
★要点
産業技術総合研究所は、都市鉱山技術の社会実装と普及を加速する拠点として「SURE技術普及推進センター(SURE PROST)」を開所した。廃製品に含まれるレアメタルなどの有用資源を、高度な破砕・選別・分析技術によって取り出し、元の製品と同等レベルの品質で再利用する「水平リサイクル」を進めるための研究・実証拠点である。使い終えたパソコン、スマートフォン、家電、電子部品は、もはや単なる廃棄物ではない。都市に眠る資源ストックであり、計画的に開発すべき“戦略的都市鉱山”である。
★背景
脱炭素、電動化、デジタル化、防衛、半導体、再生可能エネルギー産業の拡大によって、レアメタルや貴金属の需要は高まり続けている。一方で、資源は特定国に偏在し、輸出規制、価格高騰、地政学リスクが産業を揺さぶる時代になった。これからの資源循環は、「捨てられたものをできる範囲で再利用する」段階から、「都市の中にある資源を把握し、回収し、選別し、再び産業へ戻す」段階へ移る必要がある。高度リサイクルは、廃棄物処理ではなく、経済安全保障と循環経済を支える都市メンテナンス技術である。
都市は、資源を消費する場所だった。鉱山で掘られた金属を使い、製品を買い、古くなれば捨てる。だが、その見方は変わりつつある。使い終えたスマートフォン、パソコン、家電、電子部品の中には、金、銅、レアメタル、希少な素材が眠っている。都市は、ただの消費地ではない。資源が集積する“鉱山”でもある。産総研が進める「戦略的都市鉱山」は、廃製品を場当たり的に処理するのではなく、計画的に選別し、価値を取り出し、再び産業へ戻す技術だ。掘る社会から、回収し続ける社会へ。資源循環は、都市の新しいメンテナンスになろうとしている。
都市鉱山とは何か——廃製品の中に眠る資源を見る
都市鉱山とは、都市の中に蓄積された金属資源を鉱山に見立てる考え方である。
スマートフォン、パソコン、ゲーム機、家電、自動車、通信機器、産業機械…。
これらの製品には、多くの金属が使われている。銅、アルミ、鉄、金、銀、パラジウム、タンタル、ネオジム、リチウム、コバルト。
製品としての役目を終えても、素材としての価値は残る。
問題は、その価値を取り出せるかどうかだ。
都市鉱山は、天然鉱山とは違う。鉱石のように一定の成分でまとまっているわけではない。廃製品は、種類もメーカーも年代も構造もばらばらだ。ネジ、基板、磁石、樹脂、セラミック、電池、配線、微小部品が複雑に組み合わされている。しかも、回収される量や品質も一定ではない。
ただ集めれば資源になるわけではない。
ただ壊せば材料に戻るわけでもない。
高度な選別技術が必要になる。
どの部品に何が含まれているか。どう破砕すれば素材ごとに分かれるか。どの順番で処理すれば価値を失わないか。どこまで純度を高めれば、再び製品に使えるか。
産総研が提唱する「戦略的都市鉱山」は、ここに踏み込む。
都市鉱山を、単に「都市に眠る資源」として見るのではない。必要な技術を組み合わせ、計画的に高度リサイクルを進める“開発対象”として捉える。
つまり、都市鉱山は発見するものではなく、育てるものでもある。
高度選別技術が、水平リサイクルを可能にする
リサイクルには、質の差がある。
使い終えた素材を、元より低い用途へ回すことはカスケードリサイクルと呼ばれる。もちろん、それにも意味はある。だが、資源循環を本気で進めるなら、元の製品と同等レベルの品質で再利用する「水平リサイクル」が重要になる。
例えば、電子部品に含まれるレアメタルを取り出して、再び電子部品や高性能素材へ戻す。銅を銅として、貴金属を貴金属として、機能性を落とさずに戻す。これができれば、天然資源の採掘量を減らし、輸入依存を下げ、資源の国内循環を高められる。
その鍵が、高度選別技術である。
産総研のSURE PROSTには、廃製品の高度な選別技術・装置が集約されている。
