国立科学博物館は、2024年11月26日から2025年3月2日まで、企画展「貝類展:人はなぜ貝に魅せられるのか」を開催する。貝類の進化、多様性、そして人類との長い関わりを紹介する本展は、私たちが自然と共に生きる意味を考える大切な契機となるだろう。
貝類と人類の歴史的なつながり
貝類は、地球上に10万種以上存在すると言われる軟体動物の一種で、その形態、生態、生息環境において非常に多様な生物だ。企画展「貝類展:人はなぜ貝に魅せられるのか」は序章から第4章まで4つのパートに分けて、この魅力的で不可思議な生き物についての考察が展開される。
まず序章では、貝類がどのように地球上で進化し、驚くべき形状や大きさの多様性を持つに至ったかが示される。続く第1章では、生物学的な視点から貝類の多様性の成り立ちを掘り下げ、それらの進化や生息環境の適応など、多角的な分析が行われる。進化の中で貝殻を失った種類がいる点も興味深い。
第2章では、人類と貝類の長い関わりに焦点当が当てられる。先史時代の食料や工具としての役割から、現代の文化的、装飾的な用途まで、貝が人類に与えてきた数々の影響を詳述する。第3章では、貝に魅了された人々の視点から貝類の魅力が再発見される。標本化が容易なため、収集の対象としても人気の高い貝類だが、各地域固有の種を集めることや分類学的研究への貢献も注目に値する。
そして最後の第4章では、環境変化に直面する貝類とその未来に目を向ける。地球規模の気候変動や人類活動の影響を受ける貝類を保全しつつ、持続可能な共生を模索する重要性が議論される。
本展監修者からのコメント
貝類が持つ奥深い魅力について、本展の監修者たちはそれぞれの視点から語る。彼らの言葉からは、学問的な探究心と同時に、貝そのものが持つ独特の美しさや不思議さへの純粋な愛情が伝わってくる。
動物研究部の長谷川和範氏は、幼少期から貝が心の中で大きな存在だったと語る。「貝殻は生物の適応進化の産物でありながら、それがなぜこれほどまでに人の心をとらえるのか。その答えを探ることが今回の展示の出発点だった」と、貝への尽きない探究心を明かす。また、「掌の中で貝を愛でる時の幸福感は言葉にしがたい」と、その独特の魅力を表現する。地学研究部の芳賀拓真氏もまた、貝の形状や多様性に引き込まれる一人だ。「貝歴38年にもかかわらず、なぜこれほど惹かれるのか未だにわからない。特にチシマガイやイジケガイのような形状には、まだ見ぬ答えが隠されているように感じる」と語り、研究者としての直感的な魅力を強調する。
人類研究部の森田航氏は、縄文時代の文化を通じて人と貝の関係性を探る。「日本の酸性土壌が縄文人の古人骨を保存してきた背景には、貝塚の存在が大きい。貝に囲まれて埋葬された縄文人の姿には、当時の人々が貝に特別な思いを抱いていた痕跡が見られる」と、人類学的視点で語る。一方で、日常の風景に溶け込む貝殻の記憶を大切にするのが、動物研究部の齋藤寛氏だ。「近所の植木棚に置かれていた風化したサザエやアワビの貝殻を見て、その形に魅了された幼少期の記憶がある。人を引きつける最大の要因は、その形状にあるのではないか」と述べ、日常に潜む貝の魅力を指摘する。
さらに、地学研究部の重田康成氏は、地層から掘り起こされるアンモナイト化石に特別な思いを寄せる。「ハンマーを振るい、螺旋をもつアンモナイトが現れる瞬間は、まるでタイムカプセルを開けたかのようだ。特に虹色に輝く化石には、太古の記憶が詰まっている」と、その発見の喜びを語る。彼らのコメントからも、貝類が単なる研究対象を超え、人々に深い感銘を与える存在であることが感じられる。本展では、こうした専門家たちの視点を通じて、貝の奥深い世界に触れることができるだろう。
開催概要:
企画展「貝類展:人はなぜ貝に魅せられるのか」
【開催場所】国立科学博物館(東京・上野公園)
日本館1階 企画展示室及び中央ホール
【開催期間】2024(令和6)年11月26日(火)~2025(令和7)年3月2日(日)
【開館時間】9時~17時 ※入館は閉館時刻の30分前まで
【休館日】月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)、12月28日(土)~1月1日(水・祝)
※ただし12月23日(月)、2月17日(月)は開館
【入館料】一般・大学生:630円(団体510円)、高校生以下および65歳以上:無料
※本展は常設展示入館料のみでご覧いただけます ※団体は20名以上
※入館方法の詳細等については、当館ホームページをご覧ください
https://www.kahaku.go.jp/
【主催】国立科学博物館
【協力】赤星直忠博士文化財資料館、浦河町立郷土博物館、鹿児島県立埋蔵文化財センター、きしわだ自然資料館、東京大学総合研究博物館、鳥羽市立海の博物館、豊橋市自然史博物館、萩博物館、目黒寄生虫館、横須賀市自然・人文博物館