美しき室内気候空間
CO2フリーを志向し、地球沸騰と指摘される気候変動の日々を生きていくためには、先進的な科学思考、正しい知恵と技術をライフスタイルに採り入れることが大切だ。
今回のダイアローグに参加した北海道が生んだ建築家・遠藤謙一良さんは、自身のアトリエづくりで地産地消の木を使い、室内気候デザインのアプローチで、快適・省エネルギーの見事な室内空間を作り出した。
まさに「風と、森と、エネルギーの治癒力」を具体化した、これからの時代の手本とすべき木造建築空間だ。
北海道の代表樹種であるエゾマツを使い、森から建築をつくった遠藤建築アトリエ(北海道・札幌市)の2階天井部。有機的なラインを描いた一本一本の美しい梁が、まるでプロペラの羽根のようにも思えて印象的だ。ただの真四角な箱ではなく、この緩やかなカーブを天井に配することで空気の循環を空間全体に生み出し、心地良い室内気候を生み出すことに成功している。
GOOD DESIGN AWARD 2020(グッドデザイン賞)受賞。
遠藤建築アトリエの設計は、見えるデザインと見えないデザインの目標が設定されている。見えないデザインとして強化されてるのが、建物の外皮性能を高め、暖房は1階の床下の外断熱された基礎とスラブのコンクリートの蓄熱を利用した温水パイプによる床下のみとしていること。そして熱の温度差と換気による空気の対応で2階には暖房機を設置せず、限りなく自然に近い空気の循環を生み出し、室内気候を実現している点だ。1階と2階をつなぐこの開放的な階段スペースも、上下階の空気の流れが還流しやすいように巧みに設計されている。
2階の床にデザインされた、小さな穴が線上に規則的に並べられたスリット。この小さな穴から1階で暖められた空気が常に2階に上昇してくる。
こちらは1階床に設計された空気穴。快適な室内気候空間を実現するためには、熱環境デザインが極めて重要で、空中の温度よりも床の表面温度作りがポイントになる。遠藤さんはこの理論の実証化を進めている札幌市立大学・齊藤雅也教授とタッグを組み、小型省力ボイラーで温めた低温度の温水パイプを床下に這わせた。この放射熱が写真の空気穴からまず1階床表面を温め、温められた空気が、1階、2階の室内全体を循環することになる。
自然木材を使い、空気の流れや採光の力も最大限に採り入れた広々とした空間。寒冷地の北海道で極めて省エネルギー化された室内環境デザインの成功は、高温化する夏場の建物や、北海道以外のエリアでの設計導入も可能だと遠藤さんは語る。同アトリエで働くスタッフの方たちも室内熱環境に身体が「寒冷馴化」し、快適さを楽しんでいる。
遠藤さんは道産材を使ったプロダクトデザインにも積極的に取り組んでいる。写真は、エゾ山桜のフレームを使ったラウンジチェア。「北海道洞爺湖 鶴雅リゾート 洸の謌の音楽堂」のために作ったもの。
見えるデザインとして表現された、格子状の木の外壁と金属パネル、ガラスの組み合わせが存在感を放っている遠藤建築アトリエの外観。在来工法の進化形として地産のエゾマツをふんだんに使って格子状の構造デザインを行い、HPシェル形状の金属パネルを屋根にした。北海道の美しい四季の深緑、自然光による反射や格子の陰影、雪の吹雪を受けとめ、雪の風紋の風景の変化とこの地の自然を受けとめ表現するファサードデザインだ。