
★要点
大林組(本社:東京都港区、社長:佐藤俊美)が全国123の工事事務所・事業所から、約2トン(5,000着)の現場作業服を一斉回収。JEPLANの再生技術と辰野の供給網を連携させ、廃棄されるはずだった衣類を新たな資源・製品へと生まれ変わらせる大規模リサイクルを実施。
★背景
建設業界は全産業の中でも廃棄物排出量が多い。「作る責任」だけでなく「使い終わった後の責任」が問われる中、単発的なエコ活動ではなく、全国規模の物流網を使った“システムとしての循環”を構築する必要があった。
かつて、建設現場の作業服は「消耗品」だった。汗と油にまみれ、破れれば捨てられる。それが現場のリアリティであり、避けられないコストだと誰もが思っていた。だが、その常識は過去のものになりつつある。大林組が仕掛けたのは、全国123カ所から使い古された作業服を一斉に回収し、資源として蘇らせる巨大な実験だ。これは単なるゴミ減らしではない。巨大な建設産業が、自らの脱皮をかけて挑むサーキュラーエコノミーの実践である。
全国123拠点を繋ぐ“逆”物流――2週間で2トンの回収劇
プロジェクトの規模感が、本気度を物語っている。2025年5月下旬からのわずか2週間で、北は北海道から南は九州・沖縄まで、全国に散らばる123の現場から約5,000着の作業服が集められた。総重量にして2.078トン。これだけの量を短期間で回収するには、通常の資材搬入とは真逆の「静脈物流」を精緻に設計する必要がある。
現場事務所にとって、廃棄物は処理コストそのものだ。それを分別し、回収ルートに乗せる。この手間を「未来への投資」として現場レベルまで浸透させた点に、大林組の組織力が見て取れる。回収規模は、協働する株式会社JEPLAN(本社:神奈川県川崎市、社長:髙尾正樹)、辰野株式会社(本社:大阪市中央区、社長:辰野光彦)にとっても過去最大。3社の連携が、机上の空論だった循環モデルを実働させた。

「燃やす」から「生まれ変わる」へ、ケミカルリサイクルの妙技
回収された作業服は、どこへ行くのか。従来なら焼却炉行きだったそれらは、JEPLANの工場へと運ばれる。ここで鍵となるのが、繊維を分子レベルまで分解して再生する「ケミカルリサイクル」技術だ。
単に裁断してウエス(雑巾)にするダウンサイクルとは訳が違う。汚れや不純物を取り除き、新品同等のポリエステル樹脂に戻すことで、再び高品質な繊維製品として蘇る。そして、辰野がそれを製品化し、再び大林組の現場へと還流させる。
「資源→製品→廃棄」という一方通行(リニアエコノミー)を断ち切り、円環を描く。このループが閉じられた時、現場作業服はゴミではなく、繰り返し使える「資産」へと定義が変わる。



建設業がサーキュラーエコノミーのハブになる日
今回の取り組みは、布製品の循環にとどまらない。大林組が見据えるのは、回収した繊維を「建設資材」へと転用する未来だ。
衣類から吸音材へ、あるいはコンクリートの補強繊維へ。もしこれが実現すれば、建設会社は巨大な「都市鉱山」ならぬ「都市繊維銀行」になる。社員が着る服が、やがて社員が建てるビルの一部になる――そんなSFのような世界観が、「Obayashi Sustainability Vision 2050」のロードマップに描かれているのかもしれない。
建設業は、資源を大量に消費する産業だ。だからこそ、そこが変わればインパクトは計り知れない。作業服という身近なツールから始まった変革は、やがて業界全体の体質を変える呼び水になるはずだ。
企業・団体情報
株式会社大林組:東京都港区港南2-15-2
https://www.obayashi.co.jp/
辰野株式会社:大阪市中央区南本町2-2-9
https://www.tatuno.co.jp/
株式会社JEPLAN:神奈川県川崎市川崎区扇町12-2
https://www.jeplan.co.jp/
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