★ここが重要!

★要点
2026年8月7日、まったく異なる二つの資源をめぐる取り組みが、同じ日に発表された。ひとつは福島県南相馬市。トレ食が南相馬市と連携協定を結び、稲作で発生するもみ殻から工業材料「もみ殻由来リグノセルロース」を抽出し、ガラス繊維を代替しうる樹脂補強材として事業化する。さらに製造工程で出る副生成物を、肥料として農業へ戻す実証にも取り組む。もうひとつは愛媛県。MobiSavi、愛媛日産、L-B.Engineering Japanの3社が、国内初となる自動車ディーラー起点のEVバッテリー集荷・再利用ハブを構築し、愛媛県の「地域完結型EV資源循環モデル」の社会実装を進める。共通するのは、遠くの処理工場へ送るのではなく、地域の中で診断し、加工し、別の役割を与え、地域へ戻すという発想だ。
★背景
循環経済は長らく「再生材何%」という数字で語られてきた。だが数字は結果であって設計ではない。実際に循環を止めてきたのは、多くの場合、技術ではなく物流と信用である。集める拠点が遠ければ運賃で採算が崩れ、品質を保証する仕組みがなければ買い手がつかない。日本は国内資源に乏しく、資源制約と経済安全保障の観点からも国内での資源循環が国家戦略に位置づけられた。人体にたとえるなら、新しい資源を送り出す「動脈」に対して、使い終えた資源を回収し戻す「静脈」。この静脈をどこに、どの太さで通すか。それが、いまの循環経済の現在地である。

稲刈りのあと、田んぼの脇に山と積まれるもみ殻。
販売店の裏手に並べられた、役目を終えたEVのバッテリーパック。
どちらも、これまでは「処理の対象」だった。
片方は燃えにくく土に還らない農業副産物。片方は重く危険で、輸送費のかさむ工業製品。
その二つが、2026年8月7日、同じ日に「資源」として設計され直された。
福島県南相馬市と、愛媛県。舞台も素材も、まったく違う。
だが構造は驚くほど似ている。
地域で発生し、地域で診断・加工し、別の役割を与え、地域へ戻す。
循環経済は、リサイクル率を競う段階を過ぎつつある。
問われているのは、資源が地域の中をどう巡るか、その血管をどこに通すかという産業設計だ。

燃えにくく、土に還らない。もみ殻という地域課題

まず、福島から。
トレ食(本社・福島県南相馬市、代表取締役 沖村智)は、南相馬市(市長 門馬和夫)と、農業副産物であるもみ殻を活用した資源循環型産業の創出を目的とする連携協定を締結した。
協定自体は令和8年3月27日に結ばれており、今回のリリースは事業の本格始動にあたって、あらためて取り組みを知らせるものである。
もみ殻は、日本中の田んぼで毎年発生する。
だが、扱いやすい資源ではない。
南相馬市を含む福島県浜通り地域では、稲作の再生が進む一方で、もみ殻の受け入れ先が十分に回復せず、その処理が地域課題の一つとなっていた。もみ殻はシリカを多く含むため燃えにくく、土に還りにくいという性質があり、有効活用が難しい素材とされてきた。
燃やしにくい。埋めても分解しない。運べば運賃がかかる。
量は毎年必ず出るのに、行き先がない。
震災と原発事故を経て、田んぼが戻ってきた。
その回復の裏側で、副産物の行き場だけが取り残されていた。

「FUKUSHIMA NEXT 人から始まる、新しい福島。」No.9 廃棄物は未利用資源 ポスターNo.9(環境省 福島、その先の環境へ。)

ガラス繊維の一部を、田んぼの副産物で置き換える

トレ食が着目したのは、もみ殻の「中身」だ。
同社はもみ殻からシリカを除去してリグノセルロースを取り出す技術の開発を進めており、これを樹脂の補強材として活用することで、ガラス繊維の一部置き換えによる添加量削減と物性維持の両立を目指している。
なぜガラス繊維なのか。
プラスチックの補強材として広く使われるガラス繊維には、製造時のエネルギー負荷や、成形機の摩耗、廃棄・焼却時の課題が指摘されている。
つまり、狙いは二重だ。
厄介者だったもみ殻に出口をつくると同時に、環境負荷の高い既存素材の使用量を減らす。
ここで見落としてはならないのが、素材の「格」である。
もみ殻を燃やして熱を取るのは、一度きりの利用だ。だが樹脂の補強材として使えば、素材としての価値がより長く保たれる。同じ資源でも、どの高さで使うかで意味が変わる。
生ごみを堆肥にするか、燃料にするか、素材にするか。
循環経済の設計とは、この「価値の階段」を、できるだけ高いところから降ろしていく作業でもある。

