★ここが重要!

★要点
再生農業で育てた麦芽「Regenova」を採用したビールが日本初登場。原料段階から温室効果ガス削減と生物多様性保全を実装した“飲めるサステナビリティ”。
★背景
気候危機の主戦場は製造や物流だけでなく農業へ。土壌劣化や化学肥料依存の限界が露呈する中、「再生する農業」が企業の競争力と直結し始めた。

ビールは、もはや嗜好品にとどまらない。どの土で育ったか、どんな農法で作られたか――その一杯は、どんな作られ方をしたかで選ばれる時代に入りつつある。サッポロビールが打ち出した新商品は、再生農業という見えにくい領域を味覚へと翻訳した試みだった。消費の選択が、そのまま土壌と気候の未来に接続する時代が始まっている。

ビールの原点回帰、“土壌”から始まるサステナビリティ

サッポロビール(株)が発売した「Travelogue(トラベログ)」は、フランスの大手製麦会社「Soufflet Malt(スフレモルト)」が再生農業で栽培した大麦を原料とする麦芽「Regenova」を採用した日本初のビール。従来の環境対策が製造工程やパッケージに偏りがちだったのに対し、今回は“原料の起点”に踏み込んだ点が特徴的だ。
再生農業は、単なる減農薬や有機栽培とは異なる。輪作や耕起の最小化、カバークロップの活用などを通じて、土壌そのものの生態系を回復させるアプローチだ。痩せた土を“維持する”のではなく、“再生する”。この思想の転換が、農業を気候変動対策の前線へと押し上げている。
結果として、「Regenova」は従来の大麦栽培に比べ、温室効果ガス排出量を6%以上削減できる見込みだという。数字としては控えめに見えるが、農業由来の排出が世界全体で大きな割合を占めることを考えれば、その積み重ねは無視できない。

サプライチェーンの再設計。“見えない工程”をどう変えるか

この取り組みの本質は、単なる新商品開発ではなく、サプライチェーン全体の再設計にある。フランスの製麦大手が生産する麦芽を、日本企業が採用する。その裏側では、生産者と企業をつなぐフィールドマネージャーの長年の関係構築が機能している。
環境配慮は、単発の技術では成立しない。農地の管理、収穫、加工、輸送――複数の工程が連動して初めて成立する“システム”だ。だからこそ、企業単独ではなく、サプライヤーとの協働が不可欠になる。
ここで問われるのは品質の透明性だ。どの土壌で、どのように栽培されたのか。その履歴を追う仕組みが整えば、消費者は「価格」ではなく「背景」で商品を選び始める。本プロジェクトでは、その実験場としてビールが選ばれた。

“飲むことで参加する”時代、消費者の役割の変化

再生農業ビールのもう一つの意義は、消費者の立ち位置を変える点にある。これまで環境問題は、消費者にとってどこか遠い話だった。だが、日常的に口にするビールがその解決策の一部になるなら話は違う。
重要なのは、体験としての納得感だ。いくら環境に良くても、味が伴わなければ選ばれない。その意味で、ビールという嗜好品は難易度が高い。しかし逆に言えば、「おいしいから選ぶ」が「環境にも良い」に接続すれば、行動変容は一気に広がる。
企業のサステナビリティ戦略は、もはやCSRの枠を超え、ブランド価値そのものに直結する段階に入っている。環境配慮はコストではなく、消費者から選ばれる理由へと変わりつつある。

“農業×都市消費”の接続

再生農業の普及には課題も多い。収量の安定性、コスト、認証の標準化――いずれも簡単には解決しない。しかし、都市の消費と農業をどう接続するかという視点に立てば、可能性は広がる。
たとえば、飲食店や小売が再生農業原料を積極的に採用すれば、市場は一気に拡大する。さらに、消費データと農業生産を結びつければ、需要に応じた持続可能な生産モデルも見えてくるだろう。
重要なのは、“点”で終わらせないことだ。一つのビール商品にとどまらず、他の穀物や食品へと展開できるか。再生農業が特別な選択肢ではなく、標準になるかどうか。その分岐点に、いま私たちは立っている。

■商品概要
商品名:Travelogue(トラベログ)
発売日:2026年4月4日(土)
発売場所:「YEBISU BREWERY TOKYO」内限定
価格:1,300円(税込)
詳細:https://www.sapporobeer.jp/news_release/0000018458/
   https://www.sapporobeer.jp/brewery/y_museum/event/20260403_18460/

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