
★要点
脱炭素社会に向けた再生可能エネルギーの導入が進むなか、持続可能性の焦点は初期投資の拡大から「いかに設備を長持ちさせ、資源を循環させるか」へシフトしている。
風力発電では、ユーラスエナジーホールディングスのグループ会社である株式会社ユーラステクニカルサービスが、これまで海外の研修機関に依存していたブレード補修人材の育成を国内で実施できる体制を構築するため、千葉県印西市の「ユーラストレーニングセンター」を拡張し、専用トレーニング施設を整備する(2027年3月完成予定)。
水素・燃料電池の領域でも、MWCC株式会社が水電解やセルに不可欠な白金・イリジウムを製造工程等の超低濃度液から高選択に回収する技術でNEDOの補助金交付決定を受けたほか、名古屋大学と名城ナノカーボンが3万サイクルの耐久試験後も電気化学的表面積96.9%を保持する高耐久触媒を開発した。
「直す人」の国内育成と「戻す技術」の確立という両輪から、再エネを真に持続可能にするメンテナンスの現場を読み解く。
★背景
太陽光パネルや大型風力発電、水素サプライチェーンなどの次世代エネルギーインフラは、自然環境下で長期にわたり稼働し続けることが前提となっている。
しかし、過酷な洋上・山岳環境に晒される風車ブレードは雷や風雨による損傷が避けられず、従来はその専門的なトレーニングの多くを海外の研修機関に頼らざるを得ず、渡航費や長期離脱が国内育成の大きな壁となっていた。
また、燃料電池や水電解装置には白金(プラチナ)やイリジウムといった極めて希少な白金族貴金属(PGM)が電極触媒として使用されているが、これらの資源枯渇や供給制約はインフラ拡大の足枷となり得る。
発電設備をただ「つくる」段階から、国内で「直して回し続ける人材」を育て、製造工程などで失われていた重要資源を「材料循環へ戻す技術」を整える保全インフラの構築が急務となっている。
巨大な白い翼が、日本海からの強風を受け止めて回転を続ける。
だが、そのブレードの先端は、激しい風雨や落雷によって日々わずかずつ削られ、微細な傷を刻んでいる。
再生可能エネルギーを電力網に増やすことばかりが注目される陰で、発電現場はいま、切実な問いに直面している。
「傷ついたとき、誰が、どうやって現場で直すのか」。
国内各地で風車が稼働し、燃料電池や水電解装置の社会実装が進み始めるいま、ネックとなっているのは製造技術だけでなく、維持管理と資源循環のボトルネックだ。
ブレードの補修技術を海外の教育機関に頼り続け、燃料電池の重要触媒を海外の希少鉱山に依存したままでは、日本のエネルギー自給は足元から揺らぎかねない。
現場に「直す人」を育て、重要金属を「戻す技術」を磨く。
再エネを長期にわたって生かし続けるための、泥臭くも最先端のメンテナンス戦略を追う。
風車の翼を誰が直すのか――ユーラステクニカルサービスが挑む「ブレード補修人材」の国内育成
風力発電において、発電効率と安全性を左右する最重要部材が「ブレード(風車の羽根)」である。
数十メートルの長さに達するブレードは、軽量化と強度を両立させるため繊維強化プラスチック(FRP)で作られているが、雷や台風、塩害、砂塵など日本の多様な自然条件による摩耗によって劣化が進みやすい。ブレードの表面が荒れれば空力特性が落ちて発電量が低下し、微細なクラックを放置すれば破損事故につながる。
しかし、損傷診断、研磨、積層、接着、成形などのブレード補修技術を身につけた技術者の育成にあたっては、専門的なトレーニングの多くを海外の研修機関に頼らざるを得ず、渡航費や滞在費、長期間の業務離脱が国内育成の壁となっていた。
この構造的課題を打破すべく、ユーラスエナジーホールディングスのグループ会社である株式会社ユーラステクニカルサービスは、2026年9月28日、経済産業省の「令和8年度 洋上風力発電人材育成事業費補助金」に採択されたと発表した。
千葉県印西市の「ユーラストレーニングセンター」を拡張し、国内でブレード補修人材を継続的に育成するための専用トレーニング施設を整備する(2027年3月完成予定)。
