
★要点
汚された土地を元に戻す費用を、誰がどう負担するのか。その仕組みを見直す2つの会議が、同じ週に開かれる。
環境省は、不法投棄などで生じた生活環境への支障を自治体が取り除く際に財政支援を行う「産業廃棄物適正処理推進基金」について、今後の支援のあり方を議論する検討会の第1回を、11月4日に開催すると事前に発表していた。11月6日には、中央環境審議会の土壌制度小委員会が、今後の土壌汚染対策の在り方に関する答申骨子案を議題とする会合を開く。
環境省によると、令和6年度末時点で全国に残る産業廃棄物の不法投棄等の事案は2,920件、残存量は999.1万トン。原因者が不明だったり資力がなかったりする場合、撤去や浄化の費用は自治体と国、そして産業界の基金が負うことになる。だが、2023年の検討会の中間とりまとめは「現行の補助率での基金の存続は困難」と指摘していた。土壌汚染でも、2013年以降に措置が指示された区域のうち原因者が判明したのは約3割にとどまる。
過去に汚された土地の「修理費」を、誰が、どう払い続けるのか。2つの会議の背景にある数字と事例から読み解く。
★背景
不法投棄された廃棄物や、工場の跡地などに残る土壌汚染は、放置すれば地下水の汚染や悪臭、火災などで周辺の暮らしを脅かす。本来、元に戻す費用は汚した者が払うべきものだ。廃棄物処理法や土壌汚染対策法も、原因者に措置を求める仕組みを定めている。
しかし実際には、原因者が見つからない、倒産している、資力がないといった理由で、費用を回収できない事例が少なくない。その場合、都道府県などが行政代執行に踏み切り、廃棄物の撤去や安定化処理など、生活環境への支障を取り除く措置を講じることがある。
一度汚された土地を直すには、長い年月と巨額の費用がかかる。その負担を誰がどう分け合うのかという問題は、廃棄物を出す産業全体と、地域社会が向き合い続けなければならない、土地のメンテナンスの課題でもある。
山あいの谷に、ドラム缶や汚泥が積み上げられている。
瀬戸内海の島に、何十万トンもの廃棄物が残された。
撤去と浄化には、十数年から二十年以上の時間と、数百億円の費用がかかった。
そして、その費用の大半は、汚した者からは戻ってこなかった。
過去に汚された土地は、いまも全国に残っている。
その「修理費」を誰が払うのか。同じ週に開かれる2つの会議を手がかりに、土地の負の遺産と向き合う仕組みを考える。
全国に残る不法投棄等2,920件、999.1万トン
環境省が2025年12月に公表した調査によると、令和6年度に新たに分かった産業廃棄物の不法投棄は106件、投棄量は1.4万トンだった。不適正処理は113件、6.0万トンだった。
新しく見つかる不法投棄は、件数がピークだった平成10年度(1,197件)や、投棄量がピークだった平成15年度(74.5万トン)と比べると大きく減っている。しかし、過去の不法投棄等で撤去されずに残っている事案は、令和6年度末時点で2,920件、残存量は999.1万トンにのぼる。前年度より件数は44件増え、残存量は12.1万トン減った。
このうち、現に生活環境保全上の支障が生じている事案は7件、支障のおそれがある事案は76件で、撤去の指導や周辺環境のモニタリングなどが続けられている。

原因者に代わって直す仕組み――支障除去を支える基金
原因者が支障を取り除かない場合、都道府県などがやむを得ず対応することになる。その費用を支えるのが、1998年に創設された「産業廃棄物適正処理推進基金」だ。国が積み立てた資金と産業界の任意の出えんで成り立ち、原因者が不明または資力不足の事案について、都道府県などが行う支障除去等の費用を支援する。環境省によると、令和6年度末までに91事案の行政代執行費用を支援した。
基金による支援の一例が、山梨県北杜市須玉町の事案だ。処分業の許可を持たない業者が約2万立方メートルの産業廃棄物を野積みにして放置し、内部では4,000ppmを超える硫化水素の発生も確認された。県は原因者らに全量撤去を命じたが履行されず、2018年10月から2020年1月にかけて行政代執行を実施した。採用したのは、廃棄物をセメント固化材などと混ぜて硫化水素が発生しない状態にし、現地に盛土・成形する工法だ。費用は約7.5億円で、そのうち約4.4億円が基金から支援された。土地の修理は、必ずしも撤去だけではない。汚染物を安定させ、その場で管理し続けることも含まれる。
