
★要点
重症の赤ちゃん・子どもを支えるPICU(小児集中治療)の「医療崩壊を防ぐ」ため、非営利型一般社団法人Heartkids’LIFELELINKが2026年に「みんなのハート」プロジェクトを始動。寄付(サポーター)と発信(アンバサダー)で、現場を支える輪を広げようとしている。
★背景
医療者不足は世界規模で深刻化し、専門性の高い領域ほど“穴”が開きやすい。小児集中治療も例外ではなく、限られた人材と施設に負荷が集中しやすい構造がある。
子どもの救命医療は「当たり前」ではない。高度で、手間がかかり、しかも患者数は大人より少ない。つまり、市場原理に任せると弱りやすい領域だ。
その“最後の砦”とされるPICUをめぐり、北海道発の非営利型一般社団法人Heartkids’LIFELINKが2026年、「みんなのハート」プロジェクトを立ち上げる。合言葉は、子どもの医療は社会で育てる——。寄付と広報、そしてアップサイクルジュエリーまで持ち込んだ、この提案の射程を見ていく。
「少ない」からこそ壊れやすい。PICUは“薄いインフラ”だ
小児集中治療は、設備も人も要る。だが、全国にどれだけ厚く敷かれているかというと、心許ない。たとえば国内PICUの実態をまとめた調査では、2017年時点でPICUは限られた施設数と病床数にとどまり、担当する専従医(intensivist)も決して潤沢ではない状況が示されている。
この「薄さ」は、そのまま脆さになる。感染症の波、災害、搬送の集中——イベントが起きた瞬間に余裕が消える。さらに少子化が進むほど、症例は希少化し、学びの機会も分散しにくい。現場は高度化し、担い手は減る。矛盾した条件の上に、子どもの命綱は張られている。
世界的な人手不足の“しわ寄せ”が来る。医療者の疲弊は国境を越える
医療者不足は日本だけの問題ではない。世界規模でヘルスケア人材の不足が指摘され、各国で獲得競争も起きる。条件の厳しい現場ほど、人が抜けやすい。
小児集中治療は、まさに条件が厳しい。昼夜を問わない対応、緊張が続く判断、家族のケアまで含めた“総力戦”。しかも専門性は簡単に代替できない。ここが崩れると、地域の救命ラインそのものが細る。だからこそ「社会が支える」発想が必要になる。
寄付を“参加”に変える。「サポーター」と「アンバサダー」の設計
Heartkids’LIFELINKの新プロジェクトが面白いのは、支援を二層に分けた点だ。一つはサポーター。年間3,000円以上の寄付で伴走者になってもらう。もう一つはアンバサダー。SNS発信やイベント参加など、語り手として関与してもらう。
ここには現代的な読みがある。寄付は「お金の支援」だが、それだけでは社会の空気は変わらない。いま必要なのは、課題を見える化し、語れる人を増やすこと。医療の危機は、数字だけでは伝わらない。生活者の言葉に翻訳されて初めて、政治も企業も動きやすくなる。

“お守り”としてのアップサイクル。循環とケアを同じフレームに置く
返礼品として用意されたのは、アップサイクルジュエリー「みんなのハート」だ。ペットボトル再生素材を使い、就労支援事業所とアーティスト、当事者団体が共同でつくる。
ここで重要なのは、ジュエリーが単なる「特典」ではないことだ。身に着けることで理念を可視化し、会話が生まれる。しかもアップサイクルは、モノを循環させるだけでなく、働く機会や関係性も循環させる。
医療と環境は別テーマに見えて、実は同じ地平にある。どちらも“見えにくいコスト”を社会がどう引き受けるかの問題だからだ。捨てれば楽、切り詰めれば早い。その先に残るのは、壊れたインフラと、取り返しのつかない損失である。

AIは「医療者を置き換える」話ではない。知を共有し、現場を軽くする
同法人は、診療支援・教育支援のAIシステム「YUPO-SAPO(ユポサポ)」の開発にも取り組むという。
ここで期待される役割は明確だ。医療者を置き換えるのではなく、現場の知を蓄え、迷いどころを支える“補助輪”になること。希少症例が多い領域では、経験が個人や施設に閉じがちだ。共有できれば、地域差の縮小にも効く可能性がある。
ただし、AI導入は魔法ではない。データの質、責任分界、現場の運用設計が伴わなければ、むしろ負担が増える。だからこそ「教育」と「診療支援」をセットで語る発想が現実的だ。テクノロジーは、現場の時間を取り戻すためにこそ使うべきだろう。
“続く仕組み”にするための条件
プロジェクトを点で終わらせない条件は三つある。
第一に、語り手の増殖。アンバサダーは広告塔ではなく、社会の翻訳者だ。医療の話を、生活の言葉に変える人が増えるほど、支える側の裾野が広がる。
第二に、参加の導線。寄付、イベント、身に着ける、シェアする——関与の入口を複数用意することで、支援は“習慣”になる。
第三に、現場の負担を減らす実装。AIやナレッジ共有は、導入すること自体が目的ではない。現場の夜を減らし、教育の質を上げ、離職を食い止める。そこまで落とし込めたとき、ようやく医療崩壊を止める力になる。
子どもの医療は、未来への投資だ。けれど投資は、放っておけば細る。
「みんなのハート」は、寄付を“社会参加”へ言い換え、循環の倫理で支援を広げようとしている。命をつなぐ現場を、社会が一緒に育てる——その文化をつくれるかどうかが問われている。
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