一般社団法人カーボンリサイクルファンド(CRF)は、カーボンニュートラル社会の実現に向け、CO2を化学品や燃料、鉱物に変換する革新的な研究を支援する助成プログラムを今年も開始する。助成規模は最大1000万円。2050年の社会像を描きながら、炭素循環イノベーションの火種を全国から掘り起こそうとしている。

カーボンリサイクルは「技術」から「社会」へ。
国境を越えた連携と人材育成、CRFが描く「脱炭素社会」の青写真。
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、CO2排出量を削減するだけでなく、「資源」として活用し循環させるという発想が注目を集めている。こうした動きの中で、CRF(カーボンリサイクルファンド)は、カーボンリサイクルに資する研究への助成を通じて、研究者や企業の挑戦を後押ししてきた。
今回の助成公募では、化学品や燃料への転換、CO2の鉱物化、バイオによるネガティブエミッション技術、さらに制度設計や社会科学分野の研究も対象となっている。個人、大学、企業を問わず幅広い研究者に門戸が開かれ、特に若手研究者の挑戦を歓迎する姿勢が強調されている。助成規模は最大1000万円、10件程度の採択が予定されている。
これまでの採択事例の中には、国立研究開発法人NEDOとの連携により、国の研究開発プログラムへと発展した例もある。すでにCRFは、研究段階から事業化への移行を見据えた伴走支援体制を整えており、単なる研究費の提供にとどまらない「出口戦略」も明確だ。
カーボンリサイクルという概念は、もはや単一技術の革新だけでは実現し得ない。制度設計、社会受容性、国際連携、次世代人材の育成までを視野に入れた、多層的な取り組みが求められている。
CRFでは、こうした全方位型のアプローチを実現するため、研究助成だけでなく「カーボンリサイクル大学」と称した教育プログラムの実施も進めている。ワークショップ形式での人材育成に注力し、分野横断的なネットワーク構築を促す取り組みだ。
また、海外の研究機関や企業との共同研究も推奨しており、国境を越えたイノベーション創出を強く後押ししている。カーボンニュートラルは一国単位で解決できる課題ではないという認識が、CRFの支援方針の根底にある。
スタートアップ枠の継続設置で、若手研究者にも光を。
「炭素を回す」という挑戦が描く、未来の資源経済。
今回の助成では、2022年度から導入された「スタートアップ枠」も継続される。申請様式が簡素化されており、初めての応募や研究活動を始めたばかりの若手研究者にとって、大きな足がかりとなる制度だ。助成規模は数件程度とされているが、応募のハードルが低いことから、分野外からの新規参入や異分野融合型の研究提案にも期待がかかる。
公募期間は2025年5月7日から6月6日17時まで。申請対象は、大学や企業、法人に所属する研究者または研究チームで、炭素を含む資源を再活用する技術や、それを支える制度設計に関する提案が求められる。助成期間は最長で2027年7月末までと、中長期の視野で研究を進められる点も魅力だ。
かつての時代が石油に支配されたように、これからの時代は「炭素の扱い方」が国家の未来を左右する。削減するのか、封じ込めるのか、再資源化するのか…。選択肢のなかで最も希望に満ちているのが、カーボンリサイクルという考え方だ。
そこには、科学技術だけでなく、倫理観、経済合理性、そして次世代への責任という多層的な問いが絡んでいる。CRFが支援するのは、こうした問いに真正面から挑む研究者たちである。今後数年のうちに、この支援からいくつの革新技術が芽吹き、社会実装されていくのか。その成果は、日本の脱炭素戦略の中核を成すことになるだろう。