今年度中に国内講師1名の認定を目指し、国内で継続的に補修技術者を育成できる体制を整える。
洋上風力発電の大規模展開が控えるなか、国内で即応できる保守・育成基盤の構築は、稼働率の維持と発電コスト抑制に直結する重要なインフラ投資といえる。

希少貴金属を国内で回す――MWCCが拓く白金・イリジウムの超低濃度回収
もう一つのボトルネックが、脱炭素社会の基盤となる水素・燃料電池インフラにおける「貴金属資源リスク」である。
水を電気分解してグリーン水素を製造するPEM(プロトン交換膜)型水電解装置や、水素から電力を取り出す燃料電池には、高電位や強酸性に耐えうる触媒として白金(Pt)やイリジウム(Ir)などの白金族貴金属(PGM)が不可欠である。しかし、これらの金属は南アフリカなど限られた地域に偏在しており、採掘に伴う環境負荷や地政学リスク、価格高騰が普及の壁となっている。
この課題に対し、MWCC株式会社は2026年10月1日、NEDOの2026年度第1回「新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業」(新エネ中小・スタートアップ支援制度)において、採択されていた研究開発テーマについて補助金の交付決定通知を受領したと発表した。
同社が開発する「DPS(DualPoreSystem)回収技術」は、独自の表面修飾シリカゲルを使い、不純物が共存する液中から対象となる貴金属を高速・高選択に回収する技術だ。パラジウム回収で商業実績を有する低濃度貴金属回収技術を、今回は燃料電池や水電解装置に使われる白金およびイリジウムへ拡大する。
製造工程などから排出される超低濃度液に含まれる貴金属を国内で回収するルートが整えば、海外資源への依存低減につながる可能性がある。

3万サイクル後も劣化しにくい――名古屋大が開発した触媒96.9%維持の長寿命化
資源を効率的に戻す技術と並んで不可欠なのが、そもそも製品自体の寿命を伸ばす「設計・材料レベルの長寿命化」である。
名古屋大学大学院工学研究科と名城ナノカーボンの研究グループは2026年9月30日、燃料電池の劇的な高耐久化を実現する新触媒の開発を発表した。
従来の白金担持カーボン触媒は、起動停止や負荷変動を繰り返すうちにカーボンの腐食や白金微粒子の凝集・溶出が起き、発電性能が劣化するという問題を抱えていた。
研究グループは、白金ナノ粒子を窒素導入数層グラフェンで包み込み、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)上に固定した新しい燃料電池用電極触媒(Pt@N-FLG/SWCNT)を開発。実際の燃料電池を模した膜電極接合体(MEA)を用いた3万サイクルの加速耐久試験後も、電気化学的表面積の96.9%を保持することを確認した。さらに、1.0〜1.5Vという厳しい高電位条件での5,000サイクル試験でも、電気化学的表面積の低下は27.2%に抑えられた。
劣化しにくい素材をつくることは、設備の交換サイクルを長期化させ、メンテナンス頻度と生涯コストを低減させる直截なソリューションとなる。「壊れにくく長持ちさせること」自体が、最も効果的な省資源化メンテナンスである。
つくる再エネから、直して使い倒す再エネへ
2026年秋のエネルギー動向を見渡すと、「いかに長く回し、いかに地域で使い倒すか」という視点への転換が各所で加速している。
株式会社タクマなどは10月2日、静岡県の「クリーンセンター志太」で発電するCO₂フリー電力を、2027年1月から焼津市・藤枝市などの公共施設へ順次供給する地産地消型エネルギー供給事業に関する基本協定を締結したと発表。同施設では、タクマグループ会社である株式会社志太ハイトラストが20年間の運営業務を担う予定だ。
また、日本原子力研究開発機構、北海道大学、国立環境研究所らの研究チームは10月1日、スギ植林地のCO₂吸収量と木材生産による利益の関係を評価できるモデルを用い、最適管理がカーボンニュートラルと経済的利益の両立に寄与する可能性を示した。ただし、同研究は持続的な管理には林業コストの6割以上を補助金で賄う必要があることも示しており、森林の保守を成立させるには、技術だけでなく継続的な経済支援が不可欠である。
