
★要点
高度回遊性魚種(マグロ・カツオ類など)の漁業は、気候変動の影響リスクが最も高い。資源分布の変化で国境や管轄をまたぎ、既存の漁獲枠合意が機能不全に陥る。対応は「配分の動的化」と「国際協調」の再設計。
★背景
海水温上昇と生態系変動で回遊経路が東西・南北にシフト。公海とEEZの境界を横断する資源に国内管理だけでは限界が来る。COP30を前に、各国は配分ルールの更新と温室効果ガス削減を同時に進める局面だ。
海は黙って動いている。学術誌『Cell Reports Sustainability』に掲載されたMSC(海洋管理協議会)主導の最新分析は、マグロ・カツオ類など高度回遊性魚種を対象とする漁業が、気候変動の影響に最も脆弱だと結論づけた。資源が新たな海域へ移り、既存の漁獲枠の根拠が揺らぐ。必要なのは、“動く資源”に合わせて“動くルール”を実装すること。国際協調の再設計である。
資源は北東へ、合意は置き去り。配分の硬直が招く過剰漁獲リスク
海水温の変化に伴い、回遊魚はより冷たい水を求めて移動する。西から東へ、南から北へ。資源が新たな管轄海域や公海に顔を出すたび、配分の根拠は曖昧になる。結果として各国の主張は強まり、合意形成が遅れ、管理の空白が過剰漁獲を誘発する。
“静的な枠”では“動的な資源”を捉えきれない。求められるのは、季節・年次の分布変動を織り込んだ動的配分、科学的指標に結びつく自動調整式のクォータ、そして迅速な協議メカニズムだ。
強いのは備えた漁業。管理計画と認証がもたらす適応力
同研究は、堅牢な管理計画をもつ漁業ほど気候変動への対応力が高い可能性を示唆する。MSC認証漁業は、資源水準・環境影響・管理体制に関する第三者審査を通過し、改善サイクルを持つ。新たな分布データが出れば、管理方策に反映させる“更新の回路”がある。
適応の核心は、科学・協議・現場運用の三位一体。データの収集と共有、配分の見直し、監視・執行の実効性までを一続きにする設計思想だ。
データで、海を“ダッシュボード化”。地域監視から公海ガバナンスへ
回遊魚の出現は、海面水温や溶存酸素、餌資源など複数の指標が絡む現象だ。局所の観測、衛星・ブイ・漁獲報告の多層データを、地域ごとの“ものさし”で可視化し、リスク兆候を早期に検知する。資源が“動く”タイミングを先読みし、配分や操業ルールに自動反映する。
各国のダッシュボードを相互接続すれば、公海を挟んだ資源の“見える化”が進む。科学の同時通訳が、政治の遅延を縮める。
COP30前夜——温室効果ガス削減と配分ルール更新の同時実装
気候危機の根を断つには、温室効果ガスの一段の削減が前提だ。同時に、配分ルールの更新と紛争回避の仕組みを急ぐ必要がある。分布変化に応じたクォータ調整、暫定合意の迅速化、監視・取り締まりの共同化、紛争時の第三者調停——いずれも海が動くスピードに合わせる再設計である。
水産物需要は2050年までに倍増が予測される。縮む海と増える食欲。選択肢は、待つことではない。科学に合わせて政策を動かすことだ。
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“回遊の地図”を“政策の地図”へ——動的配分・共同監視・迅速調停の三点セット
◎広域資源に対しては、①分布指標連動の動的クォータ、②衛星・ブイ・AISを束ねた共同監視、③合意未成立時に自動発動する暫定配分と迅速調停——この三点セットを国際枠組みに常設すべきではないだろうか。つまり科学の更新頻度と、政策の更新頻度を揃えるということだ。遅い合意より、速い暫定。ルールを“動的標準装備”にする発想が重要だと考える。
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