基金の持続可能性は、以前から課題となっていた。2023年6月の検討会の中間とりまとめによると、産業界からの出えんは平成13年度の5.6億円をピークに減り、平成27年度以降は約1.1億円で推移している。基金の残高も平成23年度をピークに減少傾向にある。中間とりまとめは当時、「現行の補助率での基金の存続は困難」とし、「この3年以内の基金の枯渇が現実なものになっている」と記していた。
同じ中間とりまとめは、平成25年度以降の補助率を、産業界・国・自治体が4:3:3で負担する10分の7と説明し、同種の国の補助事業と比べて高いとも指摘していた。こうした経緯を踏まえ、11月4日の検討会は、「産業廃棄物適正処理推進基金を取り巻く状況」と「今後の支援のあり方」を議題としている。環境省は、近年基金を取り巻く状況に変化が生じているとして、有識者、産業界、自治体などで今後の支援のあり方を検討するとしている。
回収できたのは約3.5%――県境事案と豊島が残した教訓
原因者から費用を取り戻すことがいかに難しいかを示すのが、大規模な不法投棄の事例だ。
1999年11月に発覚した青森・岩手県境の不法投棄事案では、両県合わせて約27ヘクタールの現場から約150万トンの廃棄物などが撤去された。撤去などにかかった事業費は両県で約727億円、そのうち岩手県側は約250億円にのぼる。岩手県側では2002年から約12年をかけて2014年3月に撤去を終え、地下水の浄化などを経て2023年2月に原状回復の完了を宣言した。
岩手県がまとめた記録誌によると、岩手県側で投棄の行為者や排出事業者から回収できた費用は約8.63億円。記録誌は、回収率を約3.5%としている。撤去の費用のほとんどは、公費でまかなわれたことになる。
香川県の豊島(てしま)でも、約91.3万トンの廃棄物などが残された。香川県は2003年度から2022年度にかけて処理事業を行い、事業費の総額は約560億円にのぼる。処理事業は完了したが、処分地の地下水はいまも監視が続いている。2026年10月5日のフォローアップ委員会に報告された8月の計測では、4地点のうち1地点で1,4-ジオキサンが環境基準を超えた。県は「すべての計測点で安定して環境基準に適合する状況には至っていない」としている。
廃棄物を撤去しても、土地の修理は終わらない。地下水が基準を下回り続けるまで、監視と管理の費用はかかり続ける。

左上:平成24(2012)年6月撮影
右下:令和5(2023)年10月撮影
岩手県ホームページより
土壌汚染の措置指示事例でも原因者判明は約3割――土壌汚染対策法の見直し
土壌汚染でも、修理費の負担は大きな論点になっている。
環境省によると、令和6年度に土壌汚染対策法に基づいて報告された土壌汚染状況調査は1,680件、新たに指定された要措置区域は83件、形質変更時要届出区域は578件だった。
中央環境審議会の土壌制度小委員会が2026年2月にまとめた中間まとめによると、2013年からの累計で要措置区域に指定されて措置が指示された793件のうち、汚染の原因者が判明したのは234件と約3割にとどまる。中間まとめは、汚染の原因者が判明した場合に、土壌汚染状況調査の費用を原因者に請求できる規定を新たに設けることを検討するとしている。
対策の方法にも課題がある。要措置区域などで実施された措置は累計7,226件で、そのうち汚染土壌を掘り出して運び出す「掘削除去」が5,472件と約4分の3を占める。中間まとめは、掘削除去への偏りが脱炭素の観点から逆行するとの指摘を紹介し、推奨される対応を指針などで示すことを検討するとした。
このほか、自然由来や埋立材由来の土壌について規制の対象を見直すことや、汚染土壌の行き先を管理票で追う仕組みの改善なども論点に挙がっている。11月6日の小委員会では、これらを踏まえた答申骨子案が議論される予定だ。
汚さない仕組みと、直し続ける仕組み
県境事案や豊島の経験は、土地を汚さないための制度を大きく変えてきた。廃棄物の流れを追う管理票(マニフェスト)の仕組みや排出事業者の責任は、こうした事件を受けて強化されてきた。こうした制度改正や監視体制の強化が進むなか、新たに判明する不法投棄の件数は、ピーク時と比べて大幅に減少している。
しかし、すでに汚された土地は残っている。全国で999.1万トンの不法投棄等が残り、地下水の監視は撤去の後も何年も続く。原因者から回収できる費用は限られ、それを補ってきた基金の持続可能性も課題になっている。
基金の負担割合をどうするのか。土壌汚染の調査費用を原因者に求める道をどう開くのか。同じ週の2つの会議は、土地の修理費を、汚した者、産業全体、行政、そして地域の間でどう分け合うかを問い直す場でもある。
【参考】
環境省:報道発表「令和8年度支障除去等に対する支援のあり方検討会(第1回)の開催について」(2026年10月27日発表)
