★ここが重要!

★要点
観光庁が第3回「サステナブルな旅アワード」の受賞商品を決定。大賞は富山・砺波平野の散居村景観を支える屋敷林「カイニョ」を手入れするツアーで、旅を“地域の再生作業”に変えるモデルを打ち出した。
★背景
観光は経済を回す一方で、混雑・地域疲弊・排出増にもつながる。これからは「見て帰る」より、地域の自然・文化・暮らしを“維持し、育てる”設計が旅行商品そのものに求められている。

“いい旅だった”の基準が変わり始めている。映える景色、名物グルメ、効率の良い周遊——その快楽だけで旅が成立していた時代は、終わりに向かうのだろう。気候変動と人口減少、そしてオーバーツーリズム。観光地は今、来訪者を歓迎しながらも、受け止め切れない矛盾を抱えている。
そんななか観光庁が決めた第3回「サステナブルな旅アワード」の大賞は、富山の散居村で“手入れ”をする旅だった。旅先で汗をかく。地域の維持に手を貸す。観光は、消費ではなく再生の装置になれるのか。

大賞は「カイニョの手入れ」、“風景を守る作業”が旅になる

第3回「サステナブルな旅アワード」で大賞に選ばれたのは、富山県西部観光社 水と匠(砺波市・南砺市)の「カイニョお手入れツアー」だった。カイニョとは屋敷林のこと。砺波平野に点在する民家と屋敷林が織りなす散居村の景観を、次世代へ紡ぐことを狙う。
注目すべきは、旅の目的が“保全の現場”そのものに置かれている点だ。風景は、自然に残るのではない。誰かが手を入れ、暮らしの中で守り続けて初めて成立する。旅行商品がそこに旅行者を接続した瞬間、観光は「地域の外側で消費されるイベント」から「地域の内側で機能する作業」へと性格を変える。

大賞に選ばれた「カイニョお手入れツアー~次世代へ紡ぐ、散居村保全と循環型社会の再生~」

「リジェネラティブ」へ舵を切った、賞が評価した“再生の視点”

今回のアワードは、2023年に創設された取り組みで、優良な旅行商品を表彰し、持続可能な観光への機運を高めることを狙う。第3回は33件の応募から10商品を表彰し、表彰式は2026年1月22日に開催予定とされた。
特徴として打ち出されたのが「地域の自然環境や文化を“再生”させるリジェネラティブな視点」だという。
ここで言う再生は、単なる“環境に配慮しました”では終わらない。地域の自然資本や文化資本を、旅によってむしろ厚くする。旅行者が地域の価値を削らず、増やす側に回る。観光の評価軸を「負荷の最小化」から「価値の回復・増幅」へ移す発想だ。

観光は“きれいごと”では済まない、排出と混雑のリアル

観光は、世界的に見ても大きな産業である一方、環境負荷とも無縁ではない。研究では、観光関連のカーボンフットプリントが世界全体の排出に占める割合を推計した例もある。
だからこそ、持続可能な観光の定義は「環境・社会・経済への影響を総合的に扱う」ことに置かれる。環境だけ守って地域が疲弊すれば続かないし、稼いでも自然が壊れれば終わる。
受賞作に共通するのは、この“三つ巴”の矛盾を、体験設計でほどこうとしている点だ。混雑を煽るのではなく、地域の作業と学びに時間を使わせる。短期の消費より、関係の継続を前提にする。観光の速度を落とす試みでもある。

受賞商品が示す「参加者としての旅行者」。旅は地域の仲間になれるか

大賞以外にも、準大賞には「森と海の循環」をうたうガストロノミーツアー、地域未来賞・特別賞には里山の自然探究や文化体験などが並んだ。
ここにあるのは、旅行者を“お客様”として扱うだけでは成立しない設計だ。地域の自然、文化、産業には維持コストがある。そのコストを地域だけに背負わせると、いずれ破綻する。ならば旅行者は何を払うべきか。金だけではない。時間、手間、理解、そして語り直す力——それらを旅のプログラムに組み込むことで、観光は地域の同盟者を増やせる。
「カイニョの手入れ」は象徴的だ。手入れの先に見えるのは、写真に残る景色ではなく、景色を成り立たせる暮らしそのもの。旅行者がそこに触れた時、“見学者”ではなく“維持の一部”になる。旅の記憶は、土産より長く残る可能性がある。

準大賞 株式会社BASE TRES/静岡県松崎町
伊豆半島の森と海とを循環させる、リジェネラティブ・ガストロノミーツアー。
地域未来賞 Inaka Travel Akita(株式会社遊名人)/秋田県仙北市
 角館半日ツアー~職人と文化と食を巡る旅~

アワードを“事例集”で終わらせないために

アワードは、良い話で終わらせるとただの表彰だ。広げるには三つの仕掛けが要る。
第一に、販売と流通。OTAや旅行会社の検索軸が「価格・立地・人気」だけでは、再生型ツアーは埋もれる。評価項目に“地域貢献の設計”を入れ、選ばれやすい棚を作る必要がある。
第二に、測り方。再生は雰囲気では証明できない。参加者の行動変容、地域側の維持作業の前進、廃棄や負荷の削減など、測定可能な指標に落とすことで“継続の投資”が呼び込める。
第三に、地域の受け皿。旅行者を仲間にするには、現場の安全管理や作業設計、ストーリーの編集力が要る。担い手不足の地域ほど、ここがボトルネックになる。行政・DMO・民間が役割分担し、運営負荷を平準化する仕組みが不可欠だ。
旅は贅沢であっていい。ただし、その贅沢が「何を減らし、何を増やしたか」を問われる時代に入った。観光は、地域を疲れさせる装置にも、地域を再生する装置にもなり得る。受賞作は、その分岐点をこちらに突きつけている。

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