サーキュラーエコノミー ビジネスデザインを学ぼう 01

現在、気候変動や資源枯渇などの問題から大量生産、消費、廃棄による一方通行型の経済(リニアエコノミー)が限界を迎えつつあり、新たな経済成長のモデルとしてサーキュラーエコノミー(Circular Economy: CE)が注目を集めています。既に欧州では政策アジェンダに組み込まれてから数年が経過しており、近年その取り組みはより一層活発になっています。日本でもCE の実現に向けた議論が始まっていますが、欧州と比較するとまだ限定的なものに止まっており、特にCEを実現するビジネスをいかに生み出すかという点については、多くの企業が試行錯誤している段階にあると思います。筆者はこれまでにCE のビジネスデザインに関する研究を精力的に行ってきました。2017 年にはデンマーク工科大学に客員研究員として滞在してCE の最先端の研究と企業との連携を肌で感じ、これは日本のものづくりの強みが生かせるのではという期待感をもつと同時に、このままでは欧州に主権を握られてしまうという強い危機感を抱きました。本誌のテーマであるメンテナンスは、CEビジネスにおいて重要な役割を果たします。そのため、少しでも多くの方々にメンテナンスとCEビジネスとの関係を知って頂き、今後の活動や事業展開のご参考にして頂ければ幸いです。本稿では4 回にわたりCEビジネスのデザインについて紹介します。第1回目は、サーキュラーエコノミーについて解説します。

CEとは、廃棄物の発生を最小限に抑えながら、製品、部品、素材の価値を可能な限り長く維持することを目的とした経済です。欧州委員会はCE に関わる行動計画を2015 年と2020 年に公表しています。第1次行動計画では、一般廃棄物のリサイクル率を 2030 年までに65% 以上にすることや、埋め立て処分にする廃棄物の割合を10% 以下にするなどの目標が課せられています。第2 次行動計画では、重点政策の1つとして、持続可能な製品政策フレームワークが掲げられており、製品の耐久性やメンテナンス性、リサイクル性を高めることと、消費者が修理やアップデートできる仕組みを構築することが述べられています。日本でも2000 年代から循環型社会の実現に向けた取り組みを行ってきました。日本の取り組みとCEはメンテナンスや3R(リデュース、リユース、リサイクル)により資源の有効利用を促進することなど多くの共通点があります。しかし、大きく異なる点はCEは企業の経済性と雇用創出を重視していることです。そのため、多くの欧州企業はCEを単なる規制対応として受動的に取り組むのではなく、新たなビジネス機会として捉え規制に先んじて積極的に動いています。 このようにCE の実現に向けた取り組みが加速している背景としては、主に以下の3 つが挙げられます。 1つ目は資源の需給逼迫と供給の不確実性が増しているためです。特にレアメタルの需要に関しては、電気自動車の普及などにより今後も高まり続けることから、将来的に需要が供給を上回るリスクが懸念されています。また、レアメタルは存在する国に偏りがあることから、政情不安の拡大や資源ナショナリズムの台頭などにより供給の不確実性が増しています。2つ目は気候変動への対応です。カーボンニュートラルを実現するためには、再生可能エネルギーへの転換に加えて、製品の生産と消費や資源の採掘と加工などにおいて排出される温室効果ガスを削減することが求められます。CEはこの後者を実現する手段として位置づけられています。3 つ目はマーケットの拡大です。例えばアクセンチュアの調査では、サーキュラーエコノミーを実践することで2030 年までに全世界で4.5 兆ドルの経済価値が生み出されると試算してい ます(1)。日本においても2030 年までにサーキュラー エコノミー関連ビジネスの市場規模を現在の約50 兆円から80兆円以上にする目標が掲げられています(2)。では、CEビジネスを生み出すためには何をすれば良いのでしょうか。その前提としてまず、CEを実現する仕組みについて解説したいと思います。エレン・マッカーサー財団はCEを実現する原則として以下の3 つを挙げています(3)

1.廃棄物と汚染を出さないこと
2.製品や素材を価値の高い状態で循環させるこ
3.自然を再生させること

2 の循環は、技術的サイクル(Technical cycle)と生物的サイクル(Biological cycle)の2 つにより実現されます。技術的サイクルでは、リユースやリペア、リマニュファクチャリング、リサイクルなどを通じて製品や素材を循環させます。一方、生物的サイクルでは、嫌気性消化や堆肥化により生分解性素材を自然界に循環させます。本誌のテーマであるメンテナンスは、この技術的サイクルにおいて重要な役割を果たします。技術的サイクルでは、リユースやリマニュファクチャリング、リサイクルを通じて閉ループ化する(Close)だけでなく、新たに投入する資源を減らす(Narrow)、製品や部品をより長く使う(Slow)ことが重要です(下図)。メンテナンスは製品機能を回復しSlowを実現する有効な手段となります。しかし、これらは日本においても前述の循環型社会の実現に向けた取り組みの中でも実践されており、企業の経済性と両立することは難しいと感じる方も多いと思います。例えば、 Narrowは販売数の減少、Slow は買い替え頻度の低下を招く可能性があります。また、Closeでは回収する製品の質や量を管理することが難しく投資に見合う収益が得られない場合もあります。では、どのように経済性と両立すればよいのでしょうか。その答えの1つがビジネスモデルの転換です。具体的には、従来の製品売り切り型のビジネスから脱却し、製品機能をサービスとして提供するProduct as a Service (PaaS)型のビジネスに移行することです。PaaS は製造業のサービス化(Servitization)とも呼ばれ、具体例としてはシェアリングやサブスクリプション、 Pay-Per-Useなどが挙げられます。次回は、PaaSがCEにどのように繋がるか具体例を交えながら紹介したいと思います。

※参考文献
(1)Lacy and Rutqvist (2015) Waste to Wealth: The Circular Economy Advantage
(2)日本政府 (2021) 成長戦略フォロアップ工程表
(3)The Ellen MacArthur Foundation: What is a circular economy? https://ellenmacarthurfoundation. org/topics/circular-economy-introduction/ overview

木見田 康治  Koji Kimita
東京大学大学院工学系研究科
TMI技術経営戦略学専攻特任講師