農業→工業→農業。ループが二重になる

この取り組みが特徴的なのは、ここからだ。
普通なら、農業副産物を工業材料に変えた時点で「アップサイクル成功」と胸を張る。
だがトレ食と南相馬市は、その次を協定に書き込んだ。
連携内容には、もみ殻資源の収集および原料供給体制の構築、もみ殻からリグノセルロースを製造する際に生じるケイ酸カリウムを含む副生成物の農業分野での利用可能性の実証、物流・保管を含む地域企業との協働による地域内サプライチェーン形成、研究開発拠点および事業拠点の市内立地に関する調整が並ぶ。
田んぼから出たものが、工場で材料になり、その工程で出た副生成物が、また田んぼへ戻る。
農業→工業→農業。
小さな輪の中に、もうひとつ輪が入っている構造だ。
新しい産業をつくるとき、ほとんどの事業は「原料をどこから調達するか」だけを考える。
だが循環型の産業設計では、出口の先まで含めて一本の線にしなければ、結局どこかに新しい廃棄物が生まれる。
副生成物の行き先まで協定文に入っている。
地味な一行だが、ここが本質だろう。
同社は本事業を研究開発にとどめず、小規模での試作・製品開発から着手して段階的に生産体制を拡大し、将来的には浜通り地域、さらには全国の稲作地域への展開も視野に入れている。
日本中に田んぼがある。
つまり、原料は日本中にある。

EVは、走り終えてからが長い

舞台は愛媛へ移る。
MobiSavi(本社・横浜市、代表取締役社長 左向貴代)、愛媛日産自動車(本社・松山市、代表取締役社長 岡豊)、L-B.Engineering Japan(本社・横浜市、代表取締役社長 加東重明)の3社は、愛媛県のEVバッテリー関連事業において連携し、国内初となる自動車ディーラーによるEVバッテリー集荷・再利用ハブを構築する。
EVの電池は、車を降りてからが長い。
車載用としての性能を満たさなくなっても、定置型の蓄電池としてなら十分に働く容量が残っていることが多い。
問題は、そこから先だった。
国内ではEVバッテリーの集荷や性能評価を担う拠点が限られており、地域外への輸送コストや物流負担が再利用の普及を妨げる要因となってきた。加えて、リパーパス市場の拡大には品質が確保された中古バッテリーを継続的に供給できる体制が不可欠であり、その安定供給の仕組みづくりが全国的な課題となっている。
重い。危険物扱い。数が読めない。
運ぶだけでコストがかさむ資源は、遠くへ送った瞬間に採算が消える。
だから、拠点を地域に置く。
それが「地域完結型」という言葉の中身である。
愛媛県では、新車EVの普及から中古EVの流通、使用済バッテリーの再利用・リサイクルまでを地域内で完結させる「地域完結型EV資源循環モデル」の構築を推進している。中古EVの流通活性化は昨年度から先行して進められており、本年度はその次の段階として、集荷・性能評価・再利用市場への供給を担う仕組みづくりに取り組む。

なぜ「ディーラー」が起点なのか

今回の設計で最も巧いのは、集荷の起点にディーラーを置いた点だろう。
考えてみれば当然だ。
使用済みのEV電池が最初に姿を現す場所は、廃棄物処理場ではない。車検の現場であり、下取りの現場であり、販売店のピットである。
愛媛日産が受託した「EVバッテリー集荷・再利用ハブ拠点における性能評価スキーム実証等事業」では、複数メーカーの車両に対応可能なハブを構築する。同社はL-B.Engineering Japanによる「LBEJ認証」を取得し、安全な運用体制のもとでバッテリーを集荷し、性能診断および性能評価スキームの設計・実証を行う。
このハブ拠点は2026年10月から試験運用を開始し、回収から供給までの運用プロセスを検証したうえで、令和10年度の本格稼働を目指す。
自動車業界の言葉でいえば、これは静脈物流のインフラ化だ。
売る場所が、戻ってくる場所になる。
そして重要なのは、複数メーカーの車両に対応するという一点である。
自社ブランドだけを回収する仕組みでは、地域の中に十分な量が集まらない。量が集まらなければ、診断設備も人材も採算に乗らない。
循環経済は、規模の経済と無縁ではいられない。
だからこそ、系列を越えた受け皿が要る。

