ケンミン食品株式会社は、大阪・関西万博に出店中の「GF RAMEN LAB 大阪・関西万博店」において、開幕からわずか4か月で累計販売杯数4万杯を突破した。話題の中心にあるのは、4年にわたる研究開発で完成させた「グルテンフリー角麺」だ。米粉を使用しながらも、ラーメン特有の“コシ”と“スープの絡み”を再現するこの技術は、食の制約を超えた未来型ラーメンの可能性を切り開く。

ビーフン技術を応用、四角い麺への未踏の挑戦。
ケンミン食品は創業以来、ビーフンをはじめとする米粉製品のパイオニアとして知られてきた。その同社が2020年10月に着手したのが、「誰もが安心して食べられるラーメン」を目指したグルテンフリー中華麺の開発だ。共同開発者は、米国ボストンの人気ラーメン店「Tsurumen」大西益央さん。米粉麺の開発経験を生かしながらも、“ラーメンらしさ”を追求する過程は容易ではなかった。
通常のラーメンはロール式製麺機で生地を圧延し切り出すため、断面は自然と四角になる。一方で、ビーフンの押出し製法では、孔(ダイス)の形状によって断面が決まるため、従来の米粉麺は丸麺が主流だった。大西さんとケンミン食品は、理想的な角麺を実現するために18種類ものダイスを試作。1種類あたり2か月以上、費用も数十万円単位でかかる試行錯誤を4年間続けた。
「ラーメンらしい食感」「茹で時間」「スープとの絡み」。三拍子そろった理想の麺は、2025年の万博開幕には間に合わなかった。それでも諦めず、研究を続けた結果、この夏ついに完成にこぎ着けた。



“スープと一体化する麺”という新しいおいしさ。
完成した「グルテンフリー角麺」は、同社と大西さんが設定した目標を大きく超える出来栄えとなった。麺幅は「Tsurumen」で使われる『切り刃22番手』を再現し、厚みは0.05mm単位で微調整。従来の丸麺で人気だった“ツルッもち食感”を保ちながら、角麺特有の表面積の広さによってスープとの絡みが飛躍的に向上した。
さらに、噛む方向によって食感が変化するという偶然の産物も生まれた。ひと口ごとに異なるコシと舌触りが感じられ、「ラーメンらしさ」をこれまで以上に引き立てる。この予想を超えた体験が、来場者の間で話題を呼び、販売杯数の急伸につながっている。
大阪・関西万博から世界へ、食の制約を超えるブランド戦略。
ケンミン食品が立ち上げた新ブランド「GF RAMEN LAB」は、米粉をベースとしたグルテンフリーラーメンを世界に広げる拠点となりつつある。欧米ではセリアック病や小麦アレルギーなどの理由でラーメンを諦める人も多いが、「全ての人に安心しておいしく食べてもらいたい」という思いから、国内外の市場を視野に入れた製品開発を進めている。
大阪・関西万博で提供されるメニューは、「GF黄金の鶏油しょうゆラーメン」「GF鶏清湯のすっきり柚子塩ラーメン」「GFプラントベースとんこつ風ラーメン」など6種類。国内外から訪れる多様な来場者に対応しながら、「食の制約を超える」というブランドコンセプトを体現している。
ビーフン市場で国内シェア約50%を誇るケンミン食品が、万博を起点に次なるグローバル市場を見据える姿勢は、米粉麺産業におけるイノベーションの象徴ともいえる。


未来型ラーメンが提示する“食のインクルージョン”のかたち。
グルテンフリー食品の需要は世界的に拡大しているが、ラーメンのような嗜好性の高い食文化をグルテンフリーで再現する事例はまだ少ない。今回の「グルテンフリー角麺」の開発は、単なる代替ではなく、ラーメン本来の魅力を損なわずに新しいおいしさを生み出した点で画期的だ。
ケンミン食品は万博で得たフィードバックを次なる製品開発へ活かし、冷凍商品や常温保存型製品など多角的な展開を計画している。グルテンを含む小麦製品を食べられない人々だけでなく、健康志向やプラントベース需要にも応えることで、食文化そのものを「誰もが楽しめるもの」へと進化させようとしている。
大阪・関西万博で体験できる「GF RAMEN LAB」は、未来のラーメンを先取りするだけでなく、食のインクルージョンを社会に提案する試みでもあるだろう。
