
★要点
京都伊勢丹が、若手農家や後継者、伝統産業を交差させたイベント「think good ~きょうとつながる、つづく、あすへ~」を、4月8日(水)より開催。来場者の「買う」「食べる」「作る」行為を起点に、持続可能な社会との接点を日常に引き寄せる試み。
★背景
気候危機や資源制約、地域産業の担い手不足が進む中、「生産」と「消費」を分断しない都市モデルが求められている。文化・農業・流通を横断する“都市型循環”の模索が急務。
サステナビリティは、もはや理念ではなく“売り場”に降りてきた。京都駅直結の百貨店「伊勢丹」で始まるイベント「think good ~きょうとつながる、つづく、あすへ~」は、環境配慮や文化継承といったテーマを、商品と体験を通して可視化する。本イベントの趣旨は、倫理的消費の啓発という概念的な枠組みを飛び出て、日常の延長線上にある“選択の再設計”を促すものだ。
若手農家が“カルチャー”になる――分断されてきた生産と消費の再接続
日本の農業は高齢化と後継者不足に直面して久しい。だが「SHIKI FARMERS CLUB」のような若手農家の動きは、農業を単なる一次産業から“表現”へと拡張しつつある。イベントでは、彼らの育てた果実を使ったアサイーボウルなどが並ぶ。重要なのは商品そのもの以上に、その背後にあるストーリーだ。
都市生活者にとって、生産現場は遠い存在だった。だが、百貨店という文脈に農家が入り込むことで、その距離は一気に縮まる。「誰が、どう作ったか」が購買の判断軸に入り込むとき、消費は単なる支出ではなく、関係性の選択へと変わる。農業は“見えない基盤”から、“語られる文化”へと変わり始めている。
規格外が価値になる――フードロスとアップサイクルの新しい文脈
奈良の「LIP幸せいちご園」と京都の老舗餅屋「鳴海餅本店」によるコラボ商品には、規格外のいちごが使われている。これまで市場から排除されてきた存在に、新たな価値を与える試みだ。同様に、衣料分野でもアップサイクルが進む。英国ブランド「アクアスキュータム」と京都の黒染め屋「京都紋付」の協業は、廃棄予定だった「アクアスキュータム」の製品に再び命を吹き込む。
ここで起きているのは、“もったいない”の再定義だ。単なる節約や倫理に留まらず、新しい美意識として提示されている点が実にイマドキのサステナビリティ活動だといえるだろう。
大量生産・大量消費のモデルが限界を迎える中、規格外や余剰は“ノイズ”ではなく“資源”へと転換される。その価値転換を、消費者が楽しみながら受け入れる構造が整いつつある。

伝統は“固定”ではない――後継者たちが更新する京都の技
京都の魅力は、単なる伝統の保存にはない。むしろ、それを更新し続けるダイナミズムにある。本イベントでは、染物や織物などのワークショップが日替わりで開催され、来場者自身が手を動かす。
ここで重要となってくるのが、“継承”の意味だ。従来のように技術をそのまま守るのではなく、現代の生活や価値観に適応させながら再解釈する。若手後継者、いわゆる“アトツギ”たちは、家業を単なる義務ではなく、創造のフィールドとして捉えている。
伝統産業の持続可能性は、従来の需要の維持ではなく、現代における意味・価値の更新にかかっている。体験型イベントは、その更新プロセスを可視化する装置でもある。

百貨店の再定義――“売る場所”から“思想を編集する場”へ
百貨店は長らく、モノを集めて売る場所だった。しかしECの台頭により、その役割は揺らいでいる。「think good」が示すのは、その次の姿だ。
ここでは商品が並ぶだけでなく、それぞれに思想や背景が紐づく。来場者は商品を選びながら、同時に価値観を選択する。言い換えれば、百貨店が“編集者”として機能し始めている。
重要なのは、この動きが一過性のイベントに留まるかどうかだろう。もし常設化され、購買体験の標準となれば、都市の消費構造そのものが変わる可能性がある。
“今日の選択”が未来を変える――小さな行動の積み重ね
サステナビリティは往々にして遠い話になりがちだ。しかし、このイベントが提示するのは極めてシンプルなメッセージである。「今日、何を選ぶか」。
それは大きな犠牲や我慢を伴うものではない。むしろ、少し視点を変えるだけでいい。誰が作ったのか、どこから来たのか、どんな未来につながるのか。そうした問いを持つことが、結果的に社会の構造を変えていく。
都市におけるサステナビリティは、壮大な政策だけでは実現しない。日々の消費行動の積み重ねこそが、その基盤になる。「think good」は、その最小単位の変化を促す“入口”として機能するだろう。
施設・イベント情報:
名称:hink good ~きょうとつながる、つづく、あすへ~
期間:2026年4月8日(水)~4月12日(日)
会場:ジェイアール京都伊勢丹 10階 催物場
予告:https://www.mistore.jp/store/kyoto/event_calendar/sustainable/sustainable.html
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