★ここが重要!

★要点
北海道・音威子府村が、村専用の対話型AI「ねっぷちゃん」を“AI副村長”として実証開始。村の行政情報だけでなく、地元の通称や商店、冬の暮らしのコツまで学習し、村民と移住希望者の相談窓口を24時間365日で補完する構想だ。
★背景
人口減少と職員負担の増大で、自治体の「問い合わせ対応」は限界に近い。一方で住民サービスは“いつでも・どこでも”が標準になった。AIを入れるだけでは足りない。地域の文脈、住民の信頼、データの扱い——この三点セットが問われる局面である。

小さな自治体ほど、相談は濃い。移住の不安、子育て、雪かき、通院、役場の手続き。パンフレットには載らない“生活の地図”が必要になる。音威子府村に誕生した「ねっぷちゃん」は、その地図を学習した“AI副村長”だという。村民と移住希望者が、スマホやPCからいつでも「村の相談」を投げられる。人手不足の穴埋めで終わるか、住民参加型の村づくりに化けるか。勝負は、運用とガバナンスにある。

役場の課題は「手続き」より「会話」。人口最少の村で起きること

音威子府村は、公式サイトでも「北海道で一番小さな村」を掲げる。人口推移の公開データを見ると、長期的な減少が続いてきたことが分かる。
人口が小さい自治体の利点は「一人ひとりの声が届きやすい」ことだが、裏返せば、役場の窓口業務が“個別最適の連続”になるということでもある。定型FAQだけでは足りない。地元の言い回し、季節の段取り、暮らしの暗黙知——こうした文脈がないと、相談は前に進まない。
「ねっぷちゃん」が狙うのは、その文脈の引き受けだ。行政情報に加えて、地域文化やおすすめの商店、冬の寒さを乗り切る知恵まで学習したとされる。

“24時間365日”は、便利の話ではない。移住の入口を広げる設計

実証は2026年2月19日から開始。村民だけでなく移住検討者も対象に、Webチャットでの相談環境を提供する。今後はLINEや電話にも拡張する計画だという。
ここで効いてくるのは、移住の意思決定が「一度の説明会」では終わらない点だ。疑問は夜に湧き、雪の日に増える。仕事終わりにしか動けない人も多い。窓口の営業時間に合わせられない層が、静かに取りこぼされてきた。
AI窓口は、その取りこぼしを減らす。移住促進というより、関係人口を“会話で始める”インフラである。相談の摩擦を下げるだけで、地域との接点は増える。

ねっぷちゃん回答例
AI副村長「ねっぷちゃん」QRコード

オープンR&Dという挑発。自治体AIを「真似できる形」にする

このプロジェクトの特徴は、ソースコードをGitHubで公開する「オープンR&D」を掲げている点だ。自治体のデジタル化は、成功例が共有されにくい。ベンダーロックイン、仕様の個別化、担当者の異動。結果、同じ失敗が全国で繰り返される。
公開は、その構造に風穴を開ける。全国の自治体や開発者が知見を参照・活用できる設計は、人口規模の小さな自治体にとって“導入コストの壁”を下げる可能性がある。
開発過程には、面白法人カヤックの社員が「地域活性化起業人」として現地に入り、村長・職員・住民と対話して進めた、という説明もある。制度としての地域活性化起業人は、企業人材を一定期間自治体へ派遣し、ノウハウを地域課題に活かす枠組みだ。
つまり今回のAIは、机上のPoCではなく“暮らしの現場”に合わせて調整された、という物語を持つ。

次の論点は「困りごとの可視化」——便利の先にある民主主義

計画として示されているのが、AIとの対話から「住民の困りごと」を可視化し、データに基づく村づくりにつなげるという方向性だ。
ここは希望とリスクが同居する。希望は、声の偏りを減らせること。議会や意見箱に出てこない“小さな困りごと”が、会話ログとして浮かび上がる可能性がある。リスクは、プライバシーと監視への不安だ。
鍵は二つ。匿名化・目的限定・保存期間など、データの扱いを住民に説明できるか。AIの回答が誤る前提で、責任の所在とエスカレーション(人間の窓口に渡す線引き)を設計できるか。AI副村長は、行政を自動化する道具ではない。住民と行政の距離を縮める“翻訳機”になれるかどうか。そこが評価点になる。

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