
★要点
奈良県天川村(村長:車谷重高氏)と大和ハウス工業(本社:大阪市、社長:大友浩嗣氏)が、「森林と共に暮らし続けられる山村づくり」に向けた包括連携協定を締結。林業の担い手不足や森林放置の課題に対し、住環境整備や移住促進、地域産材活用を官民連携で進める。
★背景
気候変動による豪雨災害や人口減少が進む中、森林の維持は“地方課題”ではなく“国土課題”になりつつある。森林を単なる資源ではなく、「暮らしのインフラ」として再定義できるかが問われている。
森林は、放っておいても守られるものではない。
奈良県南部の山村・天川村。その面積の97%を森林が占めるこの地で、今、新しい“山との共生モデル”が動き始めた。人口減少、高齢化、林業衰退――日本の中山間地域が抱える課題に対し、天川村と大和ハウス工業は、「森林と共に暮らし続けられる山村づくり」に向けた包括連携協定を締結。焦点は単なる自然保護ではない。“人が住み続けられる森”をどう作るか。の課題への挑戦だ。
森林は“資源”ではなく“インフラ”になった
奈良県天川村は、日本有数の森林地域だ。村域175.66平方キロメートルのうち、実に97%が森林。かつては林業が地域経済を支え、山は暮らしそのものだった。
しかし今、大きく状況が変わってきている。
木材価格の低下、輸入材との競争、担い手不足…。林業は採算を失い、再造林や保全管理が追いつかなくなった。結果として、“手入れされない森林”が増えている。
問題は景観だけではない。
森林には、水を蓄え、洪水を抑え、土砂災害を防ぐ「国土保全機能」がある。つまり管理不足は、その機能低下を意味する。近年の線状降水帯や豪雨災害の頻発を見れば、森林管理はもはや地方自治体だけの問題ではない。都市生活とも直結する、社会インフラの問題だ。
現代の気候危機を踏まえると、「森をどう維持するか」という課題は、同時に「社会をどう維持するか」という課題であると言える。
“移住してください”だけでは、人は来ない
今回の協定で特徴的なのは、「森林保全」を入口にしながら、実際には“暮らし”そのものに踏み込んでいる点だ。
協定では、森林資源活用だけでなく、若い林業従事者を対象とした居住環境整備や、交流人口・関係人口の創出も掲げられた。つまり、「働く場所」と「住める環境」をセットで作ろうとしている。
この柔軟な発想が非常に重要だ。
地方創生では長年、「移住促進」が掲げられてきた。しかし、仕事だけあっても定着しない。逆に、自然環境だけ魅力的でも生活基盤が弱ければ暮らし続けられない。
特に林業は、肉体的負担が大きく、都市との所得差も課題になりやすい。若年層を呼び込むには、「山で働く」以前に、「山で普通に暮らせる」条件整備が必要になる。
そこで住宅や生活環境に強みを持つ大和ハウス工業の知見が生きる。
住宅メーカーが山村政策に関わる意味は、単なるCSRではない。人口減少時代の居住モデルそのものを、都市以外で再設計する試みだ。
木を使うだけでは、“循環”にならない
近年、「木造化」「木質化」は全国で加速している。脱炭素の流れもあり、木材利用は拡大傾向だ。
だが、本質は“木を使うこと”ではない。
重要なのは、「森林が再生可能な状態で循環しているか」だ。
伐採後に植林されなければ、森林は痩せる。
担い手がいなければ、森は荒れる。
地域に利益が還元されなければ、林業は持続しない。
天川村はこれまで、薪を活用した木質バイオマスや、官民連携による植林活動などを進めてきた。今回の協定は、それをさらに「暮らし」と接続するフェーズに入ったとも言える。
森林は、伐って終わりではない。
育て、使い、再び育てる。その循環に“人の生活”をどう組み込むか。そこまで含めて初めて、地域資源は持続可能になる。
“関係人口”が山村を変える
もう一つ注目したいのが、「2地域居住」や「関係人口」を明確に打ち出している点だ。
人口減少社会では、「定住人口」だけを追う発想に限界がある。
むしろ今後は、「定期的に関わる人」をどう増やすかが重要になってくるだろう。
テレワーク、副業、ワーケーション。
都市と地方を行き来する働き方は、コロナ禍以降、一気に現実味を帯びた。
特に、世間が抱く自然環境への価値観は大きく変わってきている。
天川村は、修験道の聖地として知られる霊山・大峯山を抱え、豊かな水資源や渓谷景観でも知られる地域だ。観光地としてだけでなく、「一時的に滞在しながら関わる場所」としてのポテンシャルも高い。
地方創生は、定住か観光かの二択ではなくなっている。
“ゆるやかに関わり続ける人”を増やせるか。その設計力が、これからの地域競争力になる。
山村政策を“福祉”で終わらせない視点
日本の山村政策は、しばしば「守るべき地域」として語られてきた。
だが、それだけで環境施策というものは持続しない。
必要なのは、人の「経済」と「暮らし」を成立させる視点だ。
森林保全、防災、脱炭素、生物多様性――。山村が持つ価値は、今や国家レベルの課題解決と直結している。
だからこそ、山村を“支援対象”としてだけでなく、“未来のインフラ”として位置づけし直す必要がある。
天川村と大和ハウス工業の連携は、まだ始まりに過ぎない。
だが、森林を「残す」のではなく、「人が関わり続けられる形で循環させる」。
その思想は、日本の地方政策に新しい視点を投げかけている。
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https://www.daiwahouse.co.jp/about/release/house/20260521145000.html
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