循環を止めていたのは、技術ではなく「信用」だった

使用済み電池を再利用しようとするとき、買い手が最初に聞くのは同じ問いだ。
――それ、本当に大丈夫なのか。
残量はどれだけあるか。劣化はどこまで進んでいるか。安全性は誰が保証するのか。
この問いに答える仕組みがなければ、どれだけ回収しても市場は立ち上がらない。
LBEJ認証は、EV使用済(リユース)バッテリーを安全かつ品質・信頼性を確保して活用するため、EV車両から蓄電池システムまでの一連のプロセスを標準化し、その標準に基づく技術・運用を認証する制度とされている。
診断と認証。
派手さはないが、これがなければ何も動かない。
中古品の市場が成立するかどうかは、モノの質より、質を証明する仕組みの有無で決まる。
中古車に走行距離と査定があり、中古住宅にインスペクションがあるのと同じだ。
もみ殻の話にも、実は同じ構造がある。
樹脂の補強材として採用されるには、物性が安定していることを示さなければならない。ガラス繊維の一部置き換えで添加量を減らしつつ物性を維持する、という目標設定は、そのまま「買い手を納得させるための条件」でもある。
資源を循環させる産業は、素材産業であると同時に、計測と証明の産業なのだ。

街灯になる電池、育てられる人材

愛媛の取り組みには、もうひとつの柱がある。
MobiSaviが受託した「EVバッテリー再利用市場参入促進事業」では、EVバッテリーの製品開発を目指す県内企業約10社を対象に、MobiSaviとLBエンジニアリングが連携して研修プログラムを実施する。あわせて県内施設にLBエンジニアリング製の「非常用蓄電池付きソーラー街灯」を設置し、バッテリーの構造・劣化特性・安全設計からリパーパス製品の開発までの実践的な知識・技術を提供して、地域でリパーパス製品を開発・製造できる人材・企業の育成を進める。
回収の仕組みだけをつくっても、使い道をつくれる企業が地域になければ、資源は結局よそへ流れる。
だから同時に人を育てる。
そして選ばれた最初の製品が、非常用蓄電池付きのソーラー街灯だというのが示唆的だ。
災害時に灯りが残る。日常は街を照らし、非常時は電源になる。
自動車を走らせた電池が、街を守る設備になる。
再利用は、環境負荷の削減であると同時に、地域の防災インフラの増強でもあり得る。
3社はこの取り組みを、県内での「バッテリーリパーパス製品化」と「リパーパス市場の形成」まで完結できる仕組みの確立につなげ、得られたノウハウを他地域へ展開することを見据えている。本事業は、愛媛県が推進する「えひめEVサーキュラーエコノミー推進協議会」の取組を具体化するものと位置づけられている。

「再生材○%」では測れないもの

もみ殻とEVバッテリー。
農業副産物と工業製品。植物由来と鉱物由来。片方は毎年生え、片方は10年に一度出る。
これほど違う資源が、ほぼ同じ設計思想にたどり着いたことに意味がある。
①地域で発生する
②地域で診断・加工する
③別の役割を与える
④地域へ戻す
この四つの工程は、どの資源にも当てはまる汎用のフォーマットだ。
そして、いずれの工程も「輸送距離」と「証明の仕組み」に強く縛られている。
循環経済を再生材の含有率だけで語ると、この構造が見えなくなる。
含有率は成績表であって、設計図ではない。
問われているのは、資源がどこで生まれ、誰が価値を判定し、どの産業へ渡され、最後にどこへ戻るのかという地図である。
その地図が地域の中で閉じるほど、輸送に伴う排出は減り、雇用は残り、災害時の自立度は上がる。
環境対策としてではなく、地域産業の設計として。
南相馬と愛媛が同じ日に示したのは、その現在地だった。