大空間ラボや実験室には、破砕・選別機が並び、廃製品の構造データや破砕後の単体分離データを分析する装置群も導入されている。廃製品をどう壊し、どう分け、どう価値を残すか。その実証と普及を進める拠点だ。
ここで面白いのが、「逆解析」という発想である。
通常なら、対象物の成分をあらかじめ把握し、それに合わせて処理方法を考える。
だが、リサイクル現場では、目の前の廃製品の組成が正確にわからないことも多い。
そこで、比重、磁性、電気伝導率などの物理特性で選別し、その結果から素材を推定する。正体不明のものを、分けながら理解する。そこにAIや機械学習を組み合わせる。
これは、廃棄物の健康診断に近い。都市鉱山は、均質な鉱石ではない。だからこそ、対象に合わせて処理を変える知能が必要になる。
破砕し、測り、分け、推定し、また改善する。高度リサイクルは、単なる力仕事ではない。データと物理特性を読む精密な技術である。

CEDEST:個別装置開発を実施するNEDOプロジェクト集中研究施設(2025年現在)
RECST:装置システム開発を実施するNEDOプロジェクト集中研究施設(2025年現在)
LATEST:国内外37機の破砕・選別機を設置(PROST別館として利用)

レアメタル回収と経済安全保障
都市鉱山が注目される理由は、環境だけではない。経済安全保障である。
レアメタルやレアアースは、電気自動車、風力発電、蓄電池、半導体、通信機器、医療機器、防衛装備、ロボット、AIインフラに欠かせない。脱炭素とデジタル化が進むほど、必要量は増える。
だが、資源は地球上に均等には存在しない。採掘や精製が特定の国や地域に偏る。輸出規制、紛争、地政学リスク、価格高騰が起これば、製造業は大きな打撃を受ける。
日本は資源小国である。だからこそ、使い終えた製品の中にある資源を国内で回収し、再び産業へ戻す力が重要になる。
産総研の記事では、2010年のレアアース輸出規制をきっかけに、日本の製造業が衝撃を受けた経緯にも触れている。資源価格の高騰と暴落を経験し、短期的な市場変動に振り回されない中長期的な技術開発と社会実装が必要になった。
ここで「戦略的」という言葉が効いてくる。
都市鉱山は、景気が良いときだけ掘ればよいものではない。資源危機が起きてから慌てて整えるものでもない。平時から回収網、選別技術、再利用先、人材、装置産業、データ基盤を整えておく必要がある。
資源循環は、環境政策である。
同時に、産業政策であり、安全保障政策でもある。
スマートフォン一台の中の金属は小さい。だが、都市全体、国全体で見れば、膨大な資源の蓄積になる。
それを見える化し、取り出し、再利用する技術は、日本の製造業を支える静かな防衛線になる。
掘る社会から、回収し続ける社会へ
20世紀型の資源利用は、掘る、つくる、使う、捨てる、という流れだった。
鉱山から採掘する。製品をつくる。消費する。廃棄する。足りなくなれば、また掘る。
大量生産と大量消費は、この一方通行の流れに支えられてきた。
だが、この流れには限界がある。
採掘は自然を壊す。精錬はエネルギーを使う。輸送はCO2を出す。廃棄物は増える。資源国への依存は高まる。
さらに、製品が高度化するほど、使われる金属は多様化し、分離は難しくなる。
これから必要なのは、掘り続ける社会ではなく、回収し続ける社会である。
製品が使われた後も、素材としての価値を失わせない。分解しやすく設計する。回収しやすくする。何が含まれているかを記録する。
選別し、再精製し、再び製造へ戻す。都市の中に流れる資源を、血液のように循環させる。
産総研の記事では、製造業を「動脈産業」、廃製品を再び資源として戻すリサイクル産業を「静脈産業」と捉えている。
これまで静脈産業は、後始末のように見られがちだった。だが、循環経済では違う。静脈が強くなければ、動脈も続かない。
