★ここが重要!

★要点
日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボは、循環する製品・部品・材料の「残存価値」を評価するための考え方をまとめたディスカッションペーパーを公開した。焦点は、再使用、修理、再製造、リサイクルされる資源が、次の用途でどれだけ使える価値を持つのかを、品質・信頼・履歴情報とともに共有する仕組みだ。循環経済を“善意のリサイクル”から“市場で選ばれる産業”へ進めるための基盤づくりである。
★背景
サーキュラーエコノミーは、廃棄物を減らすだけでは成立しない。再生材や中古部品が市場で正当に評価され、安心して取引される必要がある。ところが現状では、用途情報やライフサイクル情報が十分に引き継がれず、循環資源の価値が見えにくい。日立-産総研CEラボは、この状態を「価値の空洞化」と捉え、残存価値評価の標準化を提案している。

リサイクルされた材料は、本当に価値があるのか。中古部品は、次の製品でどこまで使えるのか。修理された機器は、新品に比べてどれほど信頼できるのか。循環経済の本丸は、実はこの問いにある。資源を回すだけでは足りない。回った資源の価値を、誰もが判断できる形で示さなければ、市場は動かない。日立と産業技術総合研究所が設立した日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボは、循環する製品・材料の「残存価値」を評価する枠組みを提示した。これは、サーキュラーエコノミーを“環境活動”から“経済システム”へ押し上げるための、静かながら重要な一手である。

循環経済の弱点。「回る資源」が市場で評価されない

循環経済は、製品や材料を一度使って終わりにしない経済だ。再使用、修理、再製造、リサイクルを通じて、資源を何度も社会の中で使い続ける。だが、ここに大きな壁がある。回収された材料や部品が、次の用途でどれだけ使えるのかが見えにくいことだ。
日立-産総研CEラボのディスカッションペーパーは、循環する製品・部品・材料が次の需要側の用途に応える際の価値を「残存価値」と定義している。新品時のスペックだけではない。使用履歴、修理履歴、再生工程、検査結果、材料特性、品質安定性、供給安定性。こうした情報がそろって初めて、買い手は「使える」と判断できる。
つまり、循環経済の課題は、モノの不足だけではない。情報の不足でもある。資源は存在しているのに、価値が伝わらない。使えるはずの材料が、信用されずに選ばれない。ここに市場の詰まりが生まれる。

「残存価値」とは何か? 次の用途で使える力を測る

残存価値という言葉は、これまで中古車や設備、会計の文脈で語られることが多かった。だが日立-産総研CEラボが示す残存価値は、もう少し広い。循環する製品、部品、材料が、次の用途でどの程度役に立つのか。その判断を支える価値である。
例えば再生プラスチックなら、強度、耐熱性、成形のしやすさ、含有化学物質、品質のばらつきが問われる。中古部品なら、使用期間、故障履歴、修理履歴、検査結果が重要になる。単に「再生材です」「中古部品です」では市場は動かない。「この用途なら、この品質で使える」と言えるかどうかが勝負だ。
この見える化が進めば、再生材や再使用部品は安い代替品ではなく、用途に応じた合理的な選択肢になる。循環経済に必要なのは、情緒的な“もったいない”だけではない。買い手が納得できる評価の言語である。

「価値の空洞化」——情報が切れると、資源は安く見られる

ディスカッションペーパーは、日本のプラスチック循環市場を例に、二つの情報断絶を指摘している。第一は、需要側が必要とする用途条件が供給側に十分共有されない「用途情報の断絶」。第二は、製造時の情報や使用・修理・回収の履歴が、材料として循環する段階で引き継がれない「ライフサイクル情報の断絶」である。
この二つの断絶があると、需要側は循環資源の価値を判断できない。結果として、新品材料を選ぶ。供給側は、どんな品質の再生材を作ればよいか分からない。市場は育たない。日立-産総研CEラボは、この状態を「価値の空洞化」と呼ぶ。
この表現は鋭い。循環資源に価値がないのではない。価値が市場に伝わらないのだ。価値はあるのに、情報が途切れることで空洞になる。循環経済のボトルネックは、焼却炉やリサイクル設備の外側にもある。データの流れ、意味の共有、評価の標準。その見えないインフラだ。

RVACPMという提案。残存価値を産業横断で評価する

この課題に対して、日立-産総研CEラボは「Residual Value Assessment for Circular Products and Materials」、略してRVACPMを提案している。循環する製品・部品・材料の残存価値を評価し、その結果と評価根拠を関係者間で共有するための標準である。
ポイントは、特定の製品だけに閉じないことだ。プラスチック、金属、電子機器、建材、機械部品。循環資源は産業をまたいで動く。だからこそ、個別規格だけでは足りない。RVACPMは、複数の製品分野に適用できる産業横断型の水平規格として設計される必要がある、とペーパーは位置づけている。
ここには国際標準化の視点もある。欧州ではデジタルプロダクトパスポートの導入が進み、日本でも化学物質・資源循環情報プラットフォームの検討が進む。だが、製品識別情報や材料情報だけでは、循環資源の「次に使える価値」は十分に伝わらない。残存価値の評価軸を組み込むことが、次の競争力になる。

品質、環境、社会、信頼——循環資源に必要な“価値の証明”

