ちとせグループ(本社:シンガポール)は、微細藻類から得られる炭化水素を用いて、100%バイオ由来のPET樹脂(ポリエチレンテレフタレート)の製造に世界で初めて成功した。バイオエコノミーを加速させる産業横断プロジェクト「MATSURI」の成果として誕生したこの新素材は、化石資源に依存せず、太陽光とCO₂のみを起点とした持続可能なPET製造を可能にする。完成した藻類由来PETは、2025年大阪・関西万博の日本政府館で一般公開されている。

「食べずに育てる」資源循環社会へ。光合成と藻類が切り拓く新たなものづくり。
プラスチックごみの問題が世界的に深刻化するなか、次世代の素材開発において“いかに化石資源を使わず、環境負荷を下げるか”は重要な命題になっている。中でも、清涼飲料水や衣料、化粧品容器などに幅広く使用されるPET樹脂のバイオ化は長年の課題。PETは「エチレングリコール」と「テレフタル酸」からなるが、後者の原料であるパラキシレンのバイオ製造は技術的に困難とされてきた。
今回、ちとせグループはこの壁を越えた。光合成でCO₂を吸収し炭化水素「ボツリオコッセン」を生成する微細藻類に着目し、その炭化水素を特殊触媒によって熱分解することで、効率的なバイオパラキシレンの製造に成功した。従来の植物由来糖を原料とするプロセスに比べ、化学変換工程が少なく、可食原料も使わない点が大きな強みだ。
さらにこの成果を支えたのが、ちとせグループが長年培ってきた「微細藻類の屋外大量培養技術」。光とCO₂、そして水だけで成長する藻類を安定的に大量生産する技術は、資源競合を避けつつ、持続可能な原料供給を可能にした。これにより、藻類由来PETのスケールアップに必要なバイオマスの確保が現実のものになった。
「使えば使うほどCO₂を減らす」未来素材、まずはペットボトルから社会実装へ。
今回開発された藻類由来PET樹脂は、まずペットボトル成形への応用を目指すが、その用途は多岐にわたる。化粧品容器、繊維製品、さらには食品包装材など、石油由来プラスチックが占めてきた領域を、環境配慮型の代替素材が代替する時代が迫っている。
2025年の大阪・関西万博では、日本政府館のファクトリーエリアで「『藻』のもの by MATSURI」と題した展示が行われており、藻類由来PETのペレットやプリフォームが公開されている。これは単なる技術展示ではなく、「バイオを基点とする新しい社会」のビジョンを提示する場でもある。
ちとせグループは今後も技術開発と社会実装を並行しながら、「使えば使うほどCO₂が減る素材」の実現を追求していくという。これは単なるプラスチック代替ではなく、サーキュラーエコノミーの中心となる基盤技術の確立を意味する。シンガポールを本社に構え、川崎市に研究開発拠点を置く同グループは、国や企業と連携しながら、「千年先まで人類が豊かに暮らせる環境を残す」ことをミッションとして掲げている。
