理化学研究所の研究チームが、ショウジョウバエを用いた実験で、非必須アミノ酸の一つであるチロシンの摂取制限が個体の寿命延長に寄与することを発見した。この研究は、栄養素の役割に対する理解を深め、将来的な健康寿命の延長に貢献する可能性がある。
非必須アミノ酸の意外な役割
理化学研究所(理研)生命機能科学研究センターの栄養応答研究チームが、ショウジョウバエをモデルに、10種類の非必須アミノ酸が個体の健康と寿命にどのような影響を及ぼすかを解析した。特にチロシンの欠乏が、寿命の延長と関連していることが明らかとなった。
研究チームは、ショウジョウバエに対し、10種類の非必須アミノ酸をそれぞれ欠乏させた合成餌を与え、個体の寿命や代謝の変化を詳細に調査した。その結果、チロシンを除去した餌を摂取した場合に、寿命が延長することが確認された。この現象は、栄養シグナルがチロシンによって調節されることを示唆しており、食欲や生殖能力、個体の寿命に影響を与えることが判明した。
さらに、チロシンの摂取量に応じて動物体内での生合成や消費の状況が異なることも分かった。この成果は、栄養学の基礎研究のみならず、将来的な栄養介入による健康寿命の延長にも寄与する可能性がある。
近年、タンパク質や特定のアミノ酸の摂取制限が、さまざまな動物で健康寿命を延長することが報告されているが、非必須アミノ酸が寿命に及ぼす影響は十分に研究されていなかった。今回の研究により、チロシンがタンパク質全体の摂取制限と同様に寿命を延ばす可能性が示された。
興味深いことに、チロシン制限による寿命延長は、個体の状況により大きく左右されることも分かった。例えば、チロシンの前駆体であるフェニルアラニンが豊富な場合や、産卵不全のメス個体では、寿命延長の効果はほとんど見られなかった。このことから、チロシン制限の影響は、アミノ酸の使用量や生合成量、性別などに依存することが明らかとなった。
また、非必須アミノ酸の摂取制限が個体の生理にどのように影響するかは、必須アミノ酸とは異なる複雑なメカニズムが関与している可能性が示唆された。今回の研究では、ショウジョウバエのメス成虫を用いて実験が行われたが、今後は他の動物や人間での応用研究が期待される。
理化学研究所の研究成果は、栄養学と老化研究の新たな視点を提供し、将来的には栄養素を調整することで健康寿命を延長するための新しいアプローチとなることが期待される。
プレスリリースはこちら