
★要点
再生可能エネルギーをただ増やすだけの時代は終わり、変動する電力をいかに制御して送電網を安定させるかという調整力が最重要テーマになっている。新エネルギー事業を展開するFPSが、系統用蓄電池を活用して需給調整市場や日本電力卸取引市場での取引を開始し、さらに将来の供給力を取引する容量市場での落札を成立させた。電気を自ら生み出すことはない蓄電池が、再エネ時代の電力システムを維持・安定させる発電しない発電所として、本格的に日本のインフラへ組み込まれ始めている。
★背景
2026年現在、太陽光発電をはじめとする再エネの急速な拡大に伴い、晴天時の出力制御による電力の廃棄や、夕方の需給逼迫といった電力系統のボラティリティが一段と顕在化している。電力システムは24時間365日、電気をつくる量と使う量を常に一致させなければ崩壊してしまうため、天候任せのクリーン電力を社会の主戦力にするには、必要なときに電気を瞬時に出し入れできる柔軟なインフラの存在が不可欠だ。
太陽光や風力といった再生可能エネルギーが増えるほど、現代の電力システムには新しい課題が突きつけられる。天候によって大きく変動する電気を、いつ、どこで、どう使いこなすのか。
その難題を解決する主役として今、巨大なバッテリーである系統用蓄電池への期待がかつてないほど高まっている。自らは電気を生み出さない装置が、なぜこれからの脱炭素社会の命綱になるのか。蓄電池を活用した市場取引を本格化させ、日本の電力安定供給の担い手へと名乗りを上げたFPSの動きから、つくるフェーズを超えた再エネインフラの次の姿を追う。
FPSが挑む3つの市場取引——需給調整・JEPX・容量市場が蓄電池に開く道
日本の再エネビジネスが、設備の建設から電力市場をフル活用した運用の高度化へと大きくシフトしている。
新エネルギーの総合マネジメントを手がけるFPSは、自社が運用する系統用蓄電池を活用し、需給調整市場および日本電力卸取引市場、通称JEPXでの本格的な電力取引を開始した。さらに、将来にわたる国家の電力供給力をあらかじめ確保しておくための容量市場においても、蓄電池リソースによる落札が成立したと発表した。
これまで系統用蓄電池は、主にJEPXの価格差を利用したタイムシフト、すなわち昼間の電気代が安いときにためて夜間の高いときに売るという単純な取引が中心だった。
しかし、FPSが今回発表した仕組みでは、さらに2つの役割が加わる。ひとつは需給調整市場への参入だ。ここでは系統の周波数や需給バランスの急激な変化に対し、秒単位で充放電を行って追従し、送電網の崩壊や大規模停電を防ぐリアルタイムの調律を行う。もうひとつは容量市場での落札だ。これは深刻な電力逼迫時や災害時に、確実に稼働できる供給力として待機し、中長期的な安定供給力を担保する。
これらの価値が公的に認められ、こうした複数の市場で、蓄電池の価値が取引・評価され始めた意味は大きい。これは、蓄電池が電力ビジネスの周辺機材から、日本の電力安定供給を担う一線級の社会インフラへと格上げされたことを証明している。
FPS:系統用蓄電池を活用した需給調整市場・JEPXでの取引開始および容量市場での落札
https://fps-inc.jp/pressrelease/20260617/
なぜいま調整力が必要なのか——再エネ拡大がもたらす需給の波をならす技術
日本の電力系統がこれほどまでに調整力を渇望している理由は、再エネの導入スピードに対して、それをコントロールする手段が圧倒的に不足しているからだ。
