愛知県春日井市の県立春日井高等学校で、新校舎が完成し、2025年4月より利用が始まった。中央部を木造、両端を鉄筋コンクリート造とする平面混構造で、耐火性能を備えた3階建ての木造校舎としては愛知県の公立高校で初の事例となる。構造材や内装材には約525立方メートルの木材を使用し、そのうち約85%が県産材。学習環境の向上と地域材の活用による環境負荷低減を両立している。

木のぬくもりが教育環境を支える、学びと脱炭素を結ぶ新校舎。
新校舎は、住友林業と松田平田設計、高柳組の3社が設計・施工を担当した。中央部の教室群は木造とし、梁、柱、壁、床に至るまで県産材を使用。木の調湿性や心理的な安らぎ効果を活かした空間づくりにより、生徒の集中力を高め、環境意識の醸成を図る狙いがある。
昇降口は純木造で、構造体を現しにした設計(建物の柱や梁などの構造体をそのまま見せる設計)を採用。木質感にあふれた空間は、校舎の象徴的な存在として位置づけられている。今後、既存校舎との接続を担う渡り廊下の建設や旧校舎の解体が進められ、全体の完工は2026年3月を予定している。
構造面では、木造部分と鉄筋コンクリート造部分をピン接合で一体化。床面には鉄筋ブレースを配置し、地震力をコンクリート造部分に効率的に伝達する設計とした。これにより筋交いの必要が減り、開口部を広く確保できる。採光性の高い教室空間は、学習意欲の向上にも寄与すると期待されている。
また、木造による軽量化により基礎の規模を抑え、建設コストの削減にもつながった。木と鉄のハイブリッド構造は、安全性と経済性を両立する新たな校舎設計のモデルとなる。


建物全体で脱炭素に貢献。県産材利用とCO2固定で持続可能性を推進。
新校舎の建設には、約454立方メートルの愛知県産材を使用。建築物に利用した木材が持つ炭素固定量は104トンに達し、40年生のスギ約1200本分に相当するという。省エネ性の高い設備や日射遮蔽用のルーバーも取り入れられ、建物使用時のエネルギー消費を抑制している。
建設時に排出されるCO2(エンボディドカーボン)と、使用時のCO2(オペレーショナルカーボン)の双方に配慮し、環境負荷をライフサイクル全体で最小化する。脱炭素社会の実現に向けた教育施設の先行モデルとして、今後の普及が注目される。
愛知県産材をふんだんに使った新校舎は、地域資源の有効活用と環境教育の融合を象徴している。木造校舎に囲まれて学ぶ生徒たちは、自然素材に触れる日常を通じて持続可能性への理解を深めていく。
校舎の設計と施工を手がけた住友林業は、森林経営から建設、不動産、エネルギー事業まで「木」を軸に幅広い事業を展開しており、今回のプロジェクトはその長期ビジョン「Mission TREEING 2030」に基づく取り組みの一環と位置付けられている。
木造教育施設の新たな可能性を示した今回の新校舎は、今後の学校建築や公共施設のあり方に一石を投じる存在となる。