日本の森林政策に関わる専門家を対象とした調査により、「水土保全機能」が最も重視されていることが明らかになった。近年、地球温暖化対策としての森林の炭素貯留機能に注目が集まる一方で、その他の多様な機能も同様に考慮されるべきである。森林環境税の導入を機に、より包括的な森林管理のあり方が求められている。

専門家調査で浮かび上がった「水土保全機能」の重要性
日本の国土の約7割を占める森林は、木材生産のみならず、洪水防止や水資源の確保、さらには生態系の保全など多岐にわたる機能を持つ。しかしこれまでの政策では、特定の機能に偏ったアプローチが見られた。こうした状況を受け、東京大学先端科学技術研究センターなどの研究チームが、政策立案者、実務者、科学者など948名を対象に調査を実施。その結果、森林の持つ機能の中で「水土保全機能」が最も重要視されていることが判明した。
水土保全機能とは、森林が持つ水源涵養や土壌流出防止の役割を指し、日本の急峻な地形や近年の自然災害の増加を背景に、その必要性が改めて認識されている。また、野生動植物保全や木材生産といった機能も重要視されており、森林政策には多角的な視点が不可欠であることが示された。
単一機能に依存しない森林管理の必要性
これまでの森林政策では、二酸化炭素の吸収・貯留機能が大きく注目されてきた。世界的な温暖化対策の流れを受け、植林を中心とした炭素固定の促進が政策の中心となってきたが、今回の調査結果は、その一方で水土保全機能が国民にとって極めて重要であることを示している。
特に、日本では山間部での豪雨災害や土砂崩れが頻発しており、森林の適切な管理が防災・減災に直結する。そのため、森林政策においては、単に温暖化対策を目的とするのではなく、地域ごとの特性を考慮しながら、多様な機能を活かす方向へと舵を切る必要がある。
森林環境税を活かした新たな森林政策の可能性
2024年に導入された森林環境税は、全国の自治体に分配され、森林整備や管理の財源として活用される。この税制が専門家の意見を反映し、多面的な森林管理を促進するためには、資金配分の仕組みを適切に設計することが求められる。
森林の育成には長い時間がかかるため、短期的な利益を優先するのではなく、持続可能な視点を持つことが不可欠だ。例えば、木材生産と水土保全のバランスを考慮しながら、計画的な伐採と再植林を進めることが重要である。また、森林の持つ教育・文化的な価値を再評価し、地域住民と協力しながら管理する取り組みも必要となる。
今後、政策決定者、研究者、実務者が連携し、科学的根拠に基づいた森林管理を推進していくことが求められる。森林環境税を有効に活用し、日本の森林をより持続可能な形で次世代に引き継ぐための政策が今、求められている。