日本気象協会が推進する「熱中症ゼロへ」プロジェクトは、2025年の夏を前に、体を暑さに慣れさせる「暑熱順化(しょねつじゅんか)」の重要性を伝えるため、全国の暑さに対する備えの目安を示す「暑熱順化前線(第1回)」を公式サイトで公開した。気候変動により年々猛暑日が早まり、熱中症が“春の災害”としても警戒されるようになるなか、熱中症は予防可能な気象災害であるというメッセージが今、改めて注目されている。

春から始める「暑さ対策」。予測不能な猛暑への“備え”が命を守る。

「熱中症は台風や大雨と同じ“気象災害”であり、予防可能である」。そう語るのは、日本気象協会が進める「熱中症ゼロへ」プロジェクトの担当者だ。プロジェクトが提唱するのは、単なる警戒ではなく、“春の段階から始める熱中症対策”という新たなライフスタイルである。
2024年の夏、日本列島は記録的な猛暑に見舞われた。7月には太宰府市で62日間の猛暑日を観測し、国内歴代最多記録を更新。9月になっても高温傾向が収まらず、救急搬送者は過去最多の97,000人を超えた。こうした背景を受け、今年は特に「暑熱順化」に対する社会的関心が高まっている。
暑熱順化とは、体が暑さに適応できるよう、日々の生活のなかで意識的に汗をかくことを通じて、暑さに強い体をつくるプロセスのことを指す。具体的には、軽い運動や湯船での入浴などが推奨されており、数日から2週間かけて少しずつ体を慣らしていくことが重要だという。
今回発表された「暑熱順化前線」は、全国的に気温が上がり始め、暑熱順化を始めるべき時期を示す目安であり、これに合わせて暑さへの備えを呼びかけている。併せてプロジェクトの公式サイトでは、暑熱順化の手順や「ポイントマニュアル」なども無料で公開しており、家庭や職場など様々なシーンで活用できる工夫が施されている。

気象災害の中でも唯一“予防できる”災害、熱中症。

プロジェクトではエアコンの点検や暑さ対策グッズの準備など、日常的な「暑さへの備え」も啓発している。猛暑が「異常」ではなく「前提」となった現在、従来の感覚で夏を迎えることはもはや危険とされている。2025年の夏も、気象予測では平年より高温傾向が続くとされ、記録的な猛暑が再来する可能性が指摘されている。
「熱中症は、気象災害の中でも唯一“予防できる”災害」。この考え方を社会全体で共有することが、今後の災害対策の新たな柱になるだろう。気象協会は、Xや公式サイトを通じて暑熱順化の情報を継続的に発信し、6月には「暑熱順化前線(第2回)」の公表も予定している。
都市部のヒートアイランド化や高齢化社会の進行など、熱中症リスクは複雑化している。気象協会が仕掛けるこの“早期対策モデル”は、今後の熱中症対策のスタンダードとなるだろう。「災害は防げる」という意識を持ち、春からの準備を始めることが求められている。

※「熱中症ゼロへ」は日本気象協会の登録商標です。

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