さらに、グリーンエナジー&カンパニーによる京都府福知山市での系統用蓄電所運用開始(9月30日発表)や、フードロス削減事業を手がけるクラダシによる島根県安来市での蓄電所着工(9月29日発表)に見られるように、余剰再エネを地域で貯蔵・調整するアセットの地方展開も相次ぐ。
これらはいずれも、単に新しい発電所を建設するだけでなく、地域に根ざした保守体制や調整インフラを整え、長期的にエネルギーを回し続けるための布石である。



人材と資源が循環して初めて、インフラは完成する
これまで日本の再生可能エネルギー政策は、固定価格買取制度(FIT)などに牽引され、「新設容量をどれだけ積み上げるか」という動脈側の指標に重きを置いてきた。
しかし、風車の補修技術者が育たず、製造工程や利用後の循環ルートで貴重な白金族貴金属が十分に回収されないままでは、真のエネルギー自給とは呼べない。
ユーラステクニカルサービスが印西市に築くトレーニング拠点は、設備を現場で守り抜く育成基盤を国内に根づかせる試みだ。
MWCCの貴金属回収技術と名古屋大学の高耐久触媒は、「回収」と「長寿命化」の両面からマテリアルの制約に先手を打つ「技術の知恵」である。
現場で直せる技術者が育ち、製造工程などで失われていた重要資源を国内の材料循環へ戻す道筋が見える。
「直す人」と「戻す技術」という保全のインフラが組み合わされて初めて、日本の再生可能エネルギーは真の意味で自立し、永く社会を支え続ける資産となる。
【参考】
株式会社ユーラステクニカルサービス:「令和8年度 洋上風力発電人材育成事業費補助金」に採択 ~ブレード補修人材の国内育成基盤を構築~(2026年9月28日発表)
https://www.eurus-technical-service.com/news/00041/
MWCC株式会社:「燃料電池・水電解の普及を支える白金族貴金属国内循環システム構築に向けたDPS回収技術の実用化研究開発」について、NEDOより補助金の交付決定(2026年10月1日発表)
https://mwcc.jp/news/4774/
名古屋大学:高活性・高耐久な燃料電池用触媒を開発 ~白金をグラフェンで包み長寿命化、自動車など燃料電池の利用拡大へ道~(2026年9月30日発表)
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2026/09/post-1071.html
株式会社タクマ:志太広域事務組合の新ごみ処理施設「クリーンセンター志太」のCO₂フリー電力を活用した地産地消型エネルギー供給事業に関する基本協定を締結(2026年10月2日発表)
https://www.takuma.co.jp/news/2026/20261002.html
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構/北海道大学/国立環境研究所:スギ林の最適管理が日本のカーボンニュートラル達成の鍵(2026年10月1日発表)
https://www.jaea.go.jp/02/press2026/p26100103/
株式会社グリーンエナジー&カンパニー:グリーンエナジー&カンパニー、自社保有の系統用蓄電所、京都府で運用開始― 鹿児島・広島に続く3拠点目、関西エリアへ展開 ―(2026年9月30日発表)
https://green-energy.co.jp/news/post-148.php
株式会社クラダシ:クラダシ、島根県安来市で「島根安来蓄電所」を着工 ~グリーンエナジー&カンパニーと連携し、電力系統の安定化に貢献~(2026年9月29日発表)
https://corp.kuradashi.jp/news/2026-09-29/
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