★ここが重要!

★要点
1万㎡超で都内初のNearly ZEB(事務所部分)を予定。高層階に“純木造”オフィス、900㎥超の木材活用と既存杭の再利用で建築時CO₂を約25%削減する設計。
★背景
スクラップ&ビルド依存からの転換点。国産材の循環利用、運用時と建築時のダブルでの脱炭素、都市の働く場の質を同時に引き上げる“木造回帰”が本格化。

都市の“環境性能”は、設備だけでは語れない。三井不動産が着工した「(仮称)日本橋本町一丁目5番街区計画」は、1万㎡超のオフィスで都内初となるNearly ZEB(事務所部分)を狙い、高層階に“純木造”の執務空間を用意する。900㎥超の木材活用、既存杭の再利用、そして快適性の設計。エネルギーと素材、運用と建設の両面でCO₂を削る“都市木造の実装”を進める。

純木造フロアを核に、高層部8–11階で木が主役

主要構造(床・壁・柱・梁)に木を使う、純木造フロアを高層部に計画。木造耐力壁は三井ホームの「MOCX WALL」をオフィス向けに改良し、国内初適用。CLTや一般流通集成材(小梁120×450)を賢く使い分け、大径木製材も採用して加工負荷を抑える。900㎥超の木材で約660tのCO₂を固定化し、構造の軽量化による合理化も効く。木に触れられる窓際スペースなど、素材を“見せる・触れる”快適性で、出社の体験価値を上げる。

エントランスホール 完成予想パース
オフィス専有部(高層部) イメージパース
構造イメージ図(全体)
構造イメージ図(高層階・9階平面)

運用時−75%、建築時−25%、二重のCO₂削減設計

事務所部分でNearly ZEB取得予定。空調で44%、照明で26%など、建物基準値対比でエネルギー消費量を75%削減する設計だ。加えて建築時にも踏み込む。木材の積極利用と既存杭の活用により、一般的な同規模S造比で躯体のCO₂排出を約25%削減する想定で、運用時と建築時の“ダブルカウント”により、ライフサイクル全体の炭素を下げにいく。

森林を“街のインフラ”に——保有林×都市木造の循環

北海道約5,000haの保有林を回す三井不動産は、「植える→育てる→使う」のサイクルを都市に接続する。伐採適期材や間伐材を都市建築で実需化し、森林経営と都市の脱炭素を同時にドライブする発想だ。国産材の標準寸法を前提に設計と調達をマッチングさせることで、コストと納期の不確実性を縮める。木を“限定的な演出”で終わらせない、供給面からの実装である。

場所は日本橋。“働く場”の価値を、素材で再定義

計画地は江戸桜通り沿い。ハイブリッド木造の蓄積(&forestに次ぐ2棟目)を活かし、山下設計×大林組が設計・施工を担う。11階建・延床約18,000㎡、2028年2月竣工予定。自然素材の内装を積極採用し、都心にいながら生理的・心理的快適性を高める。“高性能=無機質”という固定観念を崩し、ZEB時代のオフィス像を更新する。

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“運用×建築×調達”の三位一体で、都市木造を標準化
◎都市で木造を“面”に広げる鍵は三つある。第一に評価の一元化、運用時だけでなく建築時CO₂も束ねるLCA指標の採用。第二に供給の規格化、流通規格材前提の設計と、大径木・間伐材の用途開発をセットで回す。第三に金融の更新、炭素固定量や再資源化性を価値化する賃料・保険・減価償却の制度設計だ。木は“演出”ではない。都市の脱炭素とウェルビーイングを両立させる基盤材なのだ。

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