地球上のすべてのものには音がある
「TOMO OFFICE」と書かれた扉を開けると、思わず「わーっ」と声が出た。天井からはコルクやチューブ、ペットボトルがぶら下がり、床やテーブルにはドラム缶や一斗缶を使った不思議なものが所狭しと並んでいる。出迎えてくれた山口ともさんは、スーツ姿も決まったダンディな出で立ちながら、くるりとカールしたもみあげにチョビ髭など、すべてがオリジナルだ。そんな山口さんの肩書きは日本廃品打楽器協会会長。そう、ここにあるのはすべて廃品を使った楽器なのだ。
そもそも山口さんはプロの打楽器奏者で、数々のアーティストのツアーやレコーディングをサポートしてきた。そんな山口さんが廃品から楽器を作ることになったきっかけは、パーカッションプレーヤーとして参加した 1995 年の音楽劇「銀河鉄道の夜」。
「独特の雰囲気を持つ音楽劇には『え! この音なに?』と感じるような音が合うんじゃないかと思いました。そこで自分で作った楽器を持って行ったらすごく喜ばれたんです」
その時、山口さんが作ったのが、缶の底を長いバネでつないだような楽器だ。 「昔、紙コップで糸電話って作ったじゃないですか。糸の代わりにバネをつけてみたら、おもしろい音になっ:た。劇の世界観も広がり、自分自身も楽しくなって、そこからどっぷりハマっていったという感じです」
この「楽しい、おもしろい」という気持ちが、山口さんの廃品から楽器を作る原点だ。
ゴミじゃないよ楽器だよ
「エコロジーとか環境を考えて廃品を使っているわけではないんです。楽しくて好きに作っていたら、目黒区からゴミの歌を依頼されたり、NHK からSDGs のラジオ番組への出演依頼がきた。あ、自分がやっていることってこういうことなんだと後から気づいた感じです。今も、五感を研ぎ澄ませてみたら周りのものからいろいろな音が見つかって楽しいよということを伝えたくてやっています。ガラクタだと思っていたのが楽器になった。そのおもしろさ、楽しさのタネを、世界中に蒔いていきたいですね」。
ともともの、ガラクタ音楽会とワークショップ
ワークショップを開くと、普段音楽にはそれほど興味を示さなかった子どもたちが、みんな目を輝かせ、飽きることなく先を争って楽器を楽しんで いる様子が見られる。「学校の先生から『あの子のあんなに楽しそうな顔は見たことがない』とよく言われます。廃品の打楽器ってどう叩いてもいい、正解のない楽器。自由で力を持っているんです」と山口さん。
やまぐち とも Tomo Yamaguchi
1980 年「つのだ☆ひろとJ AP SGAP’S」でデビュー。その後フ リーの打楽器奏者として、石川さゆりなど数々のアーティストの楽曲に参加。95年の音楽劇「銀河鉄道の夜」をきっ かけに、廃品からさまざまなオリジナル楽器を作るよう になった。2017年には「越後妻有アートトリエンナーレ」の「絵本と木の実の美術館」で音あそびをテーマにした楽器を展示。現在に至るまで、オリジナル廃 品楽器を使ったパフォーマンスやワークショップを展開している。https://tomooffice.jp/ artists/yamaguchi-tomo/
Text Sayuri Tsuji Photo Hiharu Takagi