上高地帝国ホテルが、豊かな自然と共存するためのサステナブルな取り組みを本格化させている。標高1,500メートルの上高地は、日本を代表する山岳景勝地として年間120万人を超える観光客を迎えているが、その自然環境を次世代へ守りつなぐため、様々な環境保全活動を推進している。
上高地帝国ホテルのサステナブルスタイル
上高地帝国ホテルは、ロビー1階に「水汲み場」を設置。六百山の湧き水を使用し、散策中の訪問者に冷たい名水を提供している。湧き水は、8℃前後の冷たい水で、上高地帝国ホテルの特長の一つ。この水はシラビソやコメツガに覆われた六百山の雨がろ過され、地下水として集まったもので、清水川となって梓川に合流する。ホテルはこの水を電力を一切使わないサイフォン式で引き入れている。これにより、環境への負荷を最小限に抑えながら、利用者に清冽な水を楽しんでもらうことができる。
また同ホテルでは海洋ごみおよびCO2排出削減を目指し、使い捨てプラスチック製品の使用を大幅に削減する施策を導入している。客室アメニティ(歯ブラシ、ヘアブラシ、カミソリ)を竹製や木製の素材に変更し、プラスチック使用量を約9割削減。さらに、ペットボトルを紙製容器に切り替えることで、年間約5,000本以上のプラスチック削減を目標としている。
2022年4月から、使用するエネルギーに伴うCO2排出量を実質ゼロにする運営もスタート。電力は信州の豊かな水資源から得られるCO2フリー電気(信州Greenでんき)を導入し、灯油およびガスはカーボン・オフセットを活用し、気候変動問題の解決に貢献している。
上高地の豊富な湧水は「信州の名水・秘水」に認定されており、上高地帝国ホテルは「上高地を美しくする会」の一員として、村内地区の住民とともに湧水の保護活動を行っている。
1933年の開業以来、上高地帝国ホテルは赤い屋根をシンボルとする丸太小屋風の外観を守り続けてきた。1977年の改築時には、木造のイメージを継承し、改築前とほぼ同じ外観を再現。老朽化した木造部分は交換できる工夫を施し、冬季約6か月間の閉鎖期間も維持管理を行っている。これにより、自然と調和したホテル建築を現在も維持し続けている。
厳しい自然環境に対するメンテナンス対策と雪害・凍結対策が評価され、2002年には社団法人建築・設備維持保全推進協会が主催し、建築物の長寿命化に貢献する取り組みを評価する「第11回BELCA賞ロングライフ部門」を受賞した。
2015年から生ごみをたい肥化し、化学肥料や農薬に頼らず、そのたい肥で生産された野菜をレストランで提供し、ホテル全体で3R(Reduce, Reuse, Recycle)の推進を図るなど、上高地帝国ホテルのサステナブルな取り組みは、自然環境の保護と共存を目指し、今後も続けられて行く。