RVACPMでは、残存価値情報の中心に品質情報と信頼情報を置く。品質情報は、経済価値、環境価値、社会価値から成る。経済価値は、次の用途でどの程度機能するか。環境価値は、資源循環や環境負荷低減にどれだけ寄与するか。社会価値は、人権、労働安全、公正性、利用者保護など、循環経済の社会的側面を支える情報だ。
さらに信頼情報として、遵法情報、第三者認証、自己適合宣言、検査結果、測定方法などが必要になる。これらがそろえば、循環資源は「なんとなく環境に良いもの」ではなく、「この用途で、この品質で、この根拠に基づき使えるもの」として取引できる。
循環経済が広がるほど、信頼の設計が重要になる。安い再生材が増えればよいのではない。安心して使える再生材が増えなければならない。そこに、評価と標準化の役割がある。

日立-産総研CEラボの狙い、循環経済を“仕組み”として設計する

日立-産総研CEラボは、2022年10月に産総研内に設立された連携研究ラボである。掲げる研究テーマは、「循環経済社会のグランドデザインの策定」「循環経済向けデジタルソリューションの開発」「標準化戦略の立案・施策の提言」の三つ。循環経済を技術だけではなく、社会像、デジタル基盤、ルール形成まで含めて捉える体制だ。
この構えは重要だ。循環経済は、ひとつの企業努力だけでは進まない。回収する企業、再生する企業、使う企業、認証する機関、政策をつくる行政、データ基盤を整える事業者がつながらなければならない。そこでは、技術開発と同じくらい、共通言語づくりが効く。
残存価値評価は、その共通言語の候補だ。製品や材料がどれだけ使えるかを、市場の関係者が同じ意味で理解する。そこから初めて、再生材や再使用部品がスムーズに流通する。

なぜ今、残存価値なのか。資源安全保障と産業競争力の時代

循環経済は、環境政策であると同時に、資源安全保障の政策でもある。鉱物資源、化石資源、化学素材、電子部品。世界の供給網は不安定さを増し、調達リスクは企業経営そのものを揺らす。国内にある使用済み製品や廃材を、価値ある資源として再利用できるかどうかは、産業競争力に直結する。
Maintainableでも、第五次循環型社会形成推進基本計画が循環経済を国家戦略の重要政策として位置づけ、地方創生、産業競争力、経済安全保障にもつながるものとして扱っていることを過去に報じた。
この流れの中で、残存価値評価は“資源を国内に眠らせないための仕組み”になる。使えるものを使えると示す。価値あるものを価値あるものとして取引する。廃棄物と資源の境界は、物性だけではなく情報で決まる時代に入っている。

データ基盤と標準化で“循環市場”をつくる

今後の焦点は、RVACPMのような評価枠組みを、どこまで実際の市場に実装できるかだ。再生プラスチック、リユース部品、建材、電池、電子機器。分野ごとに求められる性能やリスクは異なる。だが、用途情報、履歴情報、品質情報、信頼情報をつなぐ考え方は共通している。
標準化は地味に見える。だが、標準がなければ市場は広がらない。測り方が違えば比較できない。言葉が違えば取引できない。根拠が違えば信用されない。循環経済を本当に産業にするには、材料を回す技術と同じくらい、価値を測る仕組みがいる。
日立-産総研CEラボの提案は、その入口に立っている。リサイクルするかどうかではない。循環する資源の価値を、どう評価し、どう伝え、どう市場で選ばれる状態にするか。そこに、循環経済の次の勝負がある。

この記事の要約——残存価値評価が変えるもの

日立-産総研CEラボが公開した「循環する製品・材料の残存価値評価」に関するディスカッションペーパーは、循環経済において製品・部品・材料の残存価値をどう評価し、どう共有するかを示したものだ。用途情報やライフサイクル情報の断絶によって起きる「価値の空洞化」を防ぎ、循環資源を市場で正当に評価するため、RVACPMという産業横断型の評価標準を提案している。循環経済を環境活動から経済システムへ進めるうえで、残存価値評価は重要な基盤になる。

FAQ

Q1. 残存価値とは何か。
循環する製品・部品・材料が、次の需要側の用途に応える際に持つ価値のことだ。使用履歴、修理履歴、検査結果、材料特性などの情報をもとに判断される。

Q2. なぜ残存価値評価が必要なのか。
循環資源の品質や履歴が見えないと、需要側は安心して使えず、新品材料を選びやすくなる。残存価値評価は、循環資源の価値を市場に伝えるために必要だ。

Q3. RVACPMとは何か。
Residual Value Assessment for Circular Products and Materialsの略で、循環する製品・部品・材料の残存価値を評価し、その結果と根拠を共有するための標準案である。

Q4. 「価値の空洞化」とは何か。
循環資源に本来価値があっても、用途情報やライフサイクル情報が途切れることで市場に価値が伝わらず、十分に評価されない状態を指す。

Q5. 企業にとって何が変わるのか。
再生材やリユース部品を、価格だけでなく品質、環境価値、信頼情報に基づいて選びやすくなる。循環資源の取引拡大や調達リスク低減にもつながる可能性がある。

あわせて読みたい記事

サーキュラーエコノミー ビジネスデザインを学ぼう 01

【循環経済の最前線】なぜ日本は欧州に遅れるのか?──国内外の専門家が静岡に集結、「CLRF2025」開催。

循環経済が日本の国家戦略に。「第5次計画」閣議決定の内容と集まったパブリックコメントの中身とは?