太陽光発電は、日中の晴天時には大量の電気を生み出すが、夕方以降の日没とともにその出力は急激にゼロになる。この激しい変動の波を放置すれば、送電網の電圧や周波数は一定を保てなくなり、最悪の場合は大規模な停電を引き起こす。そのため、これまでは再エネが余りすぎるときは発電を強制的に止める出力抑制を行い、足りなくなれば化石燃料を使った火力発電所を無理に焚き増しして帳尻を合わせてきた。しかし、脱化石燃料を進めつつ、増大するデジタル社会の電力需要に応えるためには、こうした調整に頼り続ける運用には限界がある。電気の過不足をリアルタイムで吸収し、需給の波をフラットにならす仕組み、すなわち柔軟な調整力の確保こそが、クリーンエネルギー社会を維持するための絶対条件だ。
電気をつくらない発電所——系統用蓄電池が担う新たな役割
ここで、蓄電池の本質的な価値が浮かび上がる。蓄電池は、石炭を燃やすこともなければ、光を受けて電子を動かすこともない。自らはまったく電気をつくらない。それにもかかわらず、現代の電力システムにおいては、あたかも巨大な火力発電所と同じかそれ以上の役割を果たしている。そのため、業界では蓄電池を発電しない発電所という比喩で呼ぶ。
従来の火力発電所は、電気が足りなくなると重たいタービンを回し始めるため、実際に出力が上がるまでに一定のタイムラグがあった。しかし、デジタル制御された系統用蓄電池は、系統の異常や電力不足を検知した瞬間、わずか数ミリ秒というスピードで電力をグリッドへ供給、すなわち放電することができる。
逆に、電気が余りすぎてに送電網に過度な負荷がかかるときは、巨大な受け皿として余剰電力を急速充電し、エネルギーを社会にストックする。電気を必要なときに、必要な量だけ出し入れする。この自律的な機能は、化石燃料を燃やし続ける古い発電所の役割を、運用時のCO2排出を抑えながら、電力システムを支える仕組みへと置き換えていく。
VPPへの広がり——蓄電池、EV、デマンドレスポンスが統合される未来
FPSが示した系統用蓄電池の市場参入は、さらに大きなエネルギーネットワークの変革へとつながっている。それは、点在する小規模な蓄電リソースや再エネ、および個々の電気自動車をデジタル技術で統合し、まるで一つの巨大な発電所のように機能させるVPP、すなわち仮想発電所の構想だ。
未来の電力インフラにおいては、郊外や発電所近くに設置された大型の系統用蓄電池だけでなく、ビルのバックヤードにある非常用バッテリー、住宅の壁に設置された家庭用蓄電池、そして街中を走る無数の電気自動車のバッテリーまでが、インターネットを通じて一つのグリッドに統合される。
さらに、電気が足りない時間帯にユーザー側が自発的に電力消費を抑えるデマンドレスポンスと呼ばれる需要制御の仕組みも、このVPPネットワークの中に組み込まれていく。電気が足りなければ、別の場所にある無数の電気自動車から一斉に少しずつ電気を供給してもらい、工場やデータセンターの逼迫を補う。電気が余れば、料金を安くして一斉に家庭の給湯器や蓄電池に電力を流し込む。再エネをつくるフェーズから社会全体で融通し、賢く使いこなす段階への移行は、こうした高度なデジタル制御によって現実のものとなりつつある。
再エネ時代の主役は、電気をためて動かす調整力へ
かつて、電力インフラの主役は、大きな煙突を備えた沿岸部の発電所だった。しかし、脱化石燃料の時代において、その主役の座は電気を創る側から、電気をため、ならし、必要な場所へ届ける側へと確実に移り変わりつつある。
FPSが需給調整市場や容量市場で成し遂げた落札と取引開始のニュースは、発電しない発電所である蓄電池が、単なるリチウムイオン電池の塊ではなく、これからの日本の送電網を維持する中核的なメンテナンス装置として機能し始めたことを示している。
天候や時間帯によって変動する再エネを、人間の経済活動のリズムへと精緻に翻訳するための調整力。この目に見えない調整力をデジタルとハードウェアの両面から育て上げ、インフラとして社会に定着させていくことこそが、持続可能な電力システムを構築するための最も確かな道筋となる。
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