焼き芋やスイーツで人気の「さつまいも」にいま、大きな変化が起きている。背景にあるのは地球温暖化。従来、主産地であった鹿児島など温暖地域の一部で品質低下が見られる一方、北海道や東北など冷涼地での栽培が本格化しつつある。気候変動はさつまいもの育つ“北限”を塗り替え、日本の農業地図にも地殻変動をもたらし始めている。

鹿児島から北海道へ? さつまいも栽培地の“北上”が意味すること。
さつまいもといえば、南九州。中でも鹿児島県は全国一の生産量を誇り、「紅はるか」「安納いも」といった高糖度品種で知られてきた。ところが近年、この“さつまいもの王国”にも異変が起きている。高温や多雨による病害リスク、さらには「基腐病(もとぐされびょう)」と呼ばれる感染症の広がりにより、収穫量の不安定化や品質低下が深刻化しているのだ。
一方で、これまで栽培に不向きとされていた北海道・東北などの冷涼地において、新たなさつまいも農業が芽吹き始めている。北海道ではすでに、砂地や火山灰地といった条件を活かし、「北の大地の紅はるか」など地域ブランド化の動きが進行中だ。冷涼な気候は病害虫のリスクを下げ、収穫後の貯蔵・熟成にも好条件となる。また農業王国・十勝では、温泉熱を育苗に活用した、時代の先を行くさつまいも栽培も成功を収めている。
このように、さつまいも栽培の“北上”は単なる地理的変化ではなく、気候危機に適応しようとする日本農業の構造転換を象徴している。
広がる“さつまいも食”の熱気。千葉と札幌で「さつまいも博」開催へ。
こうした産地変動と並行して、消費地では「さつまいも」をテーマにしたイベントも盛況だ。なかでも注目を集めるのが、千葉県と札幌市でそれぞれ開催予定の「さつまいも博」である。
千葉では8月7日から10日まで幕張メッセで『夏のさつまいも博2025』を開催。全国から選び抜かれた人気焼き芋店やスイーツショップが出店し、“ねっとり系”や“ほくほく系”など、個性豊かな味わいを楽しむことができる。特設ステージでは生産者によるトークや焼き芋の食べ比べ体験も行われ、来場者にとっては産地の“今”を知る貴重な機会となりそうだ。

-1024x885.jpg)
一方、札幌では9月5日から7日まで、「札幌おいも万博2025」がサッポロファクトリーホールで初開催される。出店店舗は全国の有名焼き芋専門店を中心に多数出店。北海道内で生まれた新品種や、道内産さつまいもを使ったスイーツなども登場する予定で、「北海道が次のさつまいもフロンティアである」というメッセージを来場者に届ける場にもなるだろう。


気候と嗜好が変えるさつまいもの未来、“嗜好作物”から“気候作物”へ。
かつて「さつまいも」は飢饉や戦時中の代用食というイメージが根強かったが、今やその甘さや栄養価、美容・健康効果に注目が集まり、若い世代やインバウンド客を中心に人気が再燃している。SNSでも“焼き芋ブーム”は定番化しつつあり、冷やし焼き芋や干し芋、スイートポテト専門店など多様な展開が広がっている。
だがその裏で、気候変動により栽培地の南北バランスが崩れ始めており、「嗜好」だけでなく「適応」の観点からも作物としての戦略が見直されつつある。農業者にとっても、単なる作物の移植ではなく、品種改良、栽培技術、保管体制、ブランド構築まで含めた“さつまいも農業の再構築”が迫られているようだ。産地と消費地が連携し、気候に適応した新たな農業モデルを築くこと。それが、変化の時代を生き抜く「さつまいも」の未来なのかもしれない。
夏のさつまいも博のサイトはこちら
https://imohaku.com
札幌おいも万博2025のサイトはこちら
https://www.uhb.jp/event/oimo2025/