総合研究大学院大学が発表した調査によると、北海道帯広市に住むエゾリスが、都市化によって遺伝的な変化を起こしていることが明らかになった。調査は、都市部と郊外のエゾリスの遺伝構造を解析し、都市化がもたらす影響を解明した。この変化はわずか30年という短期間で生じており、都市化が野生動物に与える遺伝的な影響の速さが浮き彫りになった。
野生動物の遺伝構造に急速な変化をもたらす人間の都市
調査の結果、都市部と郊外のエゾリス集団間で遺伝的交流が減少し、遺伝的に分化していることが判明した。都市と郊外を繋ぐ緑地(防風林や公園など)の存在によって、都市部と郊外の間ではまだ遺伝的な交流が続いているものの、その規模は小さく、特に都市部では集団の遺伝的多様性が減少している。都市部ではリスが限られた範囲でしか行動できないため、近親交配や遺伝的浮動の影響が強くなっている。
エゾリスが都市部で確認されたのは1990年代からだが、この遺伝的変化はその後の約30年、つまり15世代の間に起きたと考えられている。この短期間で遺伝構造に大きな影響を与えたのは、都市に特有の環境要因だ。
都市部のエゾリスの遺伝的交流を阻害している主な要因として、交通量の多い道路や緑地の欠如が挙げられる。帯広市では、リスが道路で車に轢かれる事故が多発しており、2年間で50匹のリスが交通事故死したとの報告がある。さらに、都市部には森林や防風林などの緑地が少なく、リスが安全に移動できる経路が限られていることも、遺伝的な分断を招いている。
また、都市部では餌付けの影響も大きい。リスに対する餌付けが行われると、リスは移動する必要がなくなり、その結果、他の集団との遺伝的交流が減少する傾向がある。これにより、都市部のリスは限られた集団内での交配が増え、遺伝的多様性がさらに低下している可能性が高い。
この研究結果は、都市化がエゾリスを含む野生動物の遺伝構造に急速な変化をもたらすことを示している。都市に住む野生動物は、人間の生活圏で生き延びるための適応を余儀なくされており、その過程で遺伝的な影響を受けることが明らかになった。エゾリスが都市部で適応するためには、緑地の確保や交通事故を減らす対策が必要だ。
都市化が進む中で、都市は生物多様性保全の重要な場として注目されている。しかし、都市特有の環境要因が野生動物にどのような影響を与えているかを理解することが、生物多様性保全のためには欠かせない。この研究では、都市のリスが抱える課題を明らかにする一方で、今後の都市計画において緑地の拡充や生態系保全の重要性を再確認させる結果となった。
都市化の進展に伴い、野生動物がどのように都市環境に適応しているかを調査することが、将来的な生物多様性の保全に寄与するだろう。エゾリスの事例は、都市化が野生動物に与える影響を理解する上で重要なケーススタディとなり得る。
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