「伝えたのに届かない」。その違和感が、草加市の広報紙改革の出発点だった。2025年、草加市は全国広報コンクールで映像部門・全国2位、広報紙部門・埼玉県1位という評価を受けた。市役所広報課が“伝えることの意味”をゼロから問い直した、変化することへの挑戦とは?

“読む気のしない紙”からの脱却。
草加市が挑んだ広報改革の設計思想。

それまでの草加市の広報紙には、暮らしに必要な情報が整然と並んでいた。税金、手続き、災害対策…、情報としては正確だったが、多くの市民にとってそれは“読む気のしない紙”であり、手に取られることなく捨てられる現実があった。広報課の安高昌輝さんと西田翼さんには、その状況に誰よりも悔しさを感じていた。
「このままでは、市民にとって不利益になる。それがいちばん悔しかった」(安高)
正確で丁寧であるがゆえに、結果として誰にも届かない。この矛盾こそが、草加市の広報改革の起点になった。

情報設計をゼロから再構築する。
“読む設計”が始まった。

広報紙の改革は、紙面の構造を作り変えることから始まった。「誰に伝えたいのか」「なぜそれを載せるのか」という問いを中心に、見出し、写真、余白、トーン、すべてを組み直した。その作業を主導したのは西田さんだ。
「出すだけでは伝わらない。読まれる設計がなければ、届くことはないと思った」(西田)
従来の形式や慣例を壊しながら、伝える構造そのものを設計し直す作業。広報の役割を「伝達」から「共感」へと再定義する過程だった。

“出せば伝わる”の常識を壊す。
情報掲載のルールも刷新。

広報紙の紙面改革だけにとどまらず、草加市では広報業務の根本的な設計に踏み込んだ。全課からの掲載依頼を一律に受けていたルールを見直し、掲載数に上限を設定。掲載そのものに「戦略性」を求める体制に変えたのだ。
「情報は、量では伝わらない。戦略なき発信は“していない”のと同じ」(西田)
あえて“削る設計”を導入することで、本当に必要な情報の伝達力を高めた。これは情報を扱う行政にとって、極めて大胆な方針転換だった。

リニューアル前の広報誌
リニューアル後の広報誌

小さな反応が信頼を呼ぶ。
広報紙が市民の生活に戻ってきた。

改革の成果は、すぐに数字として現れたわけではない。だが「今回の特集、楽しかった」「冷蔵庫に貼っています」といった声が、少しずつ市民から届き始めた。注目されたのは、内容だけでなく「紙面そのもの」だった。
令和7年、全国広報コンクールで草加市は、映像部門全国2位、広報紙部門埼玉県1位を受賞した。リニューアルからわずか1年での受賞は異例だ。しかし安高さんはこう語る。
「これは通過点でしかない。ようやく、スタートラインに立てただけ」(安高)

専属デザイナー配属で、
“伝わる設計”を制度化。

2025年度、草加市役所には広報課専属のデザイナーが初めて配属された。それによって情報設計を仕組みとして支える体制が整い、構成・言葉・写真・レイアウトを“届く前提”で作る広報が常態化しつつある。
もはや、情報を「ただ伝える」だけでは足りない。伝えることの設計とは、相手の暮らしに届き、行動を生む仕組みをつくることに他ならない。
この改革は、広報の形式を変えただけではない。自治体が情報発信に持つべき思想、つまり「公共と市民をつなぐ回路」をいかに設計するか。その極めてシンプルで、根本的なコミュニケーションデザインの在り方を、草加市は実践をもって示したのだった。

広報そうか SOKA CITY
https://www.city.soka.saitama.jp/kohosoka/r06/24110199/2024_11_double_page_spread-1.pdf

草加市公式チャンネル(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=zIvBNEI8Ka0