山梨県は、世界初となる「有機薄膜太陽電池」をブドウ棚に活用した栽培実証試験の現地説明会を開催した。光を通すフィルム状の太陽電池で発電し、その電力で夜間にLEDを照射することで、県オリジナル品種「サンシャインレッド」の着色向上と高付加価値化を図る。農業と発電を両立させるこの試みは、持続可能な「カーボンフリー農業」の実現に向けた大きな一歩となる。

光を通す太陽電池、「ソーラーシェアリング」から「ソーラーマッチング」へ。
従来の太陽電池は光を通さず、農地での利用には制約があった。しかし、今回使用する有機薄膜太陽電池は、光を透過するフィルム状のため、作物の生育を妨げずに発電が可能だ。共同研究者の公立諏訪東京理科大学・渡邊康之教授は、これを単なる「ソーラーシェアリング」ではなく、作物の生育に最適な光を選択的に透過させる「ソーラーマッチング」という独自の概念で捉える。鉛などを含まず安全性も高いこの技術は、農業分野での応用が大きく期待される。
発電した電力で着色向上、夜間LED照射で「赤い宝石」を磨く。
この実証試験では、ブドウの雨よけシートとして設置した有機薄膜太陽電池が、昼間に発電。その電力をバッテリーに蓄え、夜間にブドウの房へLEDの光を照射する。太陽光の透過と夜間LED照射の相乗効果で、県オリジナル品種「サンシャインレッド」の特長である美しい赤色をさらに向上させ、商品価値を高める狙い。現地説明会では、LEDを照射した区画のブドウが、非照射区に比べて明らかに色づきが良いことが確認された。

最終目標はエネルギーの完全自給、山梨県が目指す未来。
山梨県の長崎幸太郎知事は、この技術が農家の経営安定に繋がることに期待を寄せる。将来的には、ビニールハウス全体を有機薄膜太陽電池で覆い、発電した電力で水素を製造。その水素をハウスの加温に利用することで、化石燃料に頼らないエネルギーの完全自給、つまり「やまなしカーボンフリー農業」の確立を目指す。この実証は2027年まで続け、実用化につなげる計画だ。
