東京大学大学院新領域創成科学研究科と、核融合関連の先端企業8社が連携し、2025年5月に「フュージョンシステム設計学」社会連携講座を開設。核融合エネルギーの実用化に不可欠なプラント設計の学術体系を構築し、次世代の中核人材育成を産学共同でスタートする。

フュージョンエネルギー社会実装の鍵。
設計学の空白を埋め、2030年代の発電実証へ向けた布石。
カーボンニュートラル社会を目指す世界的な潮流の中で、核融合(フュージョン)エネルギーは、理論上、持続可能かつ安全な次世代エネルギーとして期待を集めている。日本でも2023年に内閣府が発表した「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を皮切りに、国家戦略として核融合の実用化に向けた取り組みが加速している。
民間でもStarlight Engine社などが推進するフュージョンエネルギー発電実証プロジェクト「FAST」が本格化するなか、課題として浮上していたのが「設計学」の欠如だった。核融合プラントの構成は、閉じ込め方式や用途、規制制度などにより大きく変動するが、それを体系的に学術的知見として支える仕組みが未整備だった。
こうした状況を受け、東京大学はStarlight Engine、京都フュージョニアリング、電源開発(日揮、フジクラ、古河電工、丸紅など)計8社とともに「フュージョンシステム設計学」社会連携講座を新設。4月に開設したばかりの附属組織「フュージョンエネルギー学際研究センター」と連携し、学術・技術体系の構築と人材育成に取り組む。
本講座では、革新的な設計技術の研究、応用可能性の評価、法規制や施設基準の整理、社会実装に向けた課題抽出など、フュージョンシステム全体の俯瞰的かつ実務的な設計思考を涵養する。講座の教員には、国内核融合研究の第一人者である江尻晶教授が就任。研究成果は、今後のプラント開発や国際競争における日本の優位性確立に直結する。
東京大学と民間8社は、今後も共同研究と教育活動を通じて、フュージョンエネルギー分野の知の基盤を構築し、2030年代の発電実証を現実のものとする構えだ。また、本取り組みが優秀な人材の発掘・育成と、産業界の成長エンジンとなることも期待されている。
江尻教授は「いよいよ日本の核融合研究が社会実装フェーズに入り、次世代エネルギーとして現実味を帯びてきた。多様なステークホルダーと共に、実装に向けた基盤づくりを進めていきたい」と語る。
将来的には、本講座の知見がフュージョンに限らず、複雑系プラントや高度エネルギーシステム全般に波及し、日本の産業競争力強化にも寄与する見込み。安全・安定・クリーンな新しいエネルギー時代に向けた新たな扉が、静かに開かれようとしている。
■「フュージョンエネルギー」とは
水素などの軽い原子核同士が高温・高圧下で融合し、別の重い原子核に変わる際に発生する「核融合エネルギー」。カーボンフリーでかつ燃料が偏在しないため、脱炭素社会の実現とエネルギー安全保障の観点で期待されている。連鎖反応や爆発のリスク、高レベル放射性廃棄物がなく安全性が高い大規模集中型エネルギー源。
■フュージョンエネルギー発電実証プロジェクト「FAST」
FASTプロジェクト(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)は、燃焼プラズマからフュージョンエネルギーを取り出し、そのプラズマ維持と工学的な課題を統合的に実証する、世界で初めてのプロジェクト。D-T核融合反応(重水素(D)と三重水素(T)の原子核が融合する反応)で5万〜10万kWの出力、1000秒の放電時間を目指している。