
★要点
コーヒー2050年問題が現実味を帯びる中、米100%の「玄米デカフェ」が“新ジャンル”として浮上。山形・庄内の旧上水場を再生し、単一原料の嗜好品を世界市場へ送り出す挑戦が始まった。
★背景
気候変動による一次産品リスク、世界的なカフェイン忌避、地域資源の未活用。これらが交差する地点で、日本の稲作文化を「飲む文化」へと翻訳する試みが加速している。
コーヒーは永遠ではない。
気候変動により、2050年までに栽培適地が半減すると言われる中、山形・庄内の田園に佇む昭和の旧上水場から立ち上がったのは、「お米を焼いて淹れる」という、きわめてシンプルで大胆な答えだった。
玄米100%。カフェインゼロ。代替ではなく、新しい嗜好品としての“ライスコーヒー”。
庄内ロースタリーは、飲み物の話でありながら、農業、環境、文化の未来を問う装置でもある。
コーヒー2050年問題が突きつけた「選択肢の不足」
世界のコーヒー産業は、静かな危機に直面している。
気温上昇と降雨パターンの変化により、アラビカ種を中心としたコーヒー栽培は年々不安定化。2050年には栽培適地が現在の半分以下になるとの予測もある。
この構造的リスクを背景に、欧米ではキノコやチコリ、デーツの種などを使った代替コーヒー市場が拡大してきた。
だが多くは、複数原料をブレンドし「コーヒーに似せる」方向に寄っており、味は近づいても、物語や文化は希薄になりがちだ。
そこで浮上したのが、日本発の「玄米デカフェ」だった。

米100%という潔さ――“シングルオリジン”が持つ意味
玄米デカフェは、玄米だけを焙煎し、コーヒーと同じ器具・抽出方法で淹れる。
見た目は漆黒、香ばしい苦味とほのかな甘み、軽やかな後味。
そして最大の特徴は、原材料が米のみという一点に集約される。
単一原料であることは、単なる製法の話ではない。
品種ごとの味の違いを楽しむ「お米版シングルオリジン」という、新しい嗜好の回路を開く。
つや姫、コシヒカリ、あきたこまち――銘柄が風味になる瞬間、稲作は再び“選ばれる文化”になる。
さらに、天然のカフェインフリー。
健康志向やライフスタイルの多様化が進む世界市場において、これは制約ではなく可能性の拡張だ。

飲むことで農業を支える――消費減少時代の稲作アップデート
日本の稲作は長らく、過剰生産と消費減少のはざまで揺れてきた。
「食べる」用途に閉じたままでは、市場は縮む一方だった。
玄米デカフェは、米の使い道を増やす。
飲料という高付加価値領域に転用することで、農家の選択肢を広げ、地域経済に新しい循環を生む。
これは単なる商品開発ではなく、数千年続いてきた日本の風景、田んぼ、水路、集落を、形を変えて次世代へつなぐ試みでもある。

昭和の上水場を焙煎拠点へ――「場所の再生」が持つ力
庄内ロースタリーの舞台は、昭和48年築の旧上水場。
かつて町の命を支えたインフラは役目を終え、静かに残されていた。
この場所を、今度は「香りを生む装置」として再起動させる。
360度に広がる田園、沈む夕日、焙煎の煙。
プロダクトの背景に、風景と時間が染み込むことで、ブランドは土地と不可分になる。
世界に向けて発信されるのは、味だけではない。
水と米と歴史が折り重なった、日本独自のストーリーだ。


クラウドファンディングという共創――市場を“先につくる”戦略
庄内ロースタリーの物語は、クラウドファンディングから動き出す。
それは単なる資金調達ではなく、市場との対話を起点としたプロジェクト設計だ。
壁に名を残す権利、品種ごとの飲み比べ体験、五感で巡るツアー。
支援者は「買い手」である前に、体験と意味を共につくる参加者となる。
完成後に売るのではない。
共感を集めながら市場を立ち上げ、需要そのものを育てていく――それが庄内ロースタリーの選ぶアプローチだ。
“第四の嗜好品”は定着するか――問われるのは拡張性
玄米デカフェは、コーヒーの代用品では終わらない可能性を持つ。
鍵は三つある。
一つ目は、海外市場での受容。
二つ目は、品種・地域展開によるバリエーション。
三つ目は、飲食・観光・教育との横断的連携。
選択肢が増えることは、文化が豊かになることだ。
「コーヒーにする? それとも玄米デカフェにする?」
その問いが日常になるかどうか。
庄内の旧上水場から始まった実験は、今まさに世界に投げられている。
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