輪は、閉じるだけでは足りない

最後に、あえて注文をつけておきたい。
もみ殻の事業は、まだ本格稼働の入り口にある。小規模な試作から段階的に生産体制を拡大していく計画で、副生成物の農業利用も「実証」の段階だ。
EVバッテリーのハブも、2026年10月に試験運用が始まり、本格稼働は令和10年度が目標である。
構想として美しい循環が、経済としても回るのか。
そこはこれから数年かけて検証されることになる。
だが、方向は明確だ。
遠くの大工場へ集約する効率と、地域の中で完結させる強靭さ。そのバランスが、資源の性質ごとに問い直され始めている。
輪を閉じる(Close)だけでなく、投入する資源そのものを減らし(Narrow)、長く使う(Slow)。
循環経済の基本に立ち返れば、もみ殻の樹脂補強材はNarrowであり、EV電池のリパーパスはSlowである。
捨てないことが目的ではない。
使い切ることが目的だ。
田んぼの脇に積まれたもみ殻も、販売店の裏のバッテリーも、まだ役目が残っている。
その残りをどう見つけ、どう渡すか。
循環経済の現在地は、そこにある。

参照:

「トレ食株式会社、福島県南相馬市と『農業副産物資源循環型産業の創出』に関する連携協定を締結」(トレ食・2026年8月7日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000075323.html

「MobiSaviと愛媛日産、国内初の自動車ディーラーによるEVバッテリー集荷・再利用ハブを構築」(MobiSavi・2026年8月7日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000159145.html

FAQ

Q. 今回の二つの取り組みに共通する考え方は何ですか?
A. 地域で発生した資源を、地域で診断・加工し、別の役割を与えて地域へ戻すという点である。遠方の処理施設へ送って終わりにするのではなく、資源が地域の中を巡る仕組みそのものを産業として設計している。

Q. もみ殻由来リグノセルロースとは何ですか?
A. もみ殻からシリカ(ケイ酸)を取り除いて抽出される、セルロースとリグニンを含む植物由来の材料である。トレ食はこれを樹脂の補強材として活用し、ガラス繊維の一部置き換えを目指している。

Q. なぜもみ殻の処理が地域課題になっていたのですか?
A. もみ殻はシリカを多く含むため燃えにくく、土にも還りにくい。福島県浜通り地域では稲作の再生が進む一方で、受け入れ先が十分に回復せず、処理が課題となっていた。

Q. ガラス繊維の代替には、どんな意味がありますか?
A. ガラス繊維は製造時のエネルギー負荷や成形機の摩耗、廃棄・焼却時の課題が指摘されている。一部を植物由来材料に置き換えられれば、製造から廃棄までの負荷を下げられる可能性がある。

Q. 「農業→工業→農業」とは具体的にどういうことですか?
A. もみ殻という農業副産物を工業材料に変え、その製造過程で生じるケイ酸カリウムを含む副生成物を、肥料として農業に戻す実証に取り組むという流れである。出口の先まで設計に含めている点が特徴となる。

Q. EVバッテリーの「リパーパス」とは何ですか?
A. 車載用としての役目を終えた電池を、定置用蓄電池など別の用途へ転用することを指す。素材まで分解して原料に戻すリサイクルより前の段階で、残っている性能をそのまま活かす考え方である。

Q. なぜ自動車ディーラーが集荷の起点になるのですか?
A. 使用済みEVバッテリーが最初に発生する現場が販売・整備の拠点だからである。複数メーカーの車両に対応するハブにすることで、地域内で一定量を集め、診断や供給の仕組みを成り立たせやすくなる。

Q. リユース電池の普及を妨げてきたものは何ですか?
A. 集荷や性能評価を担う拠点が限られ、地域外への輸送コストや物流負担が重かったこと。加えて、品質が確保された中古バッテリーを継続的に供給できる体制がなく、買い手側が安心して調達できなかったことが挙げられる。

Q. 認証や性能診断は、なぜ重要なのですか?
A. 中古の資源は、質そのものよりも「質を証明する仕組み」があるかどうかで市場が成立する。安全性と品質を標準化して示せなければ、製品化する企業も投資判断ができない。

Q. こうした地域循環モデルは、他の地域にも広がりますか?
A. 両者とも他地域への展開を視野に入れている。もみ殻は全国の稲作地域に存在し、EVバッテリーも普及に伴って各地で発生する。ただし、いずれもまだ実証・試験運用の段階にあり、経済的に成立するかは今後の検証にかかっている。

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