ダイキン工業発のスタートアップ、DK-Powerが開発・展開するマイクロ水力発電システムが、全国約60カ所の上水道施設で稼働している。目に見えない都市の「川」=水道管の中を流れる水のエネルギーを電力に変えるこの技術は、CO₂削減と安定電源の両立を目指す社会の新たな突破口となるかもしれない。

高コスト・大型化の壁を越え、上水道インフラを再生可能エネルギー源へ。
水道管の中を流れる水…、一見すると何の変哲もないこの“見えない川”が、今、再生可能エネルギーの新たな担い手として注目されている。仕掛け人は、ダイキン工業が立ち上げたスタートアップ、DK-Powerだ。
マイクロ水力発電とは、発電出力が100kW以下の小規模な水力発電で、上水道や工業用水道施設、プールの循環水処理などから発生する水流のエネルギーを活用する技術。再生可能エネルギーの中でも太陽光や風力に比べて稼働率が高く、安定供給が可能という特徴を持つ一方で、従来は発電規模に対するシステムの高コストと大型化が普及の足かせとなっていた。
こうした課題に対してDK-Powerは、ダイキン工業が長年にわたり空調機器や油圧機器の分野で培ってきた「モーター・インバーター技術」を応用。発電機とコントローラを一体化し、縦型インラインポンプを水車として使用するという大胆な発想で、設置スペースとコストを大幅に削減した小型パッケージ型システムを実現した。
このシステムは、都市部の限られたスペースにも容易に導入可能で、設置場所の選択肢を大きく広げている。加えて、流量や電圧変動への柔軟な対応や遠隔監視による運用最適化といった「見える化」技術も組み込まれており、実用性と持続可能性の両面で高く評価されている。
各地域で実績を上げ始めている、マイクロ水力発電。
すでに富山県南砺市や福島県相馬市、兵庫県神戸市などの上水道では「マイクロ水力発電」が導入されており、一般家庭数10〜100数十軒分の年間電力を賄う実績を上げている。とりわけ神戸市では稼働率95%以上を誇り、年間211メガワット時の発電が見込まれているという。
マイクロ水力発電の最大の強みは、ダムや大規模な工事を必要とせず、既存のインフラを活用してクリーンな電力を生み出せる点にある。日本国内に張り巡らされた上水道網という“見えない川”は、これまで見過ごされてきたエネルギー資源だ。
原発停止以降、火力発電への依存が高まり、CO₂排出量が逆に増えているという現実がある中、マイクロ水力発電は、持続可能な電力供給と環境負荷低減の両立を可能にする技術として注目を集めている。
今後、全国各地の自治体やインフラ管理者との連携を通じてこのシステムが広がっていけば、「使われずにいたエネルギー」が「都市の新たな電源」へと転換される日も近い。