
★要点
環境省が2026年9月29日に公表した調査により、全国の自治体でリチウムイオン電池等に起因する発煙・火災事故等が令和7年度実績で年間3万9,282件に達している実態が明らかになった。全1,741市町村(事務組合、特別区を含む)のうち86.2%がリチウムイオン電池または使用製品を回収しているものの、発火リスクが高まる「膨張・変形した電池等」について回収方法を明示している自治体は41.3%にとどまり、危険な状態のものほど住民にとって出口が見えにくい構造的課題を抱えている。
都庁舎でのAI自動分別リサイクルボックス「Bin-e」実証では、持込者アンケートの最多理由が「捨て方がわからなかった」(48.9%)だった。家庭内の死蔵端末を火種にしないため、単なる危険物処理にとどまらず、市場規模約3.5兆円へと成長したリユース産業と連携した安全な回収・再流通の出口設計が急務となっている。
★背景
スマートフォンやモバイルバッテリー、加熱式たばこなどの普及に伴い、小型電子機器の廃棄時におけるリチウムイオン電池(LIB)の発熱・発火トラブルが深刻化している。高密度なエネルギーを持つLIBは、経年劣化や衝撃によって内部短絡を起こしやすく、一般ごみに紛れ込んだ電池が収集車の圧縮板や中間処理施設の破砕機で押し潰されて火災を引き起こす事例が後を絶たない。
製品ごとに電池の取り外し可否や自治体の分別ルールが細分化されていることも、生活者の混乱を招く要因となっている。10月の「3R推進月間」を迎えるなか、清掃現場の安全確保と、家庭内に眠る死蔵バッテリーを安全な資源循環へ導くリバースサプライチェーンの再構築が大きな課題となっている。
全国の清掃現場で、リチウムイオン電池に起因する発煙・火災事故等が年間3.9万件規模に達している。
その引き金となっているのは、引き出しの奥で忘れ去られたスマートフォンやモバイルバッテリーなどの小型電子機器だ。
都庁舎の実証アンケートでは持込者の約半数が「捨て方がわからなかった」と回答する一方、発火リスクが高まる膨張バッテリーの回収方法を明示している自治体は4割強にとどまる。
危険な電池ほど出口が見えにくく、一般ごみの袋へ紛れ込んでしまう構造的な目詰まりをどう解消すべきか。
清掃現場の火災データと、3.5兆円規模へと成長を続けるリユース産業の動向から、バッテリーの安全な出口設計を読み解く。
年間3.9万件の発煙・火災事故等――全国自治体調査が暴いた「静脈の火種」
環境省が2026年9月29日に公表した「市町村におけるリチウムイオン電池等の処理状況調査結果」は、清掃・廃棄物処理インフラが抱える深刻な危機を浮き彫りにした。
全国の1,741市町村等(事務組合、特別区を含む)が回答したこの調査において、リチウムイオン電池等に起因すると疑われる発煙・火災事故等の発生件数は、令和7年度実績で年間3万9,282件に達している。
事故が多発している主因は、家庭から排出される可燃ごみ、不燃ごみ、あるいはプラスチック資源ごみの袋の中に、小型バッテリーを内蔵した製品が紛れ込んでいることにある。
ごみ収集車がごみを荷箱へ押し込む際、金属製の回転板や圧縮板がバッテリーを強い力で押し潰す。その瞬間にバッテリー内部のセパレータ(絶縁膜)が破断し、正極と負極が直接接触してショートを起こす。激しい火花とともに可燃性の電解液へ引火し、周囲の紙やプラスチックへと一気に燃え広がるのだ。
また、環境省の調査では、発煙・火災事故等の多くが破砕・選別・圧縮などを行う再資源化施設や保管場所で発生しており、問題は家庭からの収集段階にとどまらず、静脈インフラ全体の安全設計に及んでいる。
ひとたび処理施設で大規模な火災が発生すれば、設備の復旧には長期間の歳月と多額の復旧費用を要し、その間の地域のごみ処理機能は著しく停滞する。作業員の生命を危険に晒すだけでなく、自治体の財政や維持管理コストにとっても、混入する小型バッテリーは文字通りの「見えない火種」となっている。

発火リスクが高まる「膨張品」が見えにくい――回収方法明示41.3%の壁