資源を安定して供給する。
再生材の品質を高める。
回収から製造までをつなぐ。
廃棄物を価値ある素材へ戻す。
静脈産業は、循環経済の心臓部になる。
都市鉱山には“情報”も必要だ
資源を回すには、物理的な選別だけでは足りない。情報も必要である。
どの製品に、どの素材が、どれだけ含まれているのか。どのように使われ、どのように回収されたのか。破砕後の品質はどうか。再生材として、どの用途に使えるのか。環境負荷はどれだけ削減できるのか。含有物質のリスクはないか。
この情報がなければ、再生材は市場で選ばれにくい。
新品材なら、品質が安定している。仕様も明確だ。買い手は安心して使える。
一方、再生材は、出自や品質のばらつきが見えにくい。どれほど環境に良くても、製造現場で使いにくければ広がらない。
だから、都市鉱山には“履歴書”が必要になる。
近年、デジタル製品パスポートやトレーサビリティへの関心が高まっている。
再生材の由来、処理工程、品質、CO2削減効果を記録し、サプライチェーンで共有する仕組みだ。産総研が進める高度選別技術も、こうした情報基盤と結びつくことで価値が高まる。
循環経済は、モノの循環であると同時に、情報の循環でもある。
製品がつくられる。使われる。回収される。選別される。再資源化される。再び製品になる。
この流れの中で、情報が切れると価値も切れる。逆に、情報がつながれば、再生材は安い代替品ではなく、信頼できる資源になる。
都市鉱山を本当に開発するには、破砕機だけでなく、データの設計がいる。
日本の強みは、選別技術を産業にできるか
日本には、資源が少ない。これは弱点だ。だが、別の見方もできる。資源が少ないからこそ、回収し、分け、磨き、使い切る技術を強くする意味がある。
産総研の記事では、廃棄物を大量にカスケードリサイクルする技術では欧州が先行する一方、レアメタルを製品と同等レベルで再利用する水平リサイクル技術では日本に強みがあると語られている。
これは重要だ。
循環経済は、理念だけでは勝てない。制度だけでも足りない。
実際に分けられるか。品質を保てるか。コストを下げられるか。装置をつくれるか。人材を育てられるか。社会実装できるか。そこが勝負になる。
SUREコンソーシアムは、産総研内の戦略的都市鉱山研究拠点を軸に設立された官民連携組織であり、企業や業界団体など多くの会員が参加している。
目標は、素材資源循環率の向上、リサイクル産業の技術向上、リサイクル装置産業の成長、プラントの国産化である。
ここには、単なる研究を超えた産業戦略がある。
高度選別技術を開発する。
装置産業を育てる。
技術者を育成する。
国内の資源循環率を上げる。
海外へリサイクルプラントを展開する。
都市鉱山は、日本の新しい産業になる可能性を持つ。
資源を輸入するだけの国から、資源循環技術を輸出する国へ。そこに、循環経済の攻めの側面がある。
都市を“資源の倉庫”として読み直す
都市鉱山の本質は、リサイクル技術だけではない。都市の見方を変えることにある。
これまで都市は、資源を外から取り込み、製品を使い、廃棄物を外へ出す場所だった。
入口には鉱山と工場があり、出口には処分場がある。都市は、その中間にある巨大な消費装置だった。
だが、戦略的都市鉱山の発想では違う。
都市は、資源の終着点ではない。資源が一時的に滞在している倉庫である。
スマートフォンも、パソコンも、家電も、通信機器も、太陽光パネルも、蓄電池も、使用中のあいだだけ製品の形をしている。
寿命を迎えれば、それらは再び金属、部品、素材へ戻る可能性を持つ。
そのためには、都市の中にある資源を“在庫”として読む必要がある。
どこに、どの製品が、どれだけあり、いつ廃棄され、どのルートで回収できるのか。そこに含まれる金属は何か。分けやすい構造なのか。再資源化したとき、どの産業へ戻せるのか。
