示した。

「実用燃料」としてのアンモニア、世界初の実航証明が示した次世代船の可能性。

海上輸送の脱炭素化は、世界的な気候危機への対応として待ったなしの課題。中でも、従来の重油に代わる燃料として期待されてきたのが、燃焼時にCO₂を排出しないアンモニアである。しかし腐食性・毒性の高さや燃焼効率の課題から、これまで実用化には慎重な姿勢が続いていた。
この状況を打破すべく2021年にNEDOが立ち上げたのが、「次世代船舶の開発/アンモニア燃料船の開発」プロジェクトだ。そして日本郵船とIHI原動機はこのプロジェクトで「アンモニア燃料国産エンジン搭載船舶の開発」に挑戦し、2024年8月にアンモニア燃料タグボート「魁」を開発・竣工した。
今回、「魁」は日本郵船グループの新日本海洋社によって、東京湾で実際の曳船業務を担いながら航行し、その中で、アンモニアと重油を混焼する運航データを取得。負荷率ごとのGHG削減効果を測定した結果、負荷率100%時にはアンモニア混焼率95.2%、GHG削減率94.0%を記録し、最低負荷域でも90%超を達成した。これほど高精度かつ高水準の削減効果が実用現場で立証されたのは、世界初の快挙と言える。
この成果は、アンモニアが理論上の選択肢ではなく、実際の海運業務において「使える燃料」として成立することを証明した。この技術を搭載した船舶が今後本格的に普及していけば、船舶からのGHG排出は劇的に抑制されることになり、2050年のカーボンニュートラル目標に向けて、今回の実証航海は海運分野における「技術的ブレイクスルー」と呼べるだろう。

2026年、アンモニア輸送船の商用化へ。産業連携が進める海洋脱炭素の未来。

また「魁」の成功は、単一船種にとどまるものではなく、現在同じくGI基金事業(※1)の枠組みで、日本郵船、ジャパンエンジンコーポレーション、IHI原動機、日本シップヤードの4社によって、アンモニア燃料を動力源とするアンモニア輸送船の開発が進められている。竣工は2026年11月を予定しており、本格的な商用展開を見据えた動きが加速している。
「魁」は今後も東京湾における曳航業務を継続しながら、運航データの蓄積と実用技術のブラッシュアップを図っていく。今回の実証航海を節目とした記念式典では、NEDO、日本郵船、IHI原動機、日本海事協会のほか、国交省、経産省、横浜市などの関係者が出席し、官民連携で技術革新を支える体制が披露された。
アンモニアという燃料の可能性を、理論ではなく実証で示した「魁」。持続可能な未来の実現に向け、海の上から始まるエネルギー革命が、いま静かに確実に進んでいる。

※1 GI基金事業
事業名:次世代船舶の開発/アンモニア燃料船の開発/アンモニア燃料国産エンジン搭載船舶の開発
事業期間:2021年度~2027年度
事業概要:次世代船舶の開発
https://green-innovation.nedo.go.jp/project/development-next-generation-vessels/scheme/

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