なぜこれほど大量の電池が一般ごみへ紛れ込んでしまうのか。
調査結果をさらに読み解くと、自治体の収集体制そのものが抱える情報開示や導線設計の課題に行き当たる。
現在、全国の市町村の86.2%が、リチウムイオン電池等の分別収集ルートを設定している。表面的には、8割以上の自治体で受け入れ態勢が整っているように見える。
しかし、経年劣化や過放電によって内部でガスが発生し、変形してしまった「膨張・変形品」について回収方法を明示している市町村となると、その割合は41.3%にとどまる。
ただし、この41.3%は「回収方法を明示して回収している」自治体の割合であり、「回収できない自治体」の割合ではない。問題は、住民が事前に確認できる安全な排出ルートが十分に見える化されていない点にある。
バッテリーの構造上、膨張や変形が生じている状態は、内部劣化やガス発生などが進んでいる可能性があり、わずかな振動や外力による衝撃でも発火リスクが高まる。
しかし、そうした状態の電池は輸送時の安全確保が極めて難しく、処理を委託する民間リサイクル業者側でも受入基準が厳格に制限されている。そのため自治体によっては、メーカー、購入店、専門回収窓口などへの相談を案内するケースもある。
だが、海外製の安価なノーブランド品や購入店が不明な製品の場合、住民が自力で適切な引き取り先を見つけることは容易ではない。
事前に安全な手放し方が分からないまま、行き場を失った危険なバッテリーが家庭内に長期間死蔵され、最終的に一般ごみ袋の奥深くへと紛れ込む構造的な要因となっている。

「捨て方がわからない」が約半数――都庁AIボックス実証に見る生活者の本音
生活者の側でも、決して悪意を持って一般ごみに混ぜているわけではない。
東京都庁第一本庁舎で実施された、AI自動分別リサイクルボックス「Bin-e」の実証実験結果は、生活者が直面しているリアルな戸惑いを如実に示している。
都庁舎の実証で回収ボックスに小型家電やバッテリー内蔵機器を持ち込んだ人へのアンケートにおいて、持ち込み理由の最多となったのが「捨て方がわからなかった」(48.9%、1,508件/3,085件)だった。
この持込者の約半数という数字は、現行の分別ルールが生活者の実感といかに乖離しているかを物語っている。
かつてのガラケーや旧型のノートPC、コードレス掃除機などは、裏蓋を開けて手動で容易にバッテリーパックを取り外すことができた。そのため「バッテリーは外して家電量販店などの小型充電式電池回収ボックスへ、本体は小型家電へ」という案内が成立していた。
しかし近年の薄型スマートフォン、完全ワイヤレスイヤホン、加熱式たばこ、スマートウォッチなどは、小型化や防水性を担保するためにバッテリーが強力な接着剤で筐体内に密閉されている。一般ユーザーが道具なしで安全に取り外すことは極めて困難であり、無理にこじ開けようとすればその場で発火する危険すらある。
「一体型製品は不燃ごみなのか、危険ごみなのか、あるいは小型家電回収ボックスに入れていいのか」。
自治体ごとに異なる複雑な分別区分に迷った結果、生活者は「よく分からないから引き出しにしまっておく」という選択を取る。そして引っ越しや大掃除の際、分別を諦めて普通のごみ袋へ放り込んでしまうのだ。
意識50% vs 行動14%――中古スマホに眠るギャップとリユースの役割
家庭内に退蔵された機器を安全に吸い上げる手段として、ごみとしての廃棄だけでなく「リユース(再流通)」を通じたアプローチが注目されている。
伊藤忠グループのBelong(オンライン中古スマホ売買「にこスマ」運営)が9月30日に発表した「リユース促進プロジェクト」の意識調査は、生活者の心理に横たわる顕著なギャップを明らかにした。
調査によると、中古スマートフォンを利用することについて「環境保護や社会貢献につながる」と好意的に評価した回答者は50.2%にのぼった。リユースが環境負荷低減につながるという認識は、生活者の半数に定着している。
