★ここが重要!

★要点
大阪湾の埋立地に、産業廃棄物の最終処分場がある。堺第7-3区。1974年に埋立処分が始まり、2004年に産廃の受け入れを終えたその土地に、いま森と草原と池が広がっている。
「共生の森」と名づけられたこのエリアは、2024年10月、環境省の自然共生サイトに認定された。チュウヒ(環境省 絶滅危惧IB類)、セイタカシギ、トノサマガエルといった生きものが確認されている。
認定審査で最も評価されたのは、自然の回復状態そのものではなかった。計画を立て、府民と協働し、モニタリングを継続していること。つまり、プロセスである。
処分場跡地は、負の遺産ではない。都市部において、これだけの面積の緑が確保されている場所は他にない。廃棄物処理という機能が、結果的に自然の受け皿を用意していた。

★背景
2022年のCOP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」は、2030年までに陸域と海域の30%を保全する「30by30」を掲げた。日本の保護地域は、2021年8月時点で陸域20.5%、海域13.3%。法令による保護区の拡張だけでは目標に届かない。
そこで重要になるのが OECM(保護地域以外で効果的に保全されている場所)である。企業が所有する森、工場の敷地、都市の緑地。日本ではこれを「自然共生サイト」として制度化し、2025年施行の地域生物多様性増進法に基づいて主務大臣が認定する仕組みが動き出した。
一方、廃棄物の最終処分場は、これまで自然共生の文脈で語られることがほとんどなかった。「掘ったら廃棄物が埋まっている」土地であり、遮水工や集排水設備の機能維持という制約もつきまとう。
だが、その制約こそが、都市の中に人の手の入らない広大な空間を残してきた。この逆説を、どう政策と経営に翻訳するか。

Googleマップを開いて、大阪府の緑を探してみる。
北部の山地、東の奈良県境、南の和歌山県境。緑は線状に走るだけで、真ん中は一部都市公園等を除き都市化している。
その大阪湾に突き出た埋立地の先端に、不自然なほど大きな緑の塊がある。堺第7-3区。かつて産業廃棄物を埋め立てていた最終処分場である。
「見てわかるとおり、緑の部分があまりない中で、これだけの面積の緑があるというのは非常に貴重なところ」
そう語ったのは、大阪府環境農林水産部 循環型社会推進室 資源循環課 施設整備グループの山口隼平氏。処分場の管理者である。
続いてマイクを取ったのは、同部みどり推進室 みどり企画課 総務・自然環境グループの織田智也氏。自然環境と生物多様性、ネイチャーポジティブを所管する。
「私、林学出身のものですので、こういった資源循環のシンポジウムは初めてでして」
異なる部署の二人が並ぶこと自体が、この取り組みの性格を表していた。

1974年から、2026年まで

山口隼平氏/大阪府 環境農林水産部 循環型社会推進室 資源循環課 施設整備グループ 堺第7-3区管理事務所 技師
山口隼平氏/大阪府 みどり推進室 みどり企画課 総務・自然環境グループ 主査

堺第7-3区の歴史は、半世紀を超える。
1971年(昭和46年)2月、財団法人大阪産業廃棄物処理公社が設立された。1974年(昭和49年)2月、埋立処分事業が開始。まず枠をつくり、その中に廃棄物を埋めていく方式である。
1981年(昭和56年)6月、一次処分地の海面埋立が終了。1994年(平成6年)3月には二次処分地の海面埋立が終わり、陸上埋め立てへ移行した。
2004年(平成16年)3月、産業廃棄物の受け入れを終了。土砂のみの受け入れに移行し、一次処分地は処分場としての廃止手続きを完了した。2006年(平成18年)2月に土砂の受け入れも終了、翌3月に公社が解散し、大阪府が処分場を譲り受けた。
2008年(平成20年)7月、廃棄物処理法に基づく埋立処分終了手続きが概ね完了。同年8月、「土地利用基本構想」が策定され、第7-3区全体の暫定的な土地利用の方向性が定められた。
ただし、二次処分地はいまも処分場としての廃止が済んでいない。そのため利用には制約がつく。遮水工や埋設された集排水設備の機能維持に支障を与えないこと。道路や水道といったインフラが整っていないこと。廃止手続きが完了するまで恒久的な利用ができないこと。
2026年の航空写真を見ると、土地はほぼ緑に覆われている。だが、その下には廃棄物が埋まっている。

