東京建物株式会社と宗教法人三津寺が共同で開発を行った「東京建物三津寺ビルディング」が、日本不動産学会の業績賞「日本不動産学会長賞」を受賞した。歴史ある木造本堂の保存と、ホテル・商業施設の開発を一体で実現した都市型複合プロジェクトが、建築的・文化的・経済的観点から高く評価された。

曳家三度、江戸期の木造本堂を守り抜いた都市再生のモデル。
大阪・心斎橋の繁華街に位置する「三津寺」は、創建744年、現在の本堂は1808年に再建されたと伝わる真言宗の名刹。かねてより未活用だった境内地の上部容積を活用し、東京建物と三津寺が連携して進めたのが「東京建物三津寺ビルディング」開発だ。
このプロジェクトの最大の特徴は、200年を超える歴史を持つ木造本堂を現地に保存しながら、ホテル・店舗機能を併設した高層建築を実現した点にある。敷地の狭さから本堂と新築建物を並列配置できないため、区分所有建物の低層部3層吹き抜けピロティ内に本堂を納める“縦列配置”の構造が採用された。この実現には、3度にわたる曳家工事を実施。本堂の構造体を損なうことなく、原形のまま再配置した高度な保存技術が評価された。
また、既存本堂を新築建物の耐火構造物で覆う設計により、防災性能の向上と建築物としての安全性を両立。文化財的価値と現代建築の融合という、国内でも稀な手法で都市型寺院の再生に成功した事例と言える。


寺とホテルの境界をなくし、まちに開かれた新たな交流空間を創出。
三津寺が面する御堂筋は、大阪市の「御堂筋将来ビジョン」により2037年にフルモール化される予定で、沿道空間の活性化が進められている。本プロジェクトはこの都市改造の流れに呼応し、境内とホテルを御堂筋からの人流が自由に行き来できる構造になった。
日中は境内を一般開放して、参拝者だけでなく観光客や地域住民も気軽に訪れることができる空間を実現し、護摩行や講演会、音楽ライブなどの多彩なイベントが定期的に開催され、都市寺院として地域コミュニティの核となる役割を果たしている。
また、寺の上階にはカンデオホテルズ大阪心斎橋が入居し、宿泊客が境内を通ってロビーにアクセスする動線が設計されている。宗教空間と商業施設が物理的にも精神的にも一体化した、実に斬新な都市空間が創出された。

文化財保護と観光体験の両立で、都市と歴史と未来をつなぐ、不動産開発の新たな地平を示す事例。
三津寺本堂の天井には、江戸美術を象徴する100点以上の花卉図が描かれている。本開発にあたっては、スプリンクラー設置に伴い一部が損なわれる可能性があったが、京都市立芸術大学との連携により文化財としての価値を守る対策が講じられ、花卉図の模写保存が実現した。
さらに本堂では「絵写経」体験など、仏教文化と芸術体験を組み合わせた宿泊プランを提供。写経と写仏を融合したこの新しい文化体験は、インバウンド観光客にも高い評価を得ており、日本文化に触れる“場”として国際交流の促進にも寄与している。
「東京建物三津寺ビルディング」は、不動産開発における従来の土地利用や建築手法の枠を超え、宗教・観光・文化・経済を複合的に結びつける画期的な事例になった。
狭隘地での開発制約を創造的に克服しつつ、伝統建築を保存しながら新たな都市価値を創出した点で、不動産学の観点からも高い評価を受けている。この事業は都市寺院の再生や歴史建築の保存活用モデルとして、全国各地の開発やまちづくりのヒントになるだろう。

