
★要点
東急リゾートタウン蓼科で、トヨタのEV「e-Palette」をタウン内循環バスとして本格運用。予約不要・無料で主要拠点を結び、移動の不便を“体験の質”に変える狙いだ。
★背景
観光地のサステナビリティは「自然がある」だけでは成立しない。広い敷地ほど、短距離移動が排出と負荷を増やす。脱炭素・生物多様性・地域共生を掲げるなら、移動そのものを設計し直す必要がある。
森のリゾートは歩けば気持ちいい。だが、広いリゾートほど「歩けない距離」が現れる。ホテルから温泉、レストランからTENOHA。ほんの数分の移動が、クルマ依存を呼び、排気と騒音を増やし、滞在のテンポまで崩す。東急リゾートタウン蓼科がe-Paletteを循環バスとして走らせるのは、その“もったいない移動”を、脱炭素と快適さの両方で回収する試み。しかも、非常時は電源にもなる。観光の足が、インフラにも化ける。
「予約不要・無料」が意味するもの——移動をサービスではなく“環境の装置”へ
運用の骨格はシンプルだ。e-Paletteがタウン内循環バスとして主要拠点を周回し、予約なし・無料で乗れる。導入は1台。まずは“使ってもらう”設計に寄せた。
ここで効いてくるのは、移動が「特別な体験」ではなく「滞在の基礎体力」だという事実。リゾートの満足度は、景色や食事だけで決まらない。移動のストレスが小さいほど、回遊が増え、滞在の密度が上がる。逆に、移動の不便は“近いはずの自然”を遠ざける。無料・予約不要は、脱炭素のための啓発というより、行動を変えるためのUIである。
年間約1トンのCO₂削減——数字は小さくても、設計の転換点
東急不動産は、従来のガソリン車マイクロバスと比べ、e-Palette導入で年間約1トン相当のCO₂排出削減効果を見込むという。
この数字だけを見れば、派手ではない。だが重要なのは、削減の“場所”だ。観光地の排出は、ホテルの空調や給湯のような大きな塊に目が行きがちだが、実は細かな移動が体験と一緒に積み上がる。しかも、移動は来訪者の選択に直結する。ここをEV化すると、排出だけでなく滞在の音や匂いも変わる。脱炭素が「快適さ」と同じ方向に倒れるのが強い。
ラストワンマイルは“観光のインフラ”——未来は自動運転とオンデマンドの接続へ
広大な敷地を持つリゾートでは、短距離でもモビリティに頼らざるを得ない。蓼科でも、そのラストワンマイル課題が導入の動機になっている。
さらに計画は先を見ている。将来的な自動運転化を見据え、すでに運行しているAIオンデマンド交通と連携し、移動体験を進化させるという。
ここには、観光地の構造問題への回答がある。人口減少で運転手確保が難しくなる一方、来訪者は“移動の滑らかさ”を手放さない。自動運転や遠隔運行管理、AI案内の流れは、地方交通の現実解として立ち上がってきた。リゾートの循環バスは、観光の足であると同時に、次世代交通の“実装環境”にもなる。
非常時は「給電車」になる——脱炭素の時代のレジリエンス設計
この取り組みの白眉は、平時だけではない。有事や災害時に、e-Paletteの給電機能を非常用電源として使う想定が明記されている。
電気が止まると、観光はもちろん、地域の生活も止まる。だから、EVは“移動の脱炭素”である前に、“電源の分散”でもある。リゾートタウンが水源を含むインフラを持ち、一体運営されている点も効く。移動とエネルギーを同時に設計できるから、モビリティがインフラになる。
脱炭素が進むほど、電化が進む。電化が進むほど、停電リスクは痛くなる。だから次の常識は、「走る車両=備える電源」だろう。

森の価値を“移動”で守る——自然資本の時代、リゾートが問われる勘定科目
東急不動産は重点課題として「脱炭素社会」「循環型社会」「生物多様性」を掲げ、蓼科を実践の場と位置づける。
観光は自然に依存する産業だ。いま世界では、自然への依存と影響を企業が開示する流れ(TNFD)も強まっている。自然は背景ではなく、資本である——そんな視線が主流になりつつある。
そのとき、リゾートの脱炭素は“施設の中”だけで完結しない。森を守りたいなら、森の中の移動をどうするか。e-Paletteの導入は、自然共生を「理念」から「運用」に引き下ろす一手になる。
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