ひとりで熱くなっても進化しない。使い勝手は、変わらない。
多様性の時代といわれる今、「トイレに女性の視点」という言葉は、逆に問題視されるかもしれない。しかし私がトイレにハマるきっかけとなった35年前、女性たちにとって公共トイレは切羽詰まっても、できれば避けて通りたい3K(暗い、怖い、汚い)的存在で、使い勝手以前の問題。そんな3Kトイレの時代に女性が主役のまち歩きを企画「女性が主役のまち歩きにはトイレは必須」と今更ながら気が付いた。結局、半年以上かけて当時のスタッフで3k的公共トイレを実態調査、行政に書面で伝える。行政にとっては、青天の露霞に近かったらしい。当時の市長が、担当者にゲキを飛ばした。「今すぐ、公衆トイレの実態を見て来なさい!」これが公衆トイレ改修の始まりになったのは事実。それから10年後「竹中さん!最近、トイレは良くなったでしょう?」当時の担当課は、ほぼ男性。使い勝手は相変わらず以前のままで、女性の視点は入っていない。
例えばトイレのドア裏面のフックは、高い!高すぎる!女性たちはトイレに入る時も荷物を持っている。その荷物置きがない。高いフックに背伸びして踏ん張って掛ける。切羽詰まっている時に腹が立つ。重たいものは掛けられないので、ショルダーバッグは斜め掛け。バッグをお腹に挟んで用を足す。笑い事ではなく、情けなくなるので使用しない。また当時の汚物入れは蓋付きの小さな三角形。手で蓋を取る、臭いもする、不潔。小さいので中身がいつもあふれて…こんな状況を知らないまま、改修は進みつつ、確かに見かけは清潔で快適にはなった。しかし女性たちにとっての使い勝手は何も変わらない。
トイレのドアのフックは何故高いのか?実は、男性たちは個室で用を足すとき、必ず上着を脱ぐそうだ。その衣服が床に付かないように高く設置。女性たちは上着を脱ぐ?!はずもない..と絶句したことを覚えている。女性の視点の提案は、こんな小さなことから始まった。行政の担当に伝えると「竹中さんはトイレ好きだからね。他の人はあまり感じてないのでは?」この一言も、背中をおしてくれたかもしれない。ひとりで熱くなっていても、ひとりの意見にすぎない。組織化しよう!行政と手を組もう、専門家(トイレメーカー)にもお願いしよう。14年前、ボランティア活動団体「みんなにやさしいトイレ会議」実行委員会を立ち上げる。
POINT1
長崎市「新庁舎」でカタチになったみんなにやさしい使い勝手の機能
2段式ロックでママたちの不安を解消
子どもは手が届くと鍵を外すことも。2段式ロックは外からも確認できる(優先トイレにも採用)。
フックは便座の横にも設置
今回、自己導尿患者(CIC)のために「前広便座」も採用。ベビーキープの横にもフックを取り付けた。
多目的トイレの名称を優先トイレに
ここしか使えない方々を優先的にという考えから、あえて男性、女性のサインは使っていない。
POINT2
使う側(市民)、設置する側(行政)、専門家。大事なのは、3 つの視点で取り組むこと
行政と手を組み、3つの視点で提案を重ねて14年目。 14ヵ所目として、2023年1月に完成した長崎市「新庁舎」の新築トイレに関わった。設計事務所を交えて建物パースだけで会議。工事現場でトイレの入口の角度やドア、洗面所の明るさや使い勝手などを調査。ある時は、別の現場の仮設トイレで便座の高さ、ホルダーの高さ、空間の広さなどを確認し、結果を再度話し合った。提案の全てがカタチになったわけではないが、使う人にやさしい使い勝手の機能がさり気なく細部に取り入れられている。今更ではあるが、使う人の視点を入れると、トイレは格段に使いやすくなることを実感。
使い勝手の「基本マニュアル」は、現在も少しずつ進化している。行政の担当者が異動してもマニュアルが必ず引き継がれているのが嬉しい。トイレは、都市の文化を表す。トイレは、まちづくり、そしておもてなしの基本である。まだ課題があるが、3つの視点でトイレを取り組んできたことが、みんなに評価され継続というカタチになったのだと思う。
使う人にやさしい7つの基本の「き」
きほん① 洗爾台にバッグかけ
置いたバッグが落ちて、自動水栓に反応。びしょ濡れになった経験多々。
きほん② 男子トイレにもベピーキープ
以前パパたちは洋便器の蓋の上でおむつ替えしたらしい。
きほん③ ペーパーホルダーは左右に
突然ケガをしたときや身体の不自由な方にとっては両側ホルダー機能は大事。
きほん④ 緊急ブザーは上下2段
急に倒れたときなどは緊急ブザーに届かないことも。そんな時のために。
きほん⑤ フックは2段階
荷物置きが少ない多機能トイレ。高さ違いのフックと小さなベンチはとても便利。
きほん⑥ 女住にとって姿見は必須
スカートを巻き込まれて恥ずかしい思いをしないよう、出る前に後ろ姿をチェック。
きほん⑦ 男子トイレに衝立の工夫
トイレ内が丸見えにならないよう、目隠しを実現。
竹中晴美 Harumi Takenaka
OFFICE・TAC代表。フリーランスコピーライター。「みんなにやさしいトイレ会議」実行委員会委員長、一般社団法人長崎ウーマンズ・ウオークラリー代表理事、エフエム長崎番絹審議委員長、著書に長崎のトイレ文化「まあだだよ」