都市鉱山を開発するとは、単に廃棄物を集めることではない。都市の資源台帳をつくることでもある。
ここで重要になるのが、製品設計、回収制度、選別技術、再生材の品質保証、データ管理の接続だ。
分解しにくい製品は、都市鉱山になりにくい。素材情報が残っていない製品は、再資源化のコストが上がる。回収ルートが弱ければ、資源は家庭や倉庫に眠ったままになる。再生材の品質が証明できなければ、メーカーは使いにくい。
つまり、都市鉱山はリサイクル工場だけで完結しない。
設計する人、売る人、使う人、回収する人、選別する人、再生材を使う人が、一つの循環の中で円環のようにつながる必要がある。
都市鉱山とは、都市全体を資源循環の装置として組み直す考え方である。
産総研の高度選別技術は、その中核を担う。
正体のわかりにくい廃製品を測り、破砕し、分け、素材としての価値を取り戻す。人の目と手に頼っていた作業を、データと装置と分析で高度化する。そこから、廃棄物処理は“後始末”ではなく、“次のものづくりの入口”へ変わる。
これからの都市には、二つの地図が必要になるだろう。
一つは、人が暮らすための地図。道路、駅、学校、病院、公園、住宅、商業施設。
もう一つは、資源が循環するための地図。製品、部品、金属、回収拠点、選別施設、再生材の行き先。
前者だけでは、都市は消費地にとどまる。後者を重ねたとき、都市は鉱山になる。
掘る鉱山は、山を削る。
都市鉱山は、使い終えたものから価値を掘り起こす。
この違いは大きい。
自然を削って資源を得るのか。すでに社会に入った資源を何度も使うのか。循環経済の成熟度は、この差に表れる。
都市をメンテナンスするとは、建物や道路を直すことだけではない。都市に蓄積した資源を見失わず、価値ある形で社会へ戻し続けることでもある。
都市は、消費の場所から、資源を育てる場所へ変われる。
戦略的都市鉱山とは、そのための技術であり、制度であり、都市の新しい読み方である。
産総研マガジン:高度リサイクルの社会実装を加速する SURE技術普及推進センターの挑戦
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20260624.html
FAQ
Q. 都市鉱山とは何か。
A. 使用済みの電子機器、家電、自動車、通信機器など、都市に蓄積された製品の中に含まれる金属資源を、天然鉱山に見立てた考え方である。金、銅、レアメタル、レアアースなどを回収し、再び産業に戻すことが期待されている。
Q. 産総研の「戦略的都市鉱山」とは何か。
A. 都市鉱山を、単に都市に眠る資源として見るのではなく、必要な技術を組み合わせて計画的に開発し、高度リサイクルを実現する考え方である。高度選別、分析、装置開発、人材育成、社会実装を一体で進める。
Q. SURE PROSTとは何か。
A. 産総研が開所した「SURE技術普及推進センター」のことである。廃製品の高度な選別技術・装置を集約し、再生資源を元の製品と同等レベルの品質で再利用する「水平リサイクル」を進めるための研究・実証・普及拠点である。
Q. なぜ高度選別技術が重要なのか。
A. 廃製品は素材や部品が複雑に混ざり、組成も一定ではない。高純度で資源を取り出せなければ、再び製品に使うことが難しい。高度選別技術は、再生材の品質を高め、水平リサイクルを可能にする鍵になる。
Q. 都市鉱山は経済安全保障とどう関係するのか。
A. レアメタルやレアアースは、電動車、半導体、再エネ、通信、防衛などに不可欠だが、供給が特定国に偏る場合がある。国内の廃製品から資源を回収できれば、輸入依存や地政学リスクを下げる手段になる。
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