https://www.env.go.jp/press/press_05749.html
環境省:報道発表「中央環境審議会水環境・土壌農薬部会土壌制度小委員会(第10回)の開催について」(2026年10月30日発表)
https://www.env.go.jp/press/press_05755.html
環境省:報道発表「産業廃棄物の不法投棄等の状況(令和6年度)について」(2025年12月19日発表)
https://www.env.go.jp/press/110443_00003.html
環境省:不法投棄等の支障除去等事業に対する財政支援(産業廃棄物適正処理推進センター基金)について
https://www.env.go.jp/recycle/ill_dum/tekisei_kikin.html
環境省:「支障除去等に対する支援のあり方検討会 中間とりまとめ」(2023年6月)
https://www.env.go.jp/content/000144129.pdf
山梨県:北杜市須玉町地内産業廃棄物不適正処理事案における行政代執行
https://www.pref.yamanashi.jp/kankyo-sb/fuhoutouki/hokutodaisikko.html
岩手県:「青森・岩手県境産廃不法投棄事案の記録~産学官民連携20余年の足跡~」概要版(2024年3月)
https://www.pref.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/073/102/gaiyouban.pdf
香川県:第13回第2次豊島廃棄物等処理事業フォローアップ委員会 資料(2026年10月5日)
https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/40153/r081005_shiryou_2.pdf
環境省:「香川県豊島事案について」(香川県資料、2023年3月現在)
https://www.env.go.jp/content/000172261.pdf
環境省:報道発表「令和6年度土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果について」(2026年4月23日発表)
https://www.env.go.jp/press/press_04153.html
中央環境審議会水環境・土壌農薬部会土壌制度小委員会:「今後の土壌汚染対策の在り方に係る検討の中間まとめ」(2026年2月)
https://www.env.go.jp/content/000377973.pdf
FAQ
Q. 全国にどれくらいの不法投棄が残っているのですか?
A. 環境省の調査では、令和6年度末時点で、撤去されずに残っている産業廃棄物の不法投棄等の事案は2,920件、残存量は999.1万トンです。令和6年度に新たに分かった不法投棄は106件、1.4万トンでした。
Q. 産業廃棄物適正処理推進基金とは何ですか?
A. 原因者が不明または資力がない不法投棄等について、都道府県などが行う支障除去等の費用を支援するため、1998年に創設された基金です。国の資金と産業界の任意の出えんで成り立っています。2023年の検討会の中間とりまとめは、産業界の出えんの減少などから「現行の補助率での基金の存続は困難」と指摘しました。
Q. 不法投棄の撤去費用は、どれくらい原因者から回収できているのですか?
A. 事例によりますが、青森・岩手県境の不法投棄事案では、岩手県側の事業費約250億円に対し、行為者や排出事業者から回収できたのは約8.63億円で、岩手県の記録誌は回収率を約3.5%としています。
Q. 土壌汚染対策法の見直しでは何が議論されていますか?
A. 2026年2月の中間まとめでは、原因者が判明した場合に土壌汚染状況調査の費用を請求できる規定の新設、掘削除去に偏った対策の見直し、自然由来・埋立材由来の土壌の扱いの見直しなどが挙げられています。2013年からの累計で措置が指示された793件のうち、原因者が判明したのは234件(約3割)にとどまっています。
Q. 撤去が終われば、土地の修理は終わるのですか?
A. 終わらないことがあります。香川県の豊島では処理事業は完了しましたが、処分地の地下水は監視が続いており、2026年8月の計測でも一部の地点で1,4-ジオキサンが環境基準を超えていました。
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