世界第2位の農産物輸出国であるオランダが、2025年大阪・関西万博で持続可能な食料システムの未来像を提示する。6月上旬には、代替タンパク質やスマート農業のイノベーター約50名が来日し、「未来の食と健康」をテーマにしたセミナーやシンポジウムを開催。国土の狭さを逆手に取り、最先端技術と競争原理で農業を革新してきた同国の取り組みが、日本の農業にも示唆を与えることは間違いない。

九州ほどの国土が世界第2位の農業輸出国に。鍵は「産業」としての農業構築。
トマトの収穫量は日本の3倍強。スマート農業が生産性を革新する。

チューリップと風車の国、オランダ。そののどかな田園風景の背後には、世界最先端の農業テクノロジーと政策戦略が存在する。それは九州と同程度の国土を持つこの国が、2021年には1,224億米ドルという世界第2位の農産物輸出額を達成した背景にある、農業を「産業」として成長させてきた国家戦略だ。
かつての農業省は現在、経済省に統合され、政策の軸足は明確に技術開発と産業振興に置かれている。農業予算の22%が研究開発に投入され、教育機関とも連携して人材育成にも注力。オランダ中部の都市ワーニンゲンには、農業・食品関連の研究機関と1500を超える企業が集う「フードバレー」が形成されており、ここでは日本のキッコーマンや富士フイルムも研究開発に参画している。
オランダ農業を支えるもう一つの柱が、スマート農業だ。ハウス栽培による果菜類の単位面積あたりの収穫量は欧州随一。とりわけトマトは、日本の平均的農家の3倍以上の収穫量を誇る。気温・湿度・光量を精密に制御する環境制御型農業(CEA)とロボティクス、AIによる自動化が組み合わさり、収穫の最適化と省力化を同時に実現している。
また、栽培品目をトマトやパプリカ、チューリップなどに絞り込むことで、ノウハウと設備投資の集中が可能となり、生産性の向上とコスト削減に成功。市場競争のもと、農家は銀行融資による経営を行い、補助金に依存しない自立型の事業運営を強いられる。こうした環境が、経営感覚に優れた農家のみが生き残るという高付加価値型農業の生態系をつくり出している。

未来の食を語る4日間、6月に大阪でオランダの専門家と議論。
“食と農”の国際協力は、次世代の地球課題解決の鍵となるか。

2025年大阪・関西万博に出展するオランダパビリオンでは、「A New Dawn―新たな幕開け」をテーマに、再利用可能素材で造られた循環型建築と共に、持続可能な食の未来を体感できるイベントが続々と開催される。
とりわけ注目されるのが、2025年6月5日から10日にかけて行われる「食の未来」シリーズだ。代替タンパク質(細胞農業や植物由来食品)や個別化栄養、マイクロバイオーム、精密発酵など、未来の食料生産を形作る最先端技術が一堂に会する。オランダの専門家約50名が来日し、業界関係者や研究者、日本の自治体や農業関係者との対話と共創が期待されている。
同国が主導する国家タンパク質戦略では、植物性タンパク質の割合増加を目指した啓発活動や価格政策が進められており、すでに多くの消費者が食生活の転換を始めている。こうした動向は、日本の食品業界にとっても示唆に富むだろう。
気候変動、人口増加、資源制約と、21世紀の農業はもはや一国で完結できるテーマではない。2050年には世界人口が100億人に迫るとの推計があり、持続可能で強靭な食料システムの構築は国際的な課題となっている。
オランダは、日本の高知市やむつ市など地方自治体とも連携を深めながら、先端農業の知見と人材を通じた協力を進めている。IoTやブロックチェーン技術を駆使した農業システムの共創は、次世代の「食と農」のモデルとなりうる。大阪・関西万博で交差するオランダと日本の知と技術の交流が、未来の地球と食を救う起点となることが期待されている。

【オランダ万博プログラム「食の未来」】

2025年6月5日(木)      
セミナー『未来の食料生産のための革新的なソリューション』
場所:大阪万博オランダパビリオン
モデレーター:Planet B.io Cindy Gerhardtさん
内容:持続可能な技術や代替タンパク質に焦点を当て、未来の食品を形作る革新を紹介。オランダは、公的資金と強力なイノベーション・エコシステムを背景に、細胞農業や精密発酵の分野で世界をリードしている。
2025年6月6日(金)
セミナー『消費の変化:需要が未来の食品をどう形作るか』
場所:大阪万博オランダパビリオン
モデレーター:Innova Market Insights社 Lu Ann Williamsさん(午前)/ワーヘニンゲン大学&リサーチGuido Campsさん(午後)
内容:健康、持続可能性、イノベーションを中心に、消費者ニーズの変化がどのように食品業界を変革しているかを探る。主なテーマには、プラントベース食品の台頭、消費者行動の変化、進化する食品業界において企業が適応し、リーダーシップを発揮するための戦略が含まれている。
2025年6月9日(月)
シンポジウム『未来の食と健康』
場所:ウェスティンホテル大阪
モデレーター:Innova Market Insights社 Lu Ann Williamsさん
内容:オランダの代替タンパク質および健康的な食品に関するミッションが一堂に会する、ダイナミックなこのシンポジウムでは、食のイノベーションの未来を共に探求する。午前のセッションではタンパク質革新に焦点を当て、午後は健康と栄養に深く踏み込み、持続可能で安全かつ個別化された食品システムに関する洞察を提供する。
2025年6月10日(火) 
セミナー『食品は健康イノベーションの次のフロンティア』
場所:大阪万博オランダパビリオン
モデレーター:Plug & Play Japan, Food & Beverage Manager 梅村 将斗さん
内容:人々と地球の両方に利益をもたらす、健康的で持続可能な食品ソリューションの開発に焦点を当てる。最先端の食品技術、マイクロバイオーム研究、栄養学におけるイノベーションを探求し、科学、政策、ビジネスがどのように交差して健康重視の食料システムの未来を形作っているかを紹介。

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