ところが、実際に中古スマートフォンを購入・利用した経験がある人は、わずか14.0%にとどまっていた。
意識(50.2%)と実際の行動(14.0%)の間には、3倍以上の大きな隔たりが存在している。
その背景には、中古端末の品質やデータ消去への不安などがあると考えられる。その結果、機種変更後も古い端末を下取りや中古売買に出さず、「とりあえず手元に残しておく」という行動パターンが固定化してしまう。
しかし、この14.0%という利用率は、裏を返せば適切な情報開示と品質保証さえ整えば、膨大な台数の退蔵端末を市場へ呼び戻せる巨大なポテンシャルを意味している。端末が完全に壊れて発火リスクを抱える前にリユース市場へ流し込むことができれば、専門事業者が安全にバッテリーを診断・管理し、健全な資源循環サイクルに乗せることが可能になる。

ごみ箱ではなく市場へ戻す――3.5兆円リユース産業がつくる「出口のインフラ」
リユース経済新聞社が発表した市場データによると、国内のリユース市場規模は2025年に約3.5兆円(3兆4,636億円)に達し、16年連続で右肩上がりの拡大を記録している。
中古品の売買は、もはや単なるフリマアプリの流行やリサイクルショップの枠組みを超え、国内に蓄積された資源を循環させる「サーキュラーエコノミーの基幹インフラ」へと産業規模を押し広げた。
リチウムイオン電池の出口問題を解決するために求められているのは、自治体の清掃部門だけに処理負担を押し付ける従来の手法からの脱却である。
- リユースを前提とした早期手放しの促進:端末が劣化し切る前に中古市場へ還流させ、査定やデータ消去の過程でバッテリーの健康状態を専門技術者が診断する。
- 生活動線へのアクセス拠点設置:駅、コンビニ、商業施設、公共施設など、生活者が日常的に立ち寄る場所に、耐火構造を備えた安全な自動回収拠点を整備し、「捨て方がわからない」を解消する。
- 危険品を受け止めるセーフティネット:回収方法の明示が課題となっている膨張・変形バッテリーについて、自治体任せにせず、製造メーカー、通信キャリア、静脈産業が費用と役割を分担する広域回収スキームを構築する。
使わなくなった小型電子機器をごみ箱に落とすのではなく、安全な経済の循環へ戻すこと。
生活者にとっての「出口」の敷居を徹底的に下げる仕組みづくりこそが、年間3.9万件規模の発煙・火災トラブルを減らし、都市鉱山を安全に循環させるための最も現実的なメンテナンスになる。

【参考】
環境省:市町村におけるリチウムイオン電池等の処理状況調査結果(令和7年度実績)及び関連事例集の公表について(2026年9月29日公表)
https://www.env.go.jp/press/press_05588.html
環境省:調査結果概要・PDF(リチウムイオン電池等処理状況調査結果)
https://www.env.go.jp/content/000431902.pdf
株式会社Belong:プレスリリース「伊藤忠グループのBelong、SNS投稿が中古スマホの寄付につながる『にこスマ リユース促進プロジェクト』を開始」(2026年9月30日発表)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000210.000044035.html
リユース経済新聞:「リユース業界の市場規模推計2026(2025年版)」
https://www.recycle-tsushin.com/news/detail_13290.php
株式会社フォーステック:プレスリリース「AI自動分別リサイクルボックス『Bin-e』を活用した都庁舎でのリチウムイオン電池回収、約80日間で累計1万点を突破」(2026年9月17日発表)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000122.000080115.html
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