北海道千歳市は、次世代半導体の量産を目指すラピダスの進出を契機に、国際的な注目を集めている。同時に、観光施設でも持続可能性に重点を置いた取り組みが進み、世界標準の観光品質を目指す動きが加速している。地域経済の活性化と観光価値の向上という二つの軸で発展を続ける千歳市の最新状況を追った。

ラピダスがもたらす最先端技術の拠点化。

千歳市は、世界最先端の半導体量産を目指すラピダスの進出により、次世代技術の拠点として成長を遂げている。ラピダスの工場には、オランダから運び込まれた全長10.3メートル、重量70トンのEUV露光装置が設置され、2025年春には試作品の製造が始まる予定だ。この技術は、回路幅2ナノメートル以下という世界最先端の半導体製造を可能にするもので、技術革新の鍵を握っている。
千歳市には、すでに国内外の半導体関連企業33社が進出しており、さらに47社が進出を検討中だ。東京エレクトロンやオランダのASML社といった主要企業も含まれており、地域経済への波及効果は2036年までに約18.8兆円に達すると試算されている。新たなオフィスや工業団地の整備が進む中、住宅需要も急増し、千歳市は技術と住環境の両面で急速な発展を遂げている。

観光施設でのSDGs認証、地域の魅力を世界基準へ。

ラピダスの進出と並行して、千歳市では観光施設の国際的な品質向上も進んでいる。その象徴的な事例の一つが、老舗温泉旅館「湖畔の宿支笏湖 丸駒温泉旅館」の取り組みだ。同旅館は、日本国内の宿泊施設向けSDGs認証制度「サクラクオリティAn ESG Practice」を北海道の温泉施設として初めて取得した。

「サクラクオリティAn ESG Practice」認証 ロゴマーク

この認証は、米国GSTC(Global Sustainable Tourism Council)基準に基づくもので、環境負荷削減や地域貢献といった172項目の厳しい基準をクリアした施設のみに与えられる。丸駒温泉旅館では、プラスチックアメニティ削減や給水ステーションの設置、地域の間伐材を活用した完全無電力サウナの導入など、持続可能性を意識した具体的な取り組みが評価された。

地域を舞台にした、科学技術と自然環境の共存の行方。

千歳市は、最先端技術と観光資源を組み合わせた、独自の発展を遂げていく可能性を秘めている。ラピダスによる技術革新の一方で、丸駒温泉旅館のような施設が地域の自然や文化を守りながら、持続可能な観光地としての価値を高めていくからだ。支笏湖を中心とした観光資源は、地元企業との連携や環境保全活動によってさらに進化を遂げている。
観光客に向けた支笏湖の水を使用したクラフトビール開発や売上の一部を環境保全活動に寄付する仕組みは、その象徴的な取り組みだ。また、旅館職員が地元漁業協同組合の組合長を務めるなど、地域社会との密接なつながりを築いている点も注目に値する。
技術と観光の両輪で発展を続ける同市は、北海道の新たな中心地として、地域社会の未来を照らすモデルケースになるかもしれない。次世代半導体技術の拠点でありながら、地域の自然や文化を守る千歳市の取り組みから、科学技術と自然環境の共存がどのように進められていくことになるのか大いに注目したい。

「札幌軟石(さっぽろなんせき)」の建築端材を再利用したエントランス

支笏湖の水を浄水にして、給水ステーションを設置

電力を一切使わない再生可能エネルギーを燃料とした「湖畔のSAUNA」

「支笏湖チップ」の適正な管理を目的として、支笏湖業業協同組合の活動を通じて地域に貢献

丸駒温泉旅館
創業大正4年、北海道支笏湖畔に佇む老舗温泉旅館。展望露天風呂からは支笏湖の絶景が望める。天然露天風呂は全国でも珍しい足元湧出湯で、支笏の自然が生み出す特有の趣と歴史、にごり湯が自慢だ。地元の幸を使用した日本料理は会席スタイル、囲炉裏スタイルと調理法にもこだわりがあり、自然、温泉、料理で現代人の疲れを癒す。
https://www.marukoma.co.jp