図1 堺第7-3区の位置。大阪府の緑は北部と、東の奈良県境、南の和歌山県境に線状に走るだけで、中央部は一部都市公園等を除き都市化している。その大阪湾に突き出た埋立地の先端(赤丸)に、この処分場跡地がある。(山口隼平氏・織田智也氏 講演資料より)
図2 埋立処分事業の進捗。左上が1974年(昭和49年)の埋立事業開始時、右上が1981年(昭和56年)の一次処分地の海面埋立終了、左下が2004年(平成16年)の産業廃棄物受入終了、右下が2026年(令和8年)現在。海面に枠をつくり、廃棄物を埋め、半世紀をかけて緑に覆われた。(山口隼平氏・織田智也氏 講演資料より)

4つのゾーンが同居する

土地利用基本構想は、第7-3区をいくつかのゾーンに分けている。
自然エネルギーゾーンには、堺市と関西電力の共同事業による堺太陽光発電所がある。発電出力は10メガワット。2011年9月7日に全区画の運転を開始した。電力会社が営業運転を開始したメガソーラーとしては全国初で、当時は最大規模だった。年間の発電量は約1,100万キロワットアワー、およそ3,000世帯分の電力に相当する。
スポーツコミュニケーションゾーンには「みなと堺グリーンひろば」。軟式野球場4面、ソフトボール場2面、多目的広場1面、硬式野球場2面、憩いのひろば、そして野鳥観察広場が整備されている。大阪府内で硬式の野球場は多くなく、平日でも利用があるという。
資源循環ゾーンには、公募で誘致された事業者が並ぶ。
根拠となる計画も更新されてきた。2005年(平成17年)7月に策定された「大阪府エコタウンプラン」は、大阪都市圏に循環型社会の全国的なモデルを形成することを目指したものだった。その後、カーボンニュートラルへの機運の高まりや世界的な資源需要の変化を受け、2024年1月に「サーキュラーフィールドOSAKAビジョン」として全面改定されている。
現在稼働しているのは、混合廃棄物リサイクリングアソートセンター事業(建設解体系・工場系の混合廃棄物を選別・破砕し、製紙原料、炭化原料、製鉄原料、再生プラスチックなどに)、廃木材等によるバイオマスエタノール製造事業、廃プラスチック等原燃料化事業、食品系・木質系廃棄物総合リサイクル事業(食品廃棄物を炭化し、土壌改良材や石炭代替燃料に)、容器包装プラスチックマテリアルリサイクル事業、そしてプラスチック製衛生製品製造・備蓄・再資源化事業。
最後のものは、感染症予防に必要なマスクなどを国内製造・備蓄する施設で、使用済みマスクの回収・再資源化やバイオマスプラスチック製品の研究も一貫して行っている。
そして自然共生ゾーンに、共生の森がある。
発電と、スポーツと、リサイクル産業と、自然再生。ひとつの処分場跡地に、4つの機能が同居している。

府民と企業がつくった森

共生の森の出発点は、2001年、内閣府の「都市再生プロジェクト」への採択だった。
石井一英教授(北海道大学)は、パネルディスカッションでこの点に強い関心を示した。
「普通は土地利用計画なんです。でも再生計画ということは、都市の一部の機能としての役割を果たすために、そう名づけられたと思うんですよね。その経緯がものすごく知りたい」
30by30も、ネイチャーポジティブという言葉も存在しなかった時代である。当時は純粋に、処分場跡地をどうするかという問いだった。それが今日、国際目標に接続している。
2002年から2003年にかけて、第7-3区の基本計画が策定された。行政だけでなく、大学、地域の保全団体とともに「共生の森づくり計画」がつくられている。2003年から2008年には森づくりのワークショップが継続的に開かれ、そこに参加したメンバーが、その後 NPO法人共生の森として活動を担うことになった。
2004年に第1回植樹祭、2008年に第1回育樹祭。2011年からは企業・団体の森づくりが始まった。
「計画段階から地域の住民さんと一緒になって計画を作っていったところが、大きな特徴」(織田氏)
現在の運営体制は重層的だ。行政側の主体として、処分場の管理は循環型社会推進室が、共生の森はみどり推進室が担う。また、共生の森の運営業務を受託事業者が担う。NPO法人共生の森、公益社団法人大阪自然環境保全協会、日本野鳥の会大阪支部、NPO法人グリーンベイOSAKA。大阪公立大学。大阪製鐵(株)、EMIELD(株)といった企業。堺市環境局、大阪港湾局も連絡調整会に加わる。
活動も多層的である。休日には一般府民向けの草刈りイベントやリース作り。年に一度の植樹祭・育樹祭。NPO法人共生の森は4班に分かれて月3回程度、竹林の手入れやオギ草原づくりを続けている。企業には一定区画を貸し出す「企業・団体の森」があり、借地料は不要。道具の貸し出しや指導者の派遣も行う。ミニコンサートやカフェイベントを開き、従業員の交流の場として使う企業もあるという。
資金面では「共生の森づくり基金」がある。大阪府みどり基金の使途を限定した寄付制度だ。育樹祭で使う苗木や支柱、堆肥は企業からの寄付でまかなわれている。
なお、共生の森での活動や支援は、環境省の自然共生サイト支援証明書の申請に利用できる。企業にとっては、TNFD対応やESG活動の実績として説明可能な形になる。

