山梨県富士吉田市を舞台にした国内唯一のテキスタイルアートイベント「FUJI TEXTILE WEEK」が、2025年11月22日から開幕する。今回のテーマは「織り目に流れるもの」。繊維のまちとして知られるこの地域に、国内外から精鋭のアーティスト9組が集結し、かつての織物工場や問屋建築を会場に、土地の記憶や文化の層を掘り下げる作品群が展開される。目に見える織りの表層を越え、その下に流れる無数の「見えない力」に迫る試みが始まる。

テーマは「織り目に流れるもの」、伏流水のような記憶や感覚をアートで可視化。
「FUJI TEXTILE WEEK 2025」のテーマは「織り目に流れるもの」。織物の規則正しいパターンの下には、目には見えない音や手のリズム、土地の気配、記憶といった感覚の層が息づいている。今回のアート展では、こうした「伏流水」のような文化の深層を浮かび上がらせることが狙いだ。
アート展のディレクターは森美術館元館長であり、複数の国際展で総合ディレクターを務めた南條史生さん。キュレーターにはハーバード大学出身の丹原健翔さんが就任し、若手から実力派まで、多彩な作家陣を迎えた。
参加アーティストは日本国内から8組、海外から1組の計9組。里山と都市、アナログとデジタル、自然と人工、個と群衆など、多層的なテーマを作品に織り込む彼らは、現地のフィールドワークを経て富士吉田の文化的土壌に新たな視点を持ち込む。展示会場には、織物業全盛期の工場や問屋の建物が再活用され、記憶と素材が交錯する空間が出現する予定だ。


繊維のまち・富士吉田が、新たなアートの交差点に変貌する。
かつて日本有数の織物産地として栄えた富士吉田。近年では人口減少や産業構造の変化に直面しながらも、文化的資源を活かした再生が模索されてきた。「FUJI TEXTILE WEEK」はその象徴的な取り組みであり、地域と芸術の共創を軸に独自の発展を遂げている。
前回2023年の開催では、大巻伸嗣さん、落合陽一さん、清川あさみさんら著名作家が参加し、地域に根差した作品が高い評価を得た。今年も、ジャカード織機や粘菌培養、仏教思想、デジタル表現など、多様な表現手法を持つ作家がそろい、織物とアートの境界を押し広げる作品群が期待される。
海外からは、台湾のテキスタイルスタジオ「Pieces of Jade」が参加。素材の記憶や文化的断片を織り交ぜるその作品は、郷愁と移動の感情をテーマに、布を通して無形の記憶を紡ぐ。
「見えないもの」と向き合う、地域文化を更新する装置としてのアート。
「FUJI TEXTILE WEEK」は、地域の産業・歴史・風土のなかに眠る潜在的な記憶を呼び起こし、新たな文脈で編み直す「文化の織機」としての役割を果たす。つまり地域社会が抱える課題や、都市と地方の関係、表現者と観客の距離、そうした現代的な問いにも向き合う場となっている。
今回のイベントは11月22日から12月14日まで、下吉田本町通り周辺を中心に開催される。歴史ある町並みを歩きながら、布と光、音と記憶が織りなす現代アートに出会う。これは、訪れる者にとっても「見えないもの」と向き合う良い時間になるはずだ。今秋の富士吉田は、織物とアートの融合が生み出す新たな文化の震源地になるだろう。


