長谷あずささん
北海道エアポート株式会社
新千歳空港事業所 施設部 施設課 兼 管理部 情報システム課
日本が世界に誇る空港施設の中で海外ファンも多い新千歳空港は、ミドルサイズのエアポートとしてホテルや温泉などの施設機能も充実し、その価値は向上を続けている。しかし同時に過酷な自然環境や気候変動対策を進めながら、建物環境を保守し、劣化に対処していかなければ持続可能な空港運営は行えない。
「雪」をエネルギーに変える新千歳空港
―― 北海道では避けられない融雪剤への錆予防対策として、ステンレスコーティング実験に取り組まれていることはよくわかりました。で、この「雪」ですが、空港では雪をエネルギーにも利用しているとか?
長谷 「雪冷熱供給施設」のことですね。
―― 雪冷熱?
長谷 ええ、雪冷熱です。冬にいっぱい降る雪を冬の間中貯めておいて、夏の冷房に使おうという発想です。
―― 冬降った雪を、夏の冷房にするんですか?!
長谷 北海道ならではの取組みとして推してるプロジェクトです。
―― 雪を貯める冷蔵庫とか冷凍庫が、空港にある?
長谷 空港の施設内に積もった雪を集めて、山のようにして積み上げ、その上に強力な保温材のようなものを載せて保存しています。
―― 除雪の雪を排雪せず再利用している!
長谷 はい、雪の再利用です。降雪期間に雪を集めて、5月~6月くらいから夏場の冷房エネルギーとして利用します。
―― 冬の雪を夏のエネルギーに再利用するなんて、北海道らしくて凄く面白い。東京じゃできない雪国独特のアイデアですね。
長谷 2010年からスタートした、自然現象を利用している省エネルギー対策です。ただ捨てるより、使えるものを使うというのはグッドアイデアだと思います。これによって、夏場の10%から20%の消費エネルギーを補っていますし、新千歳空港の自慢の一つです。
―― 他にもこのような省エネルギー対策実験は行ってますか?
長谷 夏場に、放射冷却素材「ラディクール」というフィルムを窓ガラスに貼って、室内の温度上昇を抑える試験を導入しています。北海道も気温上昇が凄くて、空港の窓ガラスが大きいので太陽光も大量に降り注いでくるので、フィルムを貼ることでどれくらい室内温度が下がるかを検証中です。
―― 新千歳空港の使用エネルギー量は結構多いんですか?
長谷 多いですね。暖房、エアコン。国内のほとんどの空港が同様だと思いますが、「空調」に掛かる費用が一番大きいと思います。
―― 気候変動、地球沸騰というイヤなキーワードが出ていますが、北海道も電力量は高騰していますか?
長谷 上がってます。危機感を感じています。館内のLED化を進めて、なおかつ照明の数を少し減らしたりして対処しています。
■北海道エアポート「Environmental Measures 環境対策」
https://www.hokkaido-airports.co.jp/environment/kyousei_kankyo.php
■新千歳空港における環境への取り組み
https://www.new-chitose-airport.jp/ja/eco/
気温上昇の北海道とAI空調への期待
長谷 それと最近話題に上がるのが、空港内の温度設定の難しさ。この場所は暑いとか、朝は人がいないから暑くないんですけど、昼間はやっぱり人が集まってきちゃうと暑くなるとか。
―― 室温設定などの設備管理は、全部人間がやってるんですか?
長谷 一応自動で何℃になるようにって設定はするんですけど、でも人が集まってくるとそのエリアが暑くなってきてしまいますね。特に夏場は調節が難しいです。だいたい「寒い」というクレームはあんまりないんです。でも「暑い」ことにはかなり皆さん敏感で、「涼しさを楽しみにして北海道に来たのに、着いたら暑いじゃないか。空港使用料も払ってるのにどういう事だ!」っていう苦情も出ることがあります。
―― 涼を求めて北海道に来る方は、国内海外問わず多いでしょうね。避暑地としての魅力が北海道にはありますから。館内温度は何℃に設定しているんですか?
長谷 夏場、たとえば25℃に設定しています。ですがその場所に一気に人が集まったら、30℃ぐらいまですぐに上昇するわけです。で、一応空調機械的には25℃になるように頑張るんですけど、多少時間がかかります。このあたりを手動で無理やり17℃とかに設定すればなんとかなるのかも知れないですけど、省エネも考慮するとなかなかそうはできません。
―― 空調管理に「AI」はまだ導入していないのですか?
長谷 まだですね。
―― 建物の空調管理は、AI導入によって人間の快・不快を的確にデータ判断しながら無駄なエネルギー出力を抑えられますし、確実に成果が上がります。横浜の交通機関で実績が出ています。Maintainable(R)では、このAIによる空調管理と、その土地の気候風土に合った快適な温湿度の状態を空間に生み出す室内気候デザインを組み合わせた「AI室内気候デザイン」を進めていきたいと思っています。新千歳空港でも実験を始めませんか?
長谷 いいですね。ぜひ実験してみたいです。
―― ちなみに今回、ステンレスコーティングを行ったリンレイにはカーペットをコーティングするドライピッカーという手法もあって、これを使うと今までのように頻繁にポリッシャーという機械でカーペットを洗浄しなくてもいいようですし、空調のAI導入化も然り、すべての建物でCO2削減・省エネルギーのための移行期でツールチェンジのタイミングですから、新千歳空港でも積極的に実験を進めてください。応援してます!
長谷 新しい技術やメンテナブルなことができるのであれば、積極的に使っていきたいというのが担当部署としての考えです。 新しい知識を学びながら、実験を始めたいですね。
(取材・編集 Maintainable®編集部/撮影 高木陽春)