
★要点
平和不動産×VUILDが日本橋茅場町の狭小地で、分解・移築を前提にした都市木造ビル「prewood」を竣工。デジタル加工材をボルト接合で組み、自然素材とZEB Readyで環境負荷を抑えつつ、“建て替えずに動かす”都市更新を実証。
★背景
スクラップ&ビルドが限界を迎える中、老朽ストック更新・労働力不足・気候危機に対応する循環建築が急務——DfD×DfMAで資材を再利用し、都心の余白と時間価値を引き出す転換点。
壊して建て替える時代は、終わりに近い。日本橋茅場町に現れた木造の小さなビル「prewood」は、解体して別の場所で再び組み上げられる前提で設計された。資材を循環させ、街の余白を活かし、体験を更新し続ける。気候危機と人手不足が常態化する都市で、建築の“時間”と“行き先”を織り込む実験である。
狭小地がラボになる——DfD×DfMAで“組んで、解いて、また組む”
プロジェクトの狙いは明快だ。分解できるように設計し(DfD)、製造・組立を合理化する(DfMA)。平和不動産とVUILDは、デジタル加工した木ブロックを現場でボルトとビスだけで接合。躯体工事は2日で完了した。将来、街の別のニーズが立ち上がれば解体し、他の敷地で再構成できる。スクラップ&ビルドのコストと廃棄を抑え、空間のライフサイクルを街の変化に同期させる発想だ。
木造の軽さは都市に効く。近隣負荷を抑えて短期施工、輸送・揚重の負担も軽い。狭小地や暫定地でも“試しながら使う”余地を広げる。都市が不確実性に晒される今、可逆性を内蔵した建築は、社会の保険にもなる。
CO2は“建てた瞬間”にも埋まる——エンボディードカーボンと向き合う。
気候対策の主戦場は運用時(冷暖房・照明)だけではない。資材製造や施工に伴うエンボディードカーボンが無視できない水準に達している。prewoodは主要構造に製材、仕上げに漆喰など自然素材を使い、再組立の容易さで“1回で捨てない”設計とした。さらに断熱・省エネ性能はZEB Ready相当。建てる時・使う時・解く時の各段階で、炭素の足跡を削るロジックである。
数字は積み上げでしか変わらない。分解性を規格化し、部材を台帳管理して再利用率を引き上げる。建築が“資材のプラットフォーム”になる時、都市のカーボン会計は現実味を帯びる。


建築と食で街を編集——塗り壁ワークショップと「勺勺」がつくる時間の層。
prewoodは完成品を“与える”建築ではない。漆喰塗り壁のワークショップに、事業者・設計者・テナント・地域が集まり、手を動かして仕上げた。関わりの記憶は小さな凹凸として壁に刻まれ、建物は所有者を超えた“まちの共有財”に近づく。維持され、語られ、引き継がれる理由ができるからだ。
参加はコストではなく投資だ。関与度が高いほど、破壊の誘惑は小さくなる。長寿命化と循環の鍵は、仕様書だけでは書けない“関係の厚み”にある。
1・2階には台日フュージョン「勺勺(シャオシャオ)」が入る。台湾出身の料理家・ウ・ファンユー氏の監修で、魯肉飯や鳳梨蝦球に日本の旬を掛け合わせる。店名の“勺(さじ)”は、記憶や文化をすくいあげる意。
循環する建物に、混ざり合う料理。固定化ではなく更新を前提とした空間に、季節と移ろいが重なる。人が集まり、語り、撮る。建築は器であり、都市の編集装置でもある。


次の一手——調達・規格・金融で“面”に広げる。
prewoodは点の実装にとどめない方がいい。広げ方は三つある。
第一に調達。公共・民間の入札に「分解性」「再利用前提」「トレーサビリティ」を要件として明記する。仮設・暫定・イベント・沿道店舗など適用領域は広い。
第二に規格。部材寸法・接合方式・再利用回数・性能劣化の判定基準を整備し、再流通マーケットを形成する。デジタル台帳で資材の“身分証”を発行するのが近道だ。
第三に金融。移築・再構成を前提にした減価償却や保険スキームを整える。“動く資産”に資金が流れれば、循環建築は事業として自走する。
都市の更新は、巨大プロジェクトだけが答えではない。小さく速く、再利用可能に。prewoodは、その新しい文法を具体化した。
施設・店舗情報
prewood(プレウッド):東京都中央区日本橋茅場町1-4-3
勺勺(シャオシャオ):ランチ11:30–14:00(L.O.13:30)/ディナー17:00–23:00(L.O.22:00)/日曜定休
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