移動の不自由さを解決する “どこでも、誰でも使える”モバイルトイレ

「toilet」と書かれたトレーラーを牽引するのは、普通自動車。トレーラーの内部は、車椅子が360 度回転できるとあって、広々しており、大人も横になれるユニバーサルシートが壁付けされている。トイレはもちろんシャワー付きの水洗式で、冷房設備も完備。電動車や発電機、家庭用コンセントと接続すれば可動するシステム。約100 回の使用が可能で、上下水道と直結すれば、使用回数の上限がない定置型としても設置できるというスグレものだ。

この移動できるバリアフリートイレを開発したのは、トヨタの社会貢献推進部。トヨタはクルマをつくる会社から、“モビリティ社会”を創造する会社への変革を目指し、「Mobilit y for ALL(すべての人に移動の自由を)」というテーマを掲げている。そのチャレンジの一つが、このプロジェクトというわけだ。

「どんな人が“移動”を“不自由”と感じているのだろうかといった疑問から、このプロジェクトがスタートしました」と話すのは、プロジェクトを担当する内山田はるかさん。

「ヒアリングを重ねた結果、車椅子の人が行きたい場所に多機能トイレがない。あっても、中が狭くて旋回できないなど、実際は使えないトイレが多いことがわかってきました。だったら、清潔で使いやすいトイレのほうが、行きたい場所に移動すればいい。そうすれば行動範囲が広がり、やりたいことの可能性も広がるのではないかというのが発想の原点です」

トヨタ自動車社会
貢献推進部
内山田はるかさん

では、どのようなトイレを思い描いて開発されたのだろうか。

「“行きたいところに行けない”という移動の不自由さを解消したかったのはもちろんですが、それだけでなく“楽しみ”を提供したかったんです。クルマって移動の手段だけでなく、その先にある楽しみを与えるツールでもあるんです。家や建物の中のトイレは温水洗浄便座で清潔なのに、野外に設置された仮設トイレになると一気にさまざまなことが制限されてしまう。あくまで快適で落ち着けるトイレ、外出が楽しみになるトイレを目指しました」

1号車、2 号車の試行錯誤を経て、ようやく3 号車で現在の大きさ、形となった。 「1号車は2トン強もあって、部屋が2 つに分かれて待合室もありましたが、走行するには牽引免許が必要でした。2 号車は小さくしてデザインにもこだわりましたが、大型トラックで運搬する必要がありました。車椅子ユーザーの一番の願いは、きちんとした機能を備えた普及しやすいもの。そこで優先順位をつけていき、3 号車は必要な機能はそのままに、普通車が牽引できる750 キロ未満の重さにしました」

そんな清潔で使いやすく、なおかつ移動できるトイレは、車椅子ユーザーだけでなく、お年寄りや赤ちゃんを抱えた家族にも使いやすく、喜ばれるはずだ。さらには、災害時などの有事も視野に入れれば、活躍の場はさらに広がることになる。

「障害の有無にかかわらず、誰でも使えるものが、必要な時に、必要な場所へ行けるというのがモバイルトイレの魅力だと思うんです。技術はどんどん進歩していて、時代によって必要な機能やユーザーの層も変わります。このトイレも完成型ではなく、進化の途上にあるものだと考えています」 このモバイルトイレが今後どのような活躍ぶりを見せてくれるのか、楽しみに注目していきたい。

移動型バリアフリーモバイルトイレ 8つのポイント

1. 車椅子やお年寄りが利用しやすいスロープ
本体には低床フロアを採用。フロアをつなぐスロープは、緩やかな傾斜にするため長めで、横幅も約90cmとたっぷり。車椅子ユーザーもお年寄りにも利用しやすい仕様だ。

2. 車椅子が360 度 回転できるスペース
内部の直径は約150cm。車椅子が360 度回転でき、コンパクトながら広々。便座は使いやすさに配慮したユニバーサルデザインの前広便座で、温水洗浄ノズルつき。

3. オムツ替えにも便利なユニバーサルシート
大人も横になれる大型のベッド・ユニバーサルシートは、体勢を変えるために腰掛けたり、オムツ替えにも便利。使わないときは壁付けでき、車椅子の移動を妨げない。

4. 投入口が大きなゴミ箱
片手でも捨てやすいスイング式で中身が見えない大型のゴミ箱。便器のすぐ横に設置してあり、便器側にも投入口があるため、生理用品などを廃棄するのにも便利。

5. ユーザーの声を反映した手すりと空調設備
天井まで届く手すりは、ユーザーの声を反映したオリジナル設計。また、冷房専用のエアコンも完備しているので、熱中症のリスクが高まる夏場も安心して使用できる。

6. 普通免許で牽引できる
大幅に小型・軽量化したことで、牽引免許は不要。普通免許の自動車で牽引できるのが最大の特徴だ。接続部分は、付属している連結ヒッチで簡単に接続できる。

7. 電動車や家庭用コンセントに接続可能
電源は、電動車や発電機、家庭用コンセントでも接続可能。必要電力は、トイレ、エアコン、温水洗浄便座が各1500 W。電動車とつないだ場合はトイレのみの稼働となる。

8. 上下水道と直結すれば定置型のトイレに
給排水には、タンクを利用する方法と、上下水道直結の2 パターンを選択できる。上下水道と直結する場合は、回数無制限で使用できる。

Text Sayuri Tsuji Photo Hiharu Takagi