図3 共生の森の自然環境。森林、草原、池が共存する。多様な環境が創出されていることが評価され、2024年10月に自然共生サイトへ認定された。(山口隼平氏・織田智也氏 講演資料より)
図4 共生の森の活動。左上が一般府民参加の休日イベント(草刈り、リース作り)、右上が植樹祭・育樹祭(写真は2024年3月の第19回植樹祭)、左下が企業・団体の森づくり(2025年5月、大阪製鉄による活動)、右下がNPO法人共生の森による平日活動で、4班に分かれ月3回程度、竹林の手入れやオギ草原づくりなどを行う。(山口隼平氏・織田智也氏 講演資料より)

問われたのは、自然の状態ではなかった

多様な環境が創出されていることが評価され、共生の森は2024年10月、自然共生サイトに認定された。
確認されている生きものには、チュウヒ(環境省 絶滅危惧IB類)、セイタカシギ(情報不足)、トノサマガエル(準絶滅危惧)、タヌキなどがいる。森林、草原、湿地、池が共存する環境が、それを支えている。草原の維持には、企業が自社機器の実証実験という名目で草刈りを担う、という関わり方もあるという。
だが、環境省の審査で最も問われたのは何だったのか。
シンポジウム後、本誌の取材に応じた織田氏の答えは、意外なほど明快だった。
「最終処分場だから、というところよりも、しっかりと計画を立てて、府民の皆さんと一緒に計画的に取り組んでいるというところが、一番の評価ポイントだったのかなと感じています」
自然の回復状態そのものよりも、と重ねて問うと、こう返ってきた。
「そこに対するモニタリングをしっかりしているとか、そういうところがポイントだったのかなと」
モニタリングは、日本野鳥の会や NPO法人が日々の活動の中で行う調査と、大阪公立大学によるカメラ調査で支えられている。
もともと自然があった場所の認定と、人がつくった場所の認定で、審査の考え方は違うのか。この問いに織田氏は慎重だった。国の指針を確認する限り、継続的で維持可能な計画になっているかが重要なポイントだと聞いている、という。
つまり、自然共生サイトの認定は「そこにどれだけ自然があるか」という静的な評価ではない。誰が、どのような体制で、どれくらいの期間、その自然を維持していくのか。継続の設計が問われている。
人工地盤の自然共生サイトを大阪府として増やす計画があるのかとも尋ねた。
「具体的に府の方で広げていくというところはないですけども、企業、民間の取り組みなんかを応援していきながら、自然共生サイトを全体的に増やしていけたら」
府が旗を振るのではなく、民間の取り組みを支える。大阪府には「大阪生物多様性応援宣言」という登録制度があり、阪南セブンの森などが名を連ねる。まずここから入り、より踏み込んだ取り組みへ広げていく設計になっている。

掘ったら廃棄物が埋まっている

一方で、処分場ならではの難しさもある。
パネルディスカッションで管理者側の実務を語ったのが、山口氏だった。
「処分場なんで、掘ったら廃棄物が埋まってるんですよね。それはそうだっていう話なんですけども」
地面を掘りすぎてはいけない。水処理の観点からは、雨水はできるだけ表層で流して排水溝から外に出したほうが処理負担が下がる。そのため桝や側溝が多く、人が入らない前提だから蓋がないものもある。長い年月で草が生い茂ると、その底が見えなくなる。
「急に落ちたら危ない。安全に活動いただくというところが、なかなか課題になってくる」
NPOや自然の側からは「こういうことをやってみたい」という提案が出る。だが処分場の管理に影響が出るなら止めなければならない。その調整が、難しいところでもある。
「ただ、現地で動いているからこそ見えることもありますし、逆に中で水の維持管理をしているからこそ見えるやれることもある。意見交換をしっかり十分に連携してやっていくことで、できることをどんどん探っていく」
部署をまたぐ連携についても、織田氏は同じ言葉を使った。
「やっぱりコミュニケーションなのかなと。担当者の理解がないと前に進めないところがありますので、こまめにミーティングしながら、それぞれの持っている課題意識を共有しながら進めていける、というのが大事」
制度が縦に分かれていても、土地は一つである。
また、共生の森の区画は処分場の廃止手続きが完了していないため、一般には基本的に公開できていない。年に数回、週末などに共生の森づくり活動として開放するにとどまる。長年活動を続けてきたにもかかわらず、認知度が上がりにくいという課題も残る。

処分場は、自然を壊さずに済ませているインフラかもしれない

このセッションを、最も強い関心をもって聞いていたのは、廃棄物研究の側だった。
「この最終処分場があるからこそ、自然が破壊されなくて済んでいる。あるいは、跡地利用として上手にやればこういう自然になっていく。循環分野でも、すごく大事だなと思っています」
そう述べたのは石井一英教授である。北海道大学の循環イノベーション分野では、ネイチャーポジティブグループがまさにこのテーマに取り組んでいる。TNFD の LEAP アプローチを用いて、最終処分場の自然資本価値を評価しようという研究だ。
その考え方の中核にあるのが「損失回避」である。もし処分場が存在せず、廃棄物が分散して放置・代替保管されていたら、どれだけの土地が占有されていたか。その仮想占有面積と、実際の埋立面積との差を、生態系サービスの原単位で価値化する。
処分場を、迷惑施設ではなく「存在しない場合の損失を回避しているインフラ」として位置づけ直す試みだ。目標は道内初の「処分場共生サイト」登録である。
共生の森が示したのは、その先の可能性だった。埋立が終わった土地は、自然を回復させる余白になりうる。都市部であればなおさら、その面積の価値は大きい。
「共生の森が創る未来」として大阪府が掲げるのは、3つの柱である。希少種を含む生物の生息環境を保全し、大阪湾奥部を代表する生物多様性拠点へ向かう「自然資本の価値向上」。府民・企業・大学・NPO・行政が協働する「人と自然をつなぐ共創の場」。そして資源循環・脱炭素・自然共生を実装する「循環経済と自然再生」のフィールド。
織田氏はパネルの最後に、行政の立場からこう述べた。
「大阪府の生物多様性の地域戦略を今、見直しています。この中でもシナリオ分析という形で、今のままではダメですよ、こういうアプローチができますよ、ということを検討しています。府としてどこを目指すのかを示すことが大事だと思いましたし、逆に企業や地域の皆様から『こういうことを示してほしい』と声をかけていただいたら、行政ももっと動かないといけないという流れになる」
示してほしい、と言われることが、行政を動かす。
処分場跡地の森は、そういう場所にもなろうとしている。

FAQ

Q. 堺第7-3区とは、どのような場所ですか?
A. 大阪湾の埋立地にある廃棄物最終処分場およびその跡地である。1974年に埋立処分事業が始まり、2004年に産業廃棄物の受け入れを終了。2006年に大阪府が処分場を譲り受けた。現在は自然エネルギー、スポーツ、資源循環、自然共生の各ゾーンに分かれて利用されている。

Q. 「共生の森」とは何ですか?
A. 堺第7-3区の自然共生ゾーンで、府民や企業などの協働による森づくりが行われているエリアである。森林・草原・湿地・池といった多様な環境が形成され、2024年10月に自然共生サイトに認定された。

Q. 自然共生サイトとは、どのような制度ですか?
A. 地域生物多様性増進法に基づき、民間の取り組み等による生物多様性を増進する活動計画を、環境大臣・農林水産大臣・国土交通大臣が認定する制度である。認定された区域を自然共生サイトという。日本版のOECMにあたる。

Q. OECMとは何ですか?
A. Other Effective area based Conservation Measures の略で、国立公園などの保護地域以外で、効果的に生物多様性の保全が行われている場所を指す。企業の森、工場敷地、都市の緑地などが候補となる。

Q. なぜOECMが必要とされているのですか?
A. 2030年までに陸域と海域の30%を保全する「30by30」目標に対し、日本の保護地域は2021年8月時点で陸域20.5%、海域13.3%にとどまる。法令による保護区の拡張だけでは目標に届かないためである。

Q. 認定審査では何が重視されたのですか?
A. 大阪府の担当者によれば、最終処分場跡地であることよりも、計画を立て、府民と協働して計画的に取り組み、モニタリングを継続していることが最大の評価ポイントだったという。国の指針でも、継続的で維持可能な計画になっているかが重要とされている。

Q. 処分場跡地を利用するうえで、どのような制約がありますか?
A. 遮水工や集排水設備の機能維持に支障を与えないこと、インフラが整っていないこと、廃止手続きが完了するまで恒久利用ができないことなどが挙げられる。安全管理上、蓋のない側溝への配慮なども必要になる。

Q. 企業はどのように参加できますか?
A. 休日イベントへの参加、一定区画を借りて行う「企業・団体の森」づくり(借地料は不要)、森づくり体験の受け入れ、共生の森づくり基金への寄付などの入り口がある。これらの活動・支援は、環境省の自然共生サイト支援